目次
はじめに[石戸光]
第1章 緊急事態における正しさ[川瀬貴之]
1 はじめに
2 リスク評価について:多元性か分断か
3 法の支配について:帰結か義務か
4 集団的決定の方法について:ユートピアか漸進か
第2章 COVID-19ワクチンのグローバルな配分制度COVAXと公正――被影響者の意思決定への参加の限界[藤澤巌]
1 はじめに
2 COVAX:市場メカニズムを利用した公正かつ衡平な配分の試み
3 COVAXにおけるワクチン配分枠組
4 影響を受ける者の意思決定への参加とその限界
5 おわりに
第3章 ヨーロッパ諸国のコロナ禍への対応と社会的公正[水島治郎]
1 はじめに
2 パンデミック対応の国際比較
3 ヨーロッパ諸国の展開
4 パンデミックのもたらした政治変容:ナショナル・ポリティクスの再浮上
5 おわりに
第4章 APECのコロナ禍への対応と社会的公正[石戸光]
1 はじめに
2 APECの「開かれた地域主義」
3 APECのコロナ禍への対応
4 APECとグローバルな社会的公正
5 おわりに
第5章 コロナ禍における幸福度と公正――ポジティブ政治心理学からの考察[小林正弥]
1 ポジティブ政治心理学
2 コロナ禍によるウェルビーイングの低下
3 心身のウェルビーイングと価値観の変化における二極化
4 ウェルビーイングとその変化の要因:システムとの関係
5 正義・公正とウェルビーイング
6 結論:ウェルビーイングの低下と二極化
[補論]
第6章 オーストラリアにおけるCOVID-19への政策対応と市民のウェルビーイング[リンジー・オーズ]
1 はじめに
2 オーストラリアの一般事情および政治構造
3 COVID-19への対応
4 おわりに
第7章 地域統合とコロナ禍をめぐる哲学および事例からの考察[ジェラルド・モシャマー/ナタナリー・ポスリトン/石戸光]
1 はじめに
2 何の統合か、誰のための正義か:ASEANとEUに関する方法論的考察
3 EUとASEANのコロナ禍を巡っての比較
4 おわりに
第8章 ジェンダー格差の悪循環――COVID-19と女性とジェンダーへの影響[アフサナ・べゴム]
1 はじめに
2 コロナ禍のジェンダー不平等
3 日本におけるコロナ禍、国連のSDGsとジェンダー問題
4 おわりに
第9章 コロナ後のグローバルな経済協力の課題と可能性――東アジアを中心に[韓葵花]
1 はじめに
2 東アジアにおける経済と貿易の現状
3 東アジアにおける経済協力(1):経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)の可能性と課題
4 東アジアにおける経済協力(2):経済統合以外の可能性と課題
5 おわりに
第10章コロナ後の環境と経済――地球温暖化問題を中心に[張暁芳]
1 はじめに
2 地球温暖化問題と気候変動
3 環境と経済
4 地球温暖化問題と公平
5 環境的公正
6 おわりに
第11章近代日本文学と感染症――文学作品における感染症の表象と社会的公正[張永嬌]
1 はじめに
2 近代日本文学における感染症の表象
3 文学作品から見る感染症蔓延の影響
4 文学者が示唆した感染症への態度
5 おわりに
おわりに[石戸光]
執筆者紹介
前書きなど
はじめに
本書は、2021年4月刊行『公正社会のビジョン――学際的アプローチによる理論・思想・現状分析』の姉妹編にあたり、千葉大学の未来型公正社会研究班所属の研究者および国内外の連携研究者により執筆したものである。大きな問題意識として、2019年末より地球規模で顕在化したコロナ禍によって、社会的公正の概念について改めて問いなおすことが急務となっていることが挙げられる。たとえばEU(欧州連合)やASEAN(東南アジア諸国連合)、APEC(アジア太平洋経済協力)といった「地域統合」関連組織、欧米諸国、日本および中国を含めたアジア太平洋諸国に所在する「主権国家」、そして主権国家内部の「諸地域・諸アクター」のコロナ禍への対応(たとえばワクチンの公正な分配面へのスタンス)には大きな差異が存在しており、「公正」をめぐるコンセンサスは得られていないまま、事態は進行している。コロナ禍においては特に、いわゆるリベラリズム(自由主義;個人の権利を国家・社会の利益以上に尊重)とナショナリズム(国家中心主義;個人の権利よりも国家・社会の利益を重視する傾向)の相克がみられ、新型コロナウイルス感染症という共通の課題を見据えたアクター間の協力体制が必要となっている。コロナ後に「公正な社会」を展望することは可能なのか、本書では政治・経済・歴史・哲学および文化面を組み合わせながら検討していく。
(…後略…)