目次
はしがき[川名晋史]
序章 基地と世界[川名晋史]
第1章 沖縄[池宮城陽子]
第Ⅰ部 欧州
第2章 デンマーク/グリーンランド[高橋美野梨]
第3章 ドイツ[森啓輔]
第4章 スペイン[波照間陽]
第Ⅱ部 中東・アフリカ
第5章 トルコ[今井宏平]
第6章 サウジアラビア[溝渕正季]
第7章 ジブチ[本多倫彬]
第Ⅲ部 アジア・太平洋
第8章 韓国[石田智範]
第9章 豪州(オーストラリア)[福田毅]
第10章 フィリピン[大木優利]
第11章 山口[辛女林]
第Ⅳ部 米領
第12章 グアム[齊藤孝祐]
第13章 プエルトリコ[大澤傑]
あとがき[川名晋史]
前書きなど
はしがき
本書が刊行される2022年は沖縄の本土復帰50年の節目にあたる。この間、沖縄では米軍関連の事故や事件が多発し、基地の受け入れに対する県民の反発は依然として大きい。普天間基地の名護市辺野古への移設問題は日本の政治の争点となったまま長らく膠着している。それゆえ、沖縄の基地問題に関心をもつ人は多く、さまざまな立場の政治家や評論家がいろいろな角度から意見を表してきた。しかし、彼らのよって立つ知識や解決策を思考するための基準はまちまちであり、私たちがこの問題の全体像を理解するのは容易ではない。
沖縄の基地をめぐる立場には、あえて単純化すれば、基地の存在を肯定し、積極的に維持しようとする「保守派」と、それを容認せず、撤退・縮小を求める「リベラル派」の2つがある。前者は沖縄における基地の集中をあたかも「地理的宿命」のようなものと捉え、後者はそれを構造的な差別の結果だとみる。そのため両者の言葉は噛み合わず、政策の妥協点も見出しづらい。
問題なのは、こうした状況が人々に対して、沖縄の基地問題が難解であるだけでなく、「厄介」だとの印象を与えてしまうことである。とりわけ自らの生活圏に基地をもたない人にとってこの問題はまるでイデオロギー論争のように映っており、このことが沖縄基地問題の理解をますます遠ざける要因となっている。沖縄の基地をめぐる政治の停滞から脱するためには、まずはこの二項対立的な議論の図式から変えていかなくてはならない。
そこで本書は、基地問題に関心があるもののどこから勉強を始めたら良いのかわからない読者を対象に、あるいは特定の政治的立場にとらわれずにこの問題をフラットに考えてみたい読者を対象に、他国で起きている基地問題がいかなるもので、それと沖縄の基地問題がどのように違うのかを考える視点を示したい。本土復帰から50年を迎えた今、この問題を論じるうえで決定的に欠けているのは、他国との比較だろう。
(…後略…)