目次
第1章 ハーフ・ダブル・ミックスルーツ~日本人っていったい誰?
第2章 国境を越える人ひとたち~移民・難民とどう向き合うのか
第3章 ヘイトスピーチ~街に噴き出した憎悪
第4章 移民政策~日本で働きたい
第5章 外国人の子どもの貧困~子ども食堂から考える
第6章 戦争責任~私たちは関係ない?
第7章 国家と国民~戦闘機に乗っていた人たち
第8章 領土問題~対立する主張のはざまで
第9章 アイヌと沖縄~日本の「先住民族」
第10章 未来への選択~私たちが作る多文化共生
第1版へのあとがき
前書きなど
第1版へのあとがき
最初に、本書が生まれたいきさつをおはなしします。
「多文化共生をめざそうとする時に、子どもたちの活動の妨げとなり得るいくつかのテーマを掘り下げる」、これが2015年4月に行われた最初の編集会議の時、議論された本書のコンセプト(企画意図)です。
多文化共生の前に立ちはだかる最も大きな壁は「戦争である」との認識からの出発でした。そのため、皆さんには遠い過去になってしまったかもしれない「日本が戦争にむかった歴史」に踏み込み、歴史修正主義、領土問題、先住民、国と民との関係など、議論すべき内容が広く重く深くなり、3作の中で最も難産な作品となりました。「クラスメイトは外国人」の第1集の作成に2年間かかりました。第2集は取りかかって出版まで2年半かかりました。第3作目にあたる本書は、前の2作にかけた時間を足したほどの4年半が費やされたことになります。この4年半は、まるで本書の企画案の予言が次々と現実のものとなっていくように、外国人嫌いを吹聴する人たちのあからさまな動き、国家間の対立を煽って楽しむ一部の人々の声、戦争に向かう空気などを感じながらの作業となりました。
その一方、日本への外国人の流入も増加していく傾向も見えてきています。2019年の4月に日本政府は「外国人材」の受け入れを発表し、特定技能という在留資格が新設され、人手不足が深刻な14業種において5年間で約34万人の外国人労働者を受け入れるという法律を成立させました。
日本政府は「移民政策」ではなく、短期に労働者を受け入れる政策だ、と言っています。しかし、いずれはその家族がやってきて日本で生活の基盤を作ろうとするのは必然的な流れです。いまなお、世界の国には仕事がなく収入が得られないため日々の暮らしがままならない多くの人々が存在し、家族のために仕事を求め、国を超えて移動する人々は後を絶ちません。まさにそれこそが移民です。日本の政策は外国人労働者を単なる労働力としてしか見ておらず、労働者やその家族を「人」として見ていないとの声も上がっています。
多文化共生という言葉も飛び交うようになりましたが、真の多文化共生とは何なのか、一人ひとりが考えなければならない状況になっていると思います。十代半ばで日本にやってきて、日本の高校、大学を卒業し、来春社会人になる外国につながる若者が「日本は多文化共生にはほど遠く、多文化共存にしかなっていない。共生とは共に生きやすい社会をつくることだと思う」と話してくれたことが強く印象に残っています。
日本は「共に生きやすい社会」となっているでしょうか? 外国につながる若者が「Beneath」という、いじめを取り上げたショートムービーを作っています(https://www.nhk.or.jp/ijimezero/magical/movie.html?id=519002)。「Beneath」とは「その心の奥には」といった意味で、ショートムービーでいじめられている少女の笑いの奥には悲しみの涙しかないことを表現しています。そう、外国につながる子どもたちは、周囲の子どもたちの軽い冷やかしやからかいの言葉にも、抵抗できず笑って過ぎ去るのを待つしかないのです。もし、あなたがその場にいたら、どうしますか? ただ笑っているだけの外国につながる子どもの気持ちを考えることができますか? どうしたら良かったのか、みんなで考えること、これが共に生きやすい社会をつくる共生の一歩だと思いますが、皆さんはどう思いますか?
多文化共生を考えるきっかけとして役立ってくれればと願いを込めてこの本を作りました。
(…後略…)