目次
はしがき
序章 「学士課程教育の国際化」とは何か――本書の目的・背景・概要[米澤彰純/嶋内佐絵/吉田文]
第1節 なぜ、学士課程教育改革を問い直すのか
第2節 グローバル化を世界的な視野で捉える
第3節 国際的視野への転換を担う学士課程教育
第4節 本書の分析枠組みと各章の位置付け
第1部:国際的視野への転換を担う学士課程教育
第1章 大学教育における多文化をめぐる揺らぎ――オーストラリア[ジェレミー・ブレーデン/米澤由香子]
第1節 はじめに――問題の所在
第2節 多文化社会の形成と教育の役割
第3節 多文化主義と大学国際化の相反する主張
第4節 大学国際化における多文化主義的視点の欠落
第5節 おわりに――多文化社会とグローバル化した市場を結ぶ、大学の古くて新しい役割
第2章 ユニバーシティカレッジの国際化革命――オランダ[嶋内佐絵/ドン・F・ウェスターハイデン/ヨリト・スナイデル]
第1節 はじめに
第2節 ユニバーシティカレッジとは何か
第3節 ユニバーシティカレッジ設立の前提条件となった外在的要因
第4節 学士課程のイノベーションを生んだ内在的要因とハイブリッドモデルとしてのユニバーシティカレッジ
第5節 ユニバーシティカレッジが表象するもの――収斂/分化と二極化
第6節 おわりに
第3章 英語重視の大学教育の帰結――韓国[嶋内佐絵/金良善]
第1節 はじめに
第2節 英語化を促進する外在的要因
第3節 国際化と英語化をめぐる政府と大学の動き
第4節 変わりゆく「国際化」と英語化の帰結
第5節 おわりに
第4章 多民族国家のアイデンティティ形成と大学教育――マレーシア[佐藤万知/チャンダー・ワン]
第1節 はじめに
第2節 背景
第3節 言語使用の実態
第4節 おわりに
第2部:学士課程教育の国際伝搬がもたらすもの
第5章 敗戦国日独への一般教育の導入とその帰結[吉田文]
第1節 はじめに――問題の設定
第2節 教育のグローバル化の理論的視座
第3節 分析の枠組み
第4節 教育使節団の日独への派遣――非軍事化と民主化を求めて
第5節 対日教育使節団報告書における一般教育の扱い
第6節 対独教育使節団報告書における一般教育の扱い
第7節 日本における一般教育の受容と普及活動
第8節 ドイツにおける一般教育の提案と拒絶
第9節 アメリカの眼差し・アメリカへの眼差し
第6章 東アジアにおける一般教育の新展開[黄福涛]
第1節 はじめに
第2節 日本、中国と香港へのアメリカのモデルの導入と影響
第3節 考察
第7章 日本の学士課程教育改革の陥穽――参照軸としてのイギリス[大森不二雄]
第1節 はじめに
第2節 イギリスモデルを後追いした教学マネジメントと内部質保証
第3節 似て非なる大学の法人化とガバナンス改革
第4節 大学改革の日英比較――政策デザインの視点から
第3部:日本の大学教育国際化の課題
第8章 国際化から取り残される日本の学士課程教育[太田浩]
第1節 はじめに
第2節 大学国際化の世界的動向
第3節 日本の高等教育における国際化
第4節 日本の高等教育における国際化の現状と課題
第5節 示唆と結語
第9章 シンドローム化する大学教育の国際通用論[米澤彰純]
第1節 はじめに
第2節 背景――質保証の国際的連携のための制度整備
第3節 質保証の国際的連携のアクターと役割
第4節 国際市場との関係をどう整理するか?
第5節 おわりに
第10章 パンデミック以後を見据えた国際教育の行方[米澤彰純/太田浩/池田佳子/米澤由香子]
第1節 はじめに
第2節 コロナ禍が学生の国際移動と大学の国際教育に与えた影響
第3節 オンラインでの国際教育の可能性
第4節 新しい現実における国際教育へ
終章 日本の学士課程教育の今後をどう考えるか[米澤彰純/嶋内佐絵/吉田文]
第1節 本書の枠組み
第2節 各国事例と日本の位置付け
第3節 ポストコロナにおける日本の学士課程教育の課題
第4節 おわりに
前書きなど
はじめに
本書は、日本の大学教育の国際化について、その国際的な位置付けと将来展望を考えるための学術書である。われわれは、現在の学士課程教育が、国民形成・統合を主要目的とする中等教育までの学校教育と、卒業後のボーダーレスでグローバルな市場と人の流れとの間に位置し、それゆえに学生がその視野を国際的なものへ転換させること促す機能を担っていることに着目する。そのうえで、各国の大学が相互に影響を受け合いつつも、それぞれの固有の文脈のもとで国際的な学士課程教育を展開していると考える。さらに、Covid-19パンデミックとその影響下で加速したヴァーチャルな国際教育の広がりを見据えながら、日本の大学教育の今後の展望を示す。
本書は、2016-19年度の科研費基盤研究(B)「大学教育のグローバル・スタディーズ 競争・連携・アイデンティティ」(研究代表者米澤彰純16KT0087)の研究成果を中心として構成されている。この科研プロジェクトは、当時科研の特設分野として設定された「グローバル・スタディーズ」というカテゴリーで採択されたものである。本書の著者たちは、高等教育を国際的な視野で捉え、その国際的な展開を対象に社会科学のアプローチによって研究しているという意味では共通しているが、各々の学術的な基盤や背景は、比較教育、国際教育、高等教育、教育社会学など多様である。学士課程をグローバル・スタディーズという学際的な学問の視点から考察するにあたり、各著者、プロジェクト参加者の多様な学術的視点やアプローチを活かしながら、対話を重ねる形での研究を心がけた。
(…中略…)
私たちは、本書を通じて、日本の大学教育の国際化の推進には、世界の大学教育改革の背景にある幅広く多様な文脈の複眼的な分析を通じたその正確な理解が必要なこと、そして、今後の大学教育の中心的な価値を、定められた共通知識・技能の獲得という同質性を基盤とするものから、異なる他者への理解と関わりへと一層転換させていくことが重要であることを示そうとした。
(…後略…)