目次
序章 すき間と力
1 すき間と語り
2 すき間を生む制度
3 学問のはざま
第Ⅰ部 すき間にいる人――当事者のリアリティ、エネルギー、ユーモア
第1章 笑いと共感――発達障害傾向にある幼児の母親コミュニティの機能[大塚類]
はじめに
1 発達障害傾向にある幼児の母親が陥るはざま
2 母親たちの語り
3 コミュニティで起きていること
おわりに――Aルームのインフォーマルな役割
第2章 発達障害児の母親の生き生きとした語りからその強さを読み解く[遠藤野ゆり]
はじめに――障害が軽度であることによるひずみ
1 発達障害のある子どもや家族が置かれるはざまとは何か
2 母親の語りに見られるポジティブさ
3 生き生きとしていることの正体
おわりに――はざまを生き抜いていくこと
第3章 語れないこと\語らされること\語ること――社会的養護のもとで育った若者たちの声[永野咲]
はじめに
1 「社会的養護のもとで育つ」ことに向けられるまなざし
2 境遇を語らない\語りたくない\語れない
3 カムアウト――開示することの意図
4 「納得できる」語る\語らないを見つけられること・そのことが尊重されること
5 声をあげて社会を変える
第Ⅱ部 すき間からの居場所のつくられ方
第4章 仕切りを外すつながりづくり――地域の子ども食堂と学習支援の取り組みから[佐藤桃子]
はじめに
1 2つの子どもの居場所のはじまり――子ども食堂と学習支援グループ
2 なないろ食堂の実践から
3 てごほ~むの実践から
4 人とのつながりづくりから地域づくりへ
第5章 つながりをつくる居場所――放課後等デイサービスにおける支援の論理[渋谷亮]
はじめに
1 放デイと支援の論理
2 第三の場所をつくる――Aさんの語り
3 枠づけることと枠を外すこと
4 世界の繕いとケアの循環――Cさんの語り1
5 遊びとコミュニケーション――Cさんの語り2
6 子ども目線で考える――Eさんの語り1
7 わちゃわちゃした空間――Eさんの語り2
おわりに
第6章 個別と集団に橋を架ける――児童養護施設の混乱と言葉の回復[久保樹里]
はじめに――社会的養護の変遷
1 児童養護施設の崩壊――集団と個別のはざまに落ちる子どもたち
2 一からの立て直し――子どもと大人の信頼感の再構築
3 アタッチメントの理解を養育の基盤に
4 第二波の荒れの中で――年長児童の変化
5 集団養育と小規模養育の課題と工夫
おわりに
第7章 「声は出してないけど、涙ずっと流れてるんですよ。それで、『守ってあげないとな』って思いました」――社会的養護を経験したヤングケアラーAさんの語りから[村上靖彦]
1 母親の薬物使用をめぐるあいまいさ
2 母の逮捕のあと――こどもの里での滞在と知の獲得
3 西成から離れた高校時代以後――「無理」と自立
4 受刑中の母親との交流
5 現在の生活
まとめ
前書きなど
序章 すき間と力
1 すき間と語り
本書は、社会の中で〈すき間・はざま〉に置かれる子どもと親をテーマとする。〈すき間・はざま〉にあるということは、福祉制度によってカバーしきれないