目次
まえがき
序章 膨張する安全保障――人間の生命と安全の保障に向けて
第Ⅰ部 安全保障化理論と膨張する安全保障
第1章 安全保障化理論――コペンハーゲン学派
(1)コペンハーゲン学派の安全保障化理論の背景
(2)コペンハーゲン学派の安全保障化理論の概要
(a)理論の3要素――発話・非常事態・倫理
(b)発話の定式――発話の内容・行為・効果
(3)発話の内容
(a)指示対象(安全保障化の受益者)
(b)存立の脅威
(c)緊急措置の正当化
(4)発話の行為
(a)安全保障化アクター
(b)発話行為
(c)聴衆と受容
(5)発話の効果
(a)安全保障化
(b)脱安全保障化
(c)制度化
(6)小括
第2章 安全保障化理論に対する批判――パリ学派とフーコーの統治性理論を中心に
(1)安全保障化理論の3要素に対する批判
(a)発話――聴衆と受容
(b)発話――権力関係
(c)発話――コンテクスト
(d)発話――脱安全保障化
(e)非常事態
(f)倫理
(2)実践
(a)装置と道具
(b)非常事態と平常状態
(3)統治性
(4)小括
第3章 安全保障化・統治性理論と膨張する安全保障
(1)コペンハーゲン学派の安全保障化理論からの含意
(a)集団安全保障
(b)国際の平和と安全に対する脅威
(c)強制措置
(d)発話
(2)パリ学派などの安全保障化理論からの含意
(a)聴衆と受容/権力関係
(b)コンテクスト
(c)非常事態と平常状態
(d)倫理
(3)フーコーの統治性理論からの含意
(a)グローバルな統治性
(b)強制措置から安全保障措置へ
(c)グローバルな統治性とグローバル・ガバナンス
(d)人道的統治
(4)小括
第Ⅱ部 冷戦後の人道危機と人道的介入
第4章 クルド
(1)イラク北部での人道危機
(2)国連安全保障理事会における議論――決議688(1991)
(3)多国籍軍の関与と軍事介入
(4)小括
第5章 ソマリア
(1)ソマリア内戦の開始
(2)国連安全保障理事会における議論――決議746(1992)
(3)国連ソマリア活動の派遣と展開
(4)国連安全保障理事会における議論――決議794(1992)
(5)国連憲章第7章に基づく軍事介入
(6)小括
第6章 ボスニア
(1)ボスニア内戦の開始と援助物資の空輸
(2)国連安全保障理事会における議論――決議770(1992)
(3)国連保護軍の派遣と展開
(4)国連安全保障理事会における議論――決議836(1993)
(5)航空攻撃から停戦合意へ
(6)小括
第7章 ルワンダ
(1)ルワンダ内戦とジェノサイド
(2)国連安全保障理事会における議論――決議912(1994)
(3)国連安全保障理事会における議論――決議918(1994)
(4)国連安全保障理事会における議論――決議929(1994)
(5)多国籍軍の派遣と内戦の終結
(6)小括
第8章 コソヴォ
(1)国連安全保障理事会における議論――決議1199(1998)
(2)和平交渉の決裂と軍事介入の実施
(3)国連安全保障理事会における議論――決議案S/1999/328
(4)国連安全保障理事会における議論――決議1244(1999)
(5)難民の帰還と暫定統治
(6)小括
第9章 人道的介入と人道的統治
第Ⅲ部 人道的統治の構想と実践
第10章 子どもの保護
(1)子どもに対する暴力
(2)子どもに対する暴力の安全保障化
(a)国連総会での議論
(b)国連安全保障理事会での議論
(3)子どもに対する暴力の監視装置
(a)紛争当事者の一覧作成
(b)子どもの暴力に対する監視報告メカニズムの構築
(4)子どもを保護するための安全保障措置
(a)行動計画の立案と履行
(b)国連平和維持活動の任務の拡大
(c)制裁の実施
(5)小括
第11章 女性・平和・安全保障
(1)女性の保護と権利の安全保障化
(2)「女性・平和・安全保障」に関する一般的指針――決議1325(2000)
(a)成立の背景
(b)決議の目的
(c)履行の手段
(d)評価と課題
(3)性暴力に対する安全保障措置
(a)国際の平和と安全の問題としての性暴力
(b)国連平和維持活動
(c)制裁の決定と実施
(d)法の支配の強化
(e)本部・フィールドでの調整
(f)性暴力に対する監視・分析・報告制度(MARA)の構築
(4)決議履行のための安全保障措置
(a)行動計画の立案と履行
(b)インディケータの導入
(c)戦略的フレームワークの作成
(5)国連安全保障理事会における議論――決議2467(2019)
(6)小括
第12章 文民の保護
(1)文民の保護に関する決議の採択
(a)国連安全保障理事会における議論――議長声明1999/6
(b)決議の目的
(c)文民に対する暴力の禁止
(d)文民の保護に関する条約などの遵守
(e)文民の保護に関する履行の方法
(f)文民の特別な保護に関する決議
(2)国連平和維持活動と文民の保護
