目次
特集:日本における移民の社会統合という課題
特集の趣旨[小井土彰宏:亜細亜大学教授/一橋大学名誉教授]
移民統合政策指数(MIPEX 2020)等にみる日本の課題と展望[近藤敦:名城大学教授]
移民政策のための統計基盤[林玲子:国立社会保障・人口問題研究所副所長]
在日外国人の健康支援――生活者としての「健康権」保障の視点から[李節子:長崎県立大学教授]
守られていない外国籍の子どもの教育への権利と命――「真のSDGs達成」に向けて日本が取り組むべきこと[小島祥美:東京外国語大学准教授]
投稿論文
コロナ禍の地方都市における外国人住民に対する意識――金沢調査の分析から[若山将実:北陸学院大学教授/俵希實:北陸学院大学教授]
滞日ムスリムのネットワークとトルコを拠点とするシリア人NGOの連携――大塚モスク・JITを起点とするシリア難民支援[佐藤麻理絵:京都大学大学院助教]
在日インドネシア人女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ――妊娠・避妊に関する調査から[高向有理:西日本短期大学教授/田中雅子:上智大学教授]
人材育成に基づく技能実習制度の在り方――帰国後ベトナム人技能実習生の調査を通して[岩下康子:広島文教大学准教授]
「世界のウチナーンチュ」と越境的ネットワーク――沖縄県の政策に着目して[藤浪海:関東学院大学講師]
Friendship, Rivalry or Indifference?:Understanding the Attitudes of Japanese Workers Toward Technical Intern Trainees[Kathy Okumura:Kobe College]
報告
外国人への退去の「強制」がもたらした現状――個人の権利と尊厳を守る先にあるもの[檜山怜美:特定非営利活動法人なんみんフォーラム事務局]
コロナ禍における外国人集住地域での支援現場からの報告――支援者の立場から見る共生の課題と困難[伊東浄江:特定非営利活動法人トルシーダ代表]
書評
南川文里著『未完の多文化主義――アメリカにおける人種,国家,多様性』[塩原良和]
永吉希久子編著『日本の移民統合――全国調査から見る現況と障壁』[竹中歩]
清水睦美・児島明・角替弘規・額賀美紗子・三浦綾希子・坪田光平著『日本社会の移民第二世代――エスニシティ間比較でとらえる「ニューカマー」の子どもたちの今』[小林真生]
惠羅さとみ著『建設労働と移民――日米における産業再編成と技能』[五十嵐泰正]
平野裕子・米野みちよ編著『外国人看護師――EPAに基づく受入れは何をもたらしたのか』[定松文]
佐藤忍著『日本の外国人労働者受け入れ政策――人材育成指向型』[明石純一]
学会報告
2021年度年次大会/2021年度冬季大会
『移民政策研究』編集規程/『移民政策研究』執筆要項/論文投稿規程/投稿論文査読規程
Editorial Provisions for Migration Policy Review / Author Guidelines for Migration Policy Review /Provisions for the Submission of Articles/ Provisions for the Refereeing of Articles
前書きなど
特集の趣旨[小井土彰宏:亜細亜大学教授/一橋大学名誉教授]
(…前略…)
以上の統計的な素描から見えてくるのは,保守政権が長く保ってきたあくまで「短期滞在の外国人材の受入れ」のみという公式政策から大きく乖離した現実の進展により,定住化が,1990年代半ばの定住化論争のころとは比較にならないレベルで広く深く進行しているという事実であろう。
このような日本における状況の展開を受けて,移民の社会統合に関するより体系的な研究が近年相次いで発表されてきている。(中略)そこから見えてくるのは,かつての定住化論争期に議論されていた,欧州での1980年代での論争を受けて「同化政策を超えた上で,統合政策と多文化主義政策とはどのようなものか?」といったより抽象的で理念的な問題を志向した研究上の議論とは,その基調が大きく様変わりしていることだ。2010年代以降,もはや疑いようもない定住化の現実に即した具体的な政策的なニーズとその評価が中心的な関心となってきている。
実際,2019年に施行された新入管法では,その制度化過程の中で多文化共生総合ワンストップセンターが100以上の地域で設立されることとなった。その意味で,長く定住の必然を認めてこなかった日本国家が,その現実と政策の乖離を認め,ようやく定住していく可能性を持つ人々を統合する姿勢を持ち始めたともいえる。上記の研究の潮流は個別の施策への反応ではなくとも,この政策トレンドを踏まえたものと言いうるだろう。すなわち,具体的な政策を提案・立案し,また政策効果の予測や評価をしていくための統合政策の把握と計測を巡る移民政策分析である。
本特集の背景には,このような日本の政策と研究の展開とともに,EUを中心に発展してきたMIPEX(移民統合政策指数)の第5回調査結果が2020年12月に発表されたことがある。この指標は,共通移民政策を模索していたEUによって2004年に第1回の結果が発表され,以来参加国を拡大しながら,その指標の包括性・体系性を追求してきた。その目的は,元来多面性を持つ移民の社会統合策が各国でその積極性や重視される側面にばらつきがあるという現実を明確に把握して,その相互調整を図ることにあったであろう。その後,MIPEXはEUの拡大に合わせ参加国数も拡大し,EU域を超えて,アルバニアなど周辺国や,合衆国・カナダ・ブラジル・オーストラリアなどの元来の入移民国,それからアジアの韓国・日本などにも拡大してきた。
その中で,この指標の意義は徐々に変容してきたように思われる。筆者は,スペインに2014-15年に滞在したが,その際滞在したバルセロナ国際問題研究所CIDOBはこのMIPEXのヨーロッパ全体の一つの拠点となっており,この指標による国際比較分析に極めて熱心に取り組んでいた。その後,振り返ってみると既に独自のかなりの統合政策を体系的に進めているスペインとはいえ,国際的な調整という側面とともに,国内政策を整備し,その諸側面とバランスと達成評価を目的意識的に行うためにMIPEXを重要な指針としていることを強く感じた。
「移民の受入れ」という言葉自体を長く封印してきたが,もはや明らかに後発的な受入れ国である日本にとってこのような指標は,一定の政策のバランスをとり,国内的な思惑による恣意的な政策運営や官僚機構の連携を欠いた執行を抑止するためにも意味があるであろう。
(…後略…)