目次
『新版 日本の中の外国人学校』に寄せて
第1章 ルポ 日本の中の外国人学校
Type 1 経済のグローバル化、国家の間で
①エベレスト・インターナショナルスクール・ジャパン〔東京都杉並区〕
②ブリティッシュ・インターナショナルスクール〔神奈川県海老名市〕
③Ecumenical Learning Center for Children(ELCC)国際子ども学校〔愛知県尾張旭市(現在名古屋市)〕
④インディア・インターナショナルスクール・イン・ジャパン(IISJ)横浜校〔神奈川県横浜市〕
⑤アメラジアンスクール・イン・オキナワ(AASO)〔沖縄県宜野湾市〕
⑥インターナショナル・イスラーミーヤ・スクール大塚(IISO)〔東京都豊島区〕
Type 2 リーマンショックを越えて――ブラジル学校
①TS学園〔埼玉県児玉郡〕
②日本ラチーノ学院〔滋賀県東近江市〕
③サンタナ学園〔滋賀県愛荘町〕
④HIRO学園〔岐阜県大垣市〕
⑤エスコーラ・ネクター〔愛知県豊田市〕
インタビュー 自分を信じられる土台に
Type 3 古くは19世紀から 老舗の外国人学校
①横浜山手中華学校〔神奈川県横浜市〕
②東京横浜独逸学園〔神奈川県横浜市〕
③東京インドネシア共和国学校〔神奈川県横浜市〕
④カネディアン・アカデミイ〔兵庫県神戸市〕
コラムNew Type 外国大学日本校、行政も支援
北京語言大学東京校〔東京都豊島区〕
天津中医薬大学 鍼灸推拿学院 神戸校〔兵庫県神戸市〕
Type 4 民族教育を守り75年――朝鮮学校
1 芯を持ち、時代に沿った変化を
2 地域とのかかわりの中で
3 卒業生、現役生徒たちの活躍
4 学びの権利を求めて
インタビュー 朝鮮学校は、どことも似ていない
第2章 提言 外国人の子どもに教育の権利を
日本の外国人学校政策と21世紀の課題
1 日本の外国人学校政策
2 「パンドラの箱」あけた大学受験資格問題
3 深まる外国人学校の連携
4 高校無償化と朝鮮高校の排除
5 幼保無償化から排除、コロナ禍でさらに困窮する現場
6 外国につながる子どもたちの教育はいま
7 外国人学校を正式な学校に
第3章 インタビュー 外国人学校と日本社会
「学ぶ権利」の保障、国が新しい一歩を[田中宏]
文化の多様性こそ、日本の財産[尾辻かな子]
学校の内と外に学びの場を[田中宝紀]
地域から多文化共生への理解促進を[愛知県県民文化局 県民生活部 社会活動推進課 多文化共生推進室]
義務教育は、無償で受け入れている[文部科学省大臣官房国際課]
〈資料〉
①外国人学校リスト
②国連人権機関の懸念と勧告
前書きなど
『新版 日本の中の外国人学校』に寄せて
(…前略…)
2006年に『日本の中の外国人学校』を出版してから、はや15年の月日が経ったが、この間、リーマンショックにより多くのブラジル人が失職して本国に帰国し、ブラジル学校の一部が閉鎖され、現在も厳しい運営を強いられている。
この15年間で、外国人学校が抱える問題はどれほど解決したのだろうか。2010年に民主党政権が公約として掲げた高校無償化制度が実現され、各種学校認可を持つ外国人学校に初めて国庫補助が実現された。このことは「すべての者」の「教育への権利」を実現させるための画期的な一歩だった。しかし、日本政府は、人数では最多の朝鮮高校を政治的外交的な理由を持って対象からはずしたことで、国際社会の長年の要請であった日本の高等教育の無償化は、「画龍点睛を欠くことに」(田中宏・一橋大学名誉教授)なった。
朝鮮高校の排除は、日本と国交のない朝鮮民主主義人民共和国への制裁の一環として、超法規的な方法で断行された。日本政府は、在日朝鮮人を「人質」のように扱い、朝鮮半島にルーツを持つ子どもたちの権利を奪っている。子どもが学ぶ権利は、国籍や民族によって、差があってはならないことは国際人権条約の要請であり、普遍的権利である。日本の外国人学校政策はダブルスタンダードであり、2019年10月から始まった幼保無償化からの外国人学校幼稚園の除外も、その流れの中にある。二重基準が新たな差別を生み続けている。
さらに2020年春から始まった新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本の学校に通う子どもと外国人学校に学ぶ子どもたちとの間に格差が生じている。
具体的には、コロナ感染が長期化するなか、「学びの継続」のための「学生支援緊急給付金」の対象から、朝鮮大学校(1956年創立、東京都小平市)が排除された。また、「学びの保障」のための諸々の支援策にも、各種学校資格の外国人学校は対象に含まれていない。文部科学省は、2020年度の第2次補正予算の中で、「児童生徒等や学生の学びの保障」という項目を掲げ、多岐にわたる支援を打ち出している。例えば、小中高等学校等を対象とした「学校再開に伴う感染症対策・学習保障等に係る支援経費」には、教室における3密対策として、換気に必要なサーキュレーター等の購入経費や家庭との連携体制強化のための電話機の臨時増設に係る経費などへの支援がある。また、幼稚園等を対象にした「幼稚園におけるマスク購入等の感染拡大防止事業」では、保健衛生用品のみならず、「かかり増し経費」も支援されるが、いずれも各種学校認可の外国人学校は対象施設には含まれなかった。
「学生支援緊急給付金」を差別なく支給してほしいという要請の場で、文部科学省の職員は、「差別しているつもりはない」と言った。そこで持ち出されている排除の理屈は、外国人学校が「各種学校」だというものだ。
現在外国人学校は、日本では正規の学校とは認められず、各種学校という法的地位にとどまらざるを得ない。外国人学校が法的地位を向上させるためには、法改正が必要だ。
日本の公私立学校のように「1条校になる方法もある」と意見する人もいる。しかし、「1条校」になった場合、日本の学校指導要領に従い、日本の教員免許を持った人たちが教員という制約がある。「日本人」を前提にした教育システムをもって、外国にルーツを持つ子ども、日本とは異なる文化的背景を持つ子どもが豊かに学び、育つことができるのだろうか―。本書の問いはこの一点に尽きる。
外国人学校に関して、日本の法令上定められた定義はないが、本書では主に外国籍の子どもを対象に独自のカリキュラムを編んで運営している学校を念頭に置き、取材を重ねてきた。
(…後略…)