目次
はじめに
第一章 多国籍タウン新大久保
1 新大久保における調査実習のはじまり
2 フィールドとしての新大久保
3 いかがわしさの排除(1990年代)
4 韓流ブームに沸く新大久保(2000年代)
5 ヘイトスピーチからの復興(2013年以降)
6 外国にルーツをもつ人たちの生活史の記録に向けて
Column1 さまざまな探究の方法
第二章 大久保地区における在留外国人住民の多国籍化――都市部の多文化共生を考える前に
はじめに
1 全国の在留外国人登録者数の変遷
2 新宿区における在留外国人の多国籍化
3 大久保地区の在留外国人の増加
おわりに
Column2 大久保地区の店舗の変化
第三章 学生たちがみた新大久保
はじめに
1 語学学校の密集地
2 新大久保のゴミ問題
3 多機能な店舗
4 八百屋の多さ
5 街中に見られる外国人向け情報
6 さまざまな宗教施設
おわりに
Column3 多文化共生に向けて、民の声に耳を澄ます
第四章 新大久保で生活する外国ルーツの人びとの生活史
第1話 東日本大震災を経験したアジアン居酒屋の店主
第2話 新大久保でひときわ目立つジャワ料理店の店主
第3話 たくさんの夢を叶えた場所、日本――これからも続く挑戦
第4話 新大久保をさらに発展させるために
第5話 挫折を経て、新たな夢へ――憧れの日本で、故郷の味を
第6話 優しさは日本とベトナムの架け橋となる
第7話 人生を変えた仕事――日本で暮らすネパール人のために
第8話 縁が導いた日本――温かさがつくる共生
第9話 経営を学ぶために日本へ、そして不動産屋に
第10話 国境を越えて、日本で暮らす――選んだ新大久保という街
第11話 新しい人生を――日本でのチャレンジ
第12話 私が探していたマイライフ――今はあくまで通過点
Column4 履修者による学びの振り返り
補章 新大久保をフィールドとした「社会調査および実習」の軌跡――多文化共生に向けた生活史調査の授業運営方法
はじめに
1 学内における協働
2 授業の流れ――春学期
3 授業の流れ――夏季集中講座
4 授業の流れ――秋学期
おわりに
Column5 ラポールなき社会調査の作法
あとがき
参照文献
前書きなど
はじめに
(…前略…)
外国人を取り巻く問題は、私たち多くの日本人にとって目を背けることができなくなっている。外国人労働者や日本の移民に関する一般向けの書籍の刊行点数も、この10年で明らかに増えている。しかし、対象となる外国人を日本社会にとっての「問題」として理解する前に、まずはその人たちのことを深く知る努力が必要なのではないか。
私たちの外国人一般に対する目線は、こうした報道によってつくられてしまい、私たちは彼ら・彼女らを「外国人」としてひとくくりにして、不安を掻き立てる存在とみなしがちである。
だが、不安とは漠然とした分からなさによって生まれる感情だ。日本で働く外国人と接点をもち、この人たちの来日の背景や生活の実態、普段考えていることにじっくり耳を傾けてみよう。そうすることで、私たちはこうした不安を解消し、出身国や言葉は違うけれど、自分と似た部分を発見したり、思ったほど違いはないと気づいたりするはずだ。
本書は、東洋大学社会学部で2017年から2019年まで3年にわたり行ってきた「新大久保における多文化共生」をテーマとした社会調査実習の成果である。一般的に、学生の調査実習の成果を、このような形で商業出版する例はあまり多くない。それは調査の質の担保が難しいことが大きな理由である。だが、その困難を乗り越えるくらい、インタビュー対象者たちの語りを多くの人に知ってもらいたいという、編著者の強い想いがある。
本書は、新大久保に何らかの形でかかわりのある外国にルーツをもつ12人の方々が、学生に向けて語った自らの生活史を収録している。インタビューのアポ取りはたいへんな苦労があったものの、ここに紹介する12人の方々は、自分のこれまでの人生の遍歴を学生たちに伝えたいという意思をもって、インタビューに応じてくださった。
中には不慣れな日本語で何とか学生たちとやりとりしていた人もいる。流ちょうな日本語で学生との会話を楽しんでいた人もいる。こうしたやりとりを間接的に見聞きしていた私は、インタビューを引き受けていただいた方々の声を、調査実習を履修する学生だけでなく、もっと多くの人に知ってもらいたいと思うようになった。
人類学者である私は、10年以上前に東南アジアのラオスに2年弱のあいだ住んでいた。人類学者にとっての通過儀礼であるフィールドワークにとって重要なのは、ふだんの生活圏から離れて、見ず知らずの人が住んでいる共同体のなかに入り込み、その中で人びとと一緒に生活することである。短期間ではあるが、まさに日本に移り住んできた外国人と同じ感覚を共有していたわけである。
その滞在期間の中には現地の人たちの輪になかなか入れず、不安や迷い、戸惑い、憤りを抱えたこともあれば、うれしく、たのしかった出来事もあった。ラオス滞在中に、もし現地の人から、ラオスに来た理由を聞かせてほしいと言われれば、私も喜んで引き受けていただろう。
もちろん、中には答えたくない人もいるだろう。したがって、本書には、今回再度、商業出版することを告げ、許諾を得られた人の語りのみを収録している。
(…後略…)