目次
まえがき
第Ⅰ部 コーポレートガバナンスをめぐる欧米の展開
第1章 英国のコーポレートガバナンス・コード改訂と日本への教訓
英国コーポレートガバナンス・コード改訂の変遷とステークホルダーの役割
従業員関与のコーポレートガバナンスに転換/全般的な株主優位のコーポレートガバナンス・コードに変更はない/取締役会のダイバーシティ推進
日本への教訓
労働者重視のコーポレートガバナンス改革――フランス
第2章 ドイツにみるコーポレートガバナンスの現実と戦略的課題
ドイツの新たな共同決定権の拡大運動
IGメタルの現状と運動戦略
労働協約の分権化傾向と対策/金属・電機産業労働者の組織拡大運動/労働教育の強化と共同決定アカデミー/すべての労働者に完全同権のモンタン共同決定法を/経営協議会の権限強化の法改正は長期目標/中小企業への共同決定の拡大推進が重要/非正規労働者対策の核心は何か/外国人労働者の社会統合と教育支援
SPDの新共同決定・労働政策
ドイツ共同決定制度のグローバル化
欧州会社に適用拡大
AIをめぐる新共同決定政策と労働組合の役割
DGBの組織現状と今後の課題/ドイツにおけるAI革命と労働組合の対応/「労働4・0」による雇用対策――継続的職業訓練の必要性/DGB・IGメタルのAI革命への雇用対策/クラウド・ワーカーの組織化推進/「共同決定」と参加の実状と優先課題
DGBの新共同決定政策と戦略的課題は何か
モンタン共同決定制を導入したティッセンクルップの実態調査結果
企業再編と共同決定制の効果
オペルでの企業再建の道
マイルストーン合意で完全な共同決定制を導入/企業再建以後の共同決定の流れ/オペル経営危機の最大要因――GMのコーポレートガバナンス破たん/完全同権の共同決定制を構築/欧州レベルで共同決定権の拡大を/労働者の「共同決定」参加に経済的責任はない
日本への示唆
ドイツの労働教育から学ぶべきもの
IGメタルの教育体系と教育内容/共同決定アカデミーの設立について/共同決定アカデミーのプログラム/優れた監査役会業務のためのIGメタルのガイドライン
第3章 北欧福祉国家に未来はあるか
スウェーデンの労働組合への加入状況について
女性と男性の比較/16~24歳の多数はブルーカラー/すべての業種でホワイトカラーの組織率がブルーカラーを上回る/雇用形態別の組織現状/出生地別組織率/失業者の4分の1以上が組合に加入/雇用保険料の値上げと組合組織率の低下
スウェーデンのコーポレートガバナンス改革の光と影
AI革命への雇用対策は如何に/コーポレートガバナンスの実状と未来/政府の審議会とボードへの参加/労働者重役制の課題と展望/職場における団体交渉による共同決定法の実態/独自な労働者教育制度/ジェンダー運動の成果とプライオリティ/労働者投資基金制度は、なぜ消滅したのか
デンマークの労働者代表重役制度の現状と課題
デンマークLOの運動課題/デンマークの「労働者参加」の特徴――スウェーデンとの相違点/協同組合における労働組合の役割
第4章 EUの「経済民主主義」革命と労働組合の果たす役割
EUの社会経済情勢と新たな最賃枠組み指令案
コロナ・パンデミックの影響による格差拡大の悲劇
職場での民主主義強化の取り組み
EWC指令の抜本改革に向けて
欧州労使協議会の現状/EWCの成功事例――欧州日産グループの組織再編/EWCの優先課題/欧州労連が求めるEWC指令の改訂案
ETUC大会への六大プライオリティ
職場民主化の拡大戦略/ISO26000の取り組みと課題/EU新会社法パッケージへの評価/ヨーロッパの社会民主党勢力再建・躍進への道/欧州議会選挙に向けた政治公約
ETUCが求める「共同決定制」(WBLR)のEU枠組み指令案
欧州社会権に関する柱の意義と役割/欧州会社の実態と問題点/SEの大半はレターボックス会社/欧州労連提案のWBLR新基準の指令化/職場民主主義の拡大強化を/欧州会社の戦略的課題は何か/SE関与指令の改正要綱案について/労働者経営参画の新基準(WBLR)のねらい
EUの「経済民主主義」革命を問う
公正なEU最賃枠組み指令をめざす/欧州労使協議会の実態と今後の課題/欧州会社法従業員関与指令の改正に向けて/労働者参加権を止揚するレジーム・ショピングを許すな/EUの国境を越えた企業再編の枠組み改正指令に対する評価/EUの国境を越えた企業再編の枠組み改正指令の施行へ
第Ⅱ部 日本におけるコーポレートガバナンスのあり方
第1章 日本のコーポレートガバナンス・ビジョン――「共同決定制」の導入と公正なる分配制度をめざす
役員会への従業員代表の参加の必要性
金融庁・東証のコーポレートガバナンス・コード改訂への評価
なぜ、新たな「労働者参加」が必要か
労使対等・対抗力として/企業統治の拡大強化のために/所得格差の是正/労働組合の組織拡大と職場民主化の主体的役割を
JAM大阪の事例
企業グループのガバナンス強化と労働組合の役割――日本ハムとケンウッドの場合
労使経営協議会法第二次改訂案について
連合の労働者代表法案の課題
第2章 全国一律最低賃金制度の確立に向けて――働きがいのある職場づくりを
労働生産性の低さが低賃金に比例へ
補章 「労使経営協議会法」第二次改訂案
趣旨/「労使経営協議会法」第二次改訂案
前書きなど
まえがき
新型コロナウイルス(Covid-19)のパンデミックは、日本社会のひずみ=格差・差別問題を露呈した。このコロナウイルスの影響を受け、構造的不平等がもたらす現実は、非正規労働者の職種・階層による分断と格差を顕在化した。
今回のコロナ危機で失業や雇止めにあったのは、多くが在宅勤務できないパート・サービス業従事者やフリーランス(請負労働者)、派遣労働者に象徴される人々である。これらの非正規労働者に対する差別的扱いを禁じる「同一労働同一賃金」が2021年4月から、中小企業にも施行されたが、賃金格差どころか、正規(フルタイム)労働者より高い感染リスクという社会的人権の格差に直面しているわけだ。
その意味で、今こそ、グローバル・多様な労働者の意見を反映できる集団的民主的労使関係を構築する「労働者代表制」の導入、労使(経営)協議制度の法制化が、労使が取り組むべき社会的責任であるコーポレートガバナンス(企業統治)や経済・経営民主化、コンプライアンス(法令遵守)確立のためのマニフェストなのだ。
日本の「労働者参加」の現状は、EU諸国に比較して、労使(経営)協議機関の事業所設置率が約2割と非常に低い。これに伴い、労使協議会への労働者参加割合も3割台で、北欧諸国に比べて3分の1以下という格差がある。とりわけ、日本の場合、中小企業での労組の組織率が従業員100人未満企業で1%以下というデータからも分かるように、労使経営協議会の設置率(労働者の経営参加率)がEU諸国に比べて、極めて低いことが大きな問題である。
このため、日本における労働者代表制の導入は、第Ⅱ部・第1章で論じる「労使経営協議会法」を制定することにより、労使協議制(機関)を拡大強化、社会化する必要がある。
(…後略…)