(a)概要
(b)戦略の形成と情報の収集――インディケータの活用
(c)調整の強化と連携――統合アプローチの活用
(3)小括
(4)人道的統治と安全保障措置
第Ⅳ部 人道的統治の現実と実際
第13章 コンゴ民主共和国
(1)アフリカ世界大戦
(a)大戦の様相
(b)傍観する国連安全保障理事会
(2)国連コンゴ民主共和国ミッションの設立
(a)ルサカ合意
(b)カビラ大統領の死とプレトリア合意
(c)イトゥリ危機
(d)ブカヴ危機
(3)国連コンゴ民主共和国ミッションの増員
(a)国連事務総長による増員の提案
(b)大統領選挙と欧州連合部隊の派遣
(c)コンゴ民主共和国東部での治安悪化
(d)ゴマ危機とキワンジャ殺戮
(e)イトゥリの戦闘と高ウエレのクリスマス襲撃
(f)政府軍への武装集団の編入
(4)小括
第14章 シリア
(1)アラブの春
(2)シリア内戦
(a)シリアでの抵抗運動と国連の関与
(b)国連安全保障理事会における議論――決議案S/2011/612
(c)政治的和解に向けた動き
(d)国連安全保障理事会における議論――決議案S/2012/538
(e)国連安全保障理事会における議論――決議2139(2014)
(f)人道支援のための国境監視メカニズムの創設
(3)人道支援機関の対応
(4)人道支援のための国境監視メカニズムをめぐる対立
(5)小括
終章 人道的統治の展望
あとがき
参考文献一覧
索引
前書きなど
序章 膨張する安全保障――人間の生命と安全の保障に向けて
(…前略…)
本書は,序章,第Ⅰ部から第Ⅳ部までの14章,終章のあわせて16章から構成される。以下,第Ⅰ部から第Ⅳ部の目的について述べていきたい。本書は,国連安全保障理事会が,なぜ人間の生命と安全を保障するために任務と権限を膨張させてきたのかを検討する。
第Ⅰ部「安全保障化理論と膨張する安全保障」では,その論点をどのような理論的枠組みを用いて考察するのかを説明する。国連安全保障理事会は,人間の生命と安全の保障を安全保障の問題として認識してこなかったが,冷戦終結後には安全保障の問題として認識して強制措置を発動するようになった。これは,大国が国家の統治性を紛争地域にも適用し,紛争地域の人口の管理と社会の制御を進めるためである。それにより,国連安全保障理事会は,大国間の討議と決定に基づいて任務と権限を膨張させてきた。本書では,これを説明する理論として安全保障化理論とフーコーの統治性理論を用いる。安全保障化理論の学派であるコペンハーゲン学派(第1章)とパリ学派の議論を紹介し,フーコーの統治性に関する理論を説明し(第2章),安全保障の膨張に対する含意を明らかにする(第3章)。
第Ⅱ部「冷戦後の人道危機と人道的介入」では,コペンハーゲン学派の安全保障化理論に沿って,どのようにして国連安全保障理事会が任務と権限を膨張させてきたのかを解明する。1990年代の人道危機に対する国連安全保障理事会の対応を中心に考察することを通じて,安全保障化がどのような発話を通じて進行し,コンテクストがどのように安全保障化に影響を与えてきたのかを説明する。とくに,大国間の権力政治,地域的利害の影響,人権や人道主義と内政不干渉原則との国際的規範をめぐる3つの対立を中心に論じていくことにしよう(第4章から第9章まで)。
第Ⅲ部「人道的統治の構想と実践」では,パリ学派の安全保障化理論に沿って,1990年代の人道的介入の時代を経て,1999年以降,子ども,女性,文民を保護するために,どのような安全保障措置が構築されたのかについて考察していく(第10章から第12章まで)。国連安全保障理事会が人間の生命と安全の保障に関与を強め,人道的統治を進めていることがわかるであろう。このような統治を実現する安全保障措置の1つとして,子ども,女性,文民の保護のための諸制度が構想された。そのような安全保障措置は,紛争被災者に対する援助と支援とともに,紛争地域の管理と制御を促進した。その安全保障措置を通じて,国連安全保障理事会は紛争地域の遠隔からの制御を進めている。安全保障措置を実効的なものにするのが,人口の把握と管理である。これには,情報の収集と分析,リスクの分析,指標の設定,数値目標の設定といった手段が用いられる。
第Ⅳ部「人道的統治の現実と実際」では,第Ⅲ部で挙げられた人道的統治の構想が現実の人道危機に対して実効的なものであるのかを考える。安全保障化理論や統治性理論においては,安全保障化の実効性に関する議論は十分に行われていない。そこで,コンゴ民主共和国を事例として,文民の保護を任務とした国連平和維持活動について考察し(第13章),シリアにおける人道危機を論じ,国連安全保障理事会による安全保障措置を通じた人道的統治の実現には多大な困難があることも明確にする(第14章)。
最後に,終章において,人道的統治が実効的であるとしても,それが正当性をもつのかについて簡単に触れることにする。