目次
日本の読者の皆さまへ
序文
第1章 限局性学習困難
1.1 学習障害、学習方法の違い、それとも学習困難?
1.2 SpLDs:それはどのようなものか?
1.3 SpLDsを定義するためのアプローチについて
1.4 読みと学習の過程
〇読みについて
1.5 書字の過程と書字の学習
1.6 SpLDsの認知特性および原因として考えられること
1.7 ADHD
1.8 ASD
1.9 要約
第2章 他言語における限局性学習困難を見出すこと41
2.1 アセスメント、同定、診断
2.2 アセスメントのプロセスとツール
2.3 異なる言語と正字法体系での読み
2.4 さまざまな言語における読みの学習成果と読みの困難さを予測する認知的および言語学的指標
2.5 読み困難における社会的、教育的、環境的要因の役割
2.6 多言語環境にいる生徒の読みと学習困難の判別
2.7 マルチリンガルな学習者のSpLDsのアセスメントの概観
第3章 限局性学習困難が第2言語学習プロセスへ及ぼす認知的影響
3.1 ワーキングメモリの構造
3.2 言語学習適性能力とワーキングメモリとの関係
3.3 言語学習適性とSpLDs
3.4 認知力、第1言語スキルと第2言語学習の相互関係
3.5 第2言語学習プロセスにSpLDsが与える影響
3.5.1 明示的、暗示的学習にSpLDsが与える影響
3.5.2 SpLDsがインプット処理に与える影響
3.5.3 新しい知識の長期記憶における音韻符号化と自動化にSpLDsが及ぼす影響
3.5.4 SpLDsがアウトプットに及ぼす影響
3.6 ASDの学習者における第2言語学習プロセス
3.7 第2言語学習がもたらす認知的効果
3.8 まとめと示唆
第4章 言語学習における限局性学習困難と情意要因
4.1 言語学習不安とSpLDsのある生徒たち
4.1.1 外国語不安の形成
4.1.2 SpLDsのある生徒の外国語学習不安
4.2 動機づけとSpLDsのある言語学習者
4.2.1 SpLDsのある生徒の言語学習目標
4.2.2 SpLDsのある生徒の言語学習態度
4.2.3 SpLDsのある生徒の自己概念
4.2.4 SpLDsのある生徒の動機づけ行動、専念、主体性
4.3 結論とその意味
第5章 限局性学習困難者の第2言語スキルに関するアセスメント
5.1 妥当性と公平性
5.2 配慮と変更
5.3 アセスメントにおける配慮の種類
5.4 High-Stakesな第2言語能力試験における配慮
5.5 当事者の視点から見たHigh-Stakesな言語試験における配慮
5.6 結論と提言
第6章 限局性学習困難のある学習者への言語教育
6.1 インクルージョン教育とディスレクシア学習者への配慮を行う学校
6.2 第2言語学習の教室におけるSpLDsのある生徒のインクルージョン
6.3 介入プログラム
6.3.1 音韻意識養成プログラム
6.3.2 フォニックス指導
6.3.3 読解力トレーニング
6.3.4 外国語教育における多感覚構造化学習プログラム
6.3.5 MSLアプローチの理論的かつ経験に基づく基本的概念
6.3.6 MSLアプローチプログラムの有効性の実証的証拠
6.4 結論
文献
あとがき
監修者・監訳者・訳者紹介
著者紹介
前書きなど
序文
(…前略…)
本書では、SpLDsのある学習者における第2外国語習得プロセスの全般的概要が明らかにされている。本書は、SpLDs及び第2外国語習得の分野において筆者が行ってきた研究をまとめ、ワーキングメモリや言語学習に対する適性、動機に関して第2言語習得分野での最近の研究で明らかになった新たな発見を網羅している。ここでは、限局性学習困難を学習の認知心理学、特に言語学習における認知心理学の観点でとらえている。従って、第2言語学習におけるSpLDsの影響に特に関心を持つ読者だけではなく、学習者個別の認知機能の違いがどのように第2言語習得の過程に影響を及ぼすのか学びたい読者にも関心を持ってもらえると考えている。また、SpLDsにおける教育心理学分野の最近の研究と第2外国語習得プロセスの研究成果もまとめている。
本書は、第2言語習得の4つの重要な側面に着目している。それらは、一般的な第2言語習得プロセスととりわけリーディングスキルの発達、教育プログラムの有効性、SpLDsのある学生の言語適性、そして他言語におけるSpLDsの診断の4点である。初めにSpLDsを認知的側面から検討しているが、SpLDsのある学習者を社会的、教育的状況でも捉え、これらの状況に存在する障害がどのように言語習得プロセスに影響を与えているのかを詳細に述べている。また、本書の更なる刷新的な特徴は、第2外国語学習の中で最もよく研究が進められているSpLDsの1つであるディスレクシアだけではなく、第2外国語習得プロセスに大きな影響をもたらすとされるADHDやASDといった、より広範な学習障害も考慮している点である。
本書を読むことで、研究者、大学院生、言語教師、教員養成に関わる人たちが、SpLDsのある学習者がどのように学ぶのかを理解し、そして第2言語習得の際にどのような手立てをすることができるのかといったことを知って頂きたい。障害を持つ学習者を理解することにより、更なる受容的態度が生まれ、言語教師の強い自信につなががり、最終的にはより包摂的かつ効果的な教授法につながる。これこそ、筆者のディスレクシア・アクションに対するささやかな貢献である。
(…後略…)