目次
はじめに――教育相談の目指すところ
第1章 教育相談とは――この旅の目的
第1節 教育相談を捉えなおす
1 冒険の旅の手引き~『生徒指導提要』
2 教育相談と生徒指導との関係
3 「学校」における教育相談という位置付け
4 まとめ:教育相談とは一体何なのだろう
第2節 教育相談におけるチームづくり
1 新しいチームをどう考えるか?
2 新しいチーム・アプローチに向けて
3 おわりに
第2章 教育相談を担う仲間たち
01*それぞれのシナリオの主人公 子ども
02*学校の最前線の担い手 教師(担任)
03*校内のギルドマスター 学年主任、教育相談担当教員、主幹教諭
04*学校の責任者 管理職
05*心身のリスクセンサー 養護教諭
06*学校の作戦参謀 スクールカウンセラー
07*学校コミュニティの遊撃手 スクールソーシャルワーカー
08*学校の側面支援基地 教育相談センター
09*眠れる資質を引き出す祠 通級指導教室
10*折れた勇気を蘇らせる修行の場 適応指導教室
11*可能性を秘めた村人 学校ボランティア
12*隠れ里の賢者 フリースクールスタッフ
13*「剣」を活かす癒し手 医師
14*子どもの福祉を守る最後の砦 児童相談所/児童養護施設
15*憑き物落としのプロフェッショナル 警察・司法関係者
16*ケースの命運を左右するキーパーソン 保護者
第3章 児童期・思春期の発達に関する知識と基本スキル
第1節 身体の成長
1 教育相談と身体
2 児童期の身体・脳の成長
3 思春期の身体・脳の成長
4 児童期・思春期に起こる身体を巡るトラブル
5 おわりに:教育相談を行うポイント
第2節 認知・学習
1 児童期の認知・学習の発達
2 思春期の認知・学習の発達
第3節 仲間関係
1 児童期の仲間関係
2 思春期の仲間関係
第4節 心の発達
1 児童期の心の発達
2 思春期の心の発達
第5節 基本スキル
1 ホールドする
2 語り合う
3 子どもに問う
4 傾聴する
5 つなぐ・つながる
6 わかりあう
第4章 学校で起きる諸課題の特徴
01*教育界の大厄災 いじめ
02*「仮想的【無能感】のアリジゴク」 不登校
03*「わかってもらえないもん」妖怪ゴカイニャン 発達障害
04*勇者に降りかかった呪い アタッチメントに関わる課題
05*偽りの姿を纏うゴースト 児童虐待
06*気まぐれな恐怖の大王 自然災害
07*忍び寄る混乱の刺客 「危機」対応(自殺など)
08*怒りと悲しみにとらわれたキーパーソン 保護者支援
終章にかえて――大魔王の正体とは
文献一覧
おわりに
索引
前書きなど
はじめに――教育相談の目指すところ
(…前略…)
冒険の旅としての教育相談
教育相談は、学校の先生だけで行うものでもなく、さらに、子どもの心理や教育の専門家が行うものでもなく、「みんな」で取り組むオトナの仕事だと考えます。従って、この本は、専門家だけでなく、学生や一般の方々にもぜひ手に取ってもらいたいと考えて作られています。そこで、本書では、どんな方にも理解していただけるように、この「オトナの仕事」をドラゴンクエストのようなロールプレイング・ゲーム(RPG)の冒険の旅になぞらえてみることにしました。
2015年に、文部科学省は「チーム学校」という考え方を提案しました。この考え方の中には“協働の文化”、つまり、学校教育に参画する専門能力を持ったスタッフと教師が子どもの教育を共に担っていくという意識と相互理解の重要性が謳われています。それぞれの学校スタッフは、児童生徒の成長を手助けするために、チームを組んで問題(例えば、いじめや不登校、虐待のような現象)に挑むことになります。彼らは、学校の内外から仲間を募ることができます。ある教師は、不登校の児童生徒を担当したときに、子どもの状態を見立てるために、スクールカウンセラーに協力を求めるかもしれません。そのスクールカウンセラーが児童生徒から、保護者に虐待されているという情報を聴取したならば、担任教師、養護教諭、管理職、医師、児童相談所、そして「子どもと同じように困っている」保護者ともチームを組もうとするかもしれません。
このような連携・協働は、RPGにおける冒険に喩えることができるでしょう。RPGでは、あなたが主人公となり、この世界に起こっている問題の全体像を知るために旅に出ます。そして、この世界に起こっている大きな問題に関連する様々な課題に挑みます。しかし、この教育相談のストーリーでは、あなたは、自分一人だけの力で子どもを困難(不安な状況に喩えられます)や課題(モンスターに喩えられます)から守れるスーパーヒーローには決してなれません。かわりに、あなたは、課題の性質に応じて、共に旅をしてくれたり、共に課題に立ち向かってくれる仲間を選択できます。どのような仲間を選ぶかは、自分の力量と課題の性質を理解して、選択することが望ましいでしょう。例えば、RPGでは、自分と仲間がともにモンスターを倒すことが得意だったとしても、挑む課題が巨大な迷宮であったならば、そのメンバーだけで迷宮に挑んだら、道に迷ってしまうかもしれません。そのようなときのために、自分にはできない特技や知識を持った(例えば、その土地をよく知っているなど)仲間を選ぶと、この課題を乗り越えやすくなるでしょう。それと似たようなことです。
このように「チーム学校」という考え方のもとでは、児童生徒の学びと育ちを支える専門家たちは、一方で自分と仲間の得手不得手を理解し合い、もう一方で課題の性質を理解しながら、チームを組んで、長所をいかし、不足点を補い合って、児童生徒を取り巻く課題に挑むことが推奨されます。つまり、課題の性質に関する知識だけでなく、課題に合わせて、どの仲間とチームを組み、自分がどのような役割を担うことが有効なのかを検討する能力も必要とされるのです。
さらに、単に目の前の課題を解決することばかりに目を奪われて、その課題の原因を子どもや保護者や教師など個人の問題や、家庭や学校など小さな組織の問題に帰するのではなく、それらの背景にある、この社会の大きな問題との関連で捉える視点を持ちたいとも、私たちは思うのです。
というわけで、このテキストで捉えている「教育相談」とは、大きなプロジェクトを意味することをご理解いただけたことでしょう。これは、学校というフィールドの内外で、同じミッション(子どもの学びと育ちを支えること)を持った仲間たちと出会い、学校の中で日々生じる様々な困難や課題を協力し合って解決していくことを通して、子どもとともに自らも成長していく、というストーリーです。従って、あなたがどんな役割や個性や得意技を持った人であるのかを知ることが重要であるとともに、他の仲間がどんな役割や個性や得意技を持っているのかを知っておくことも重要になります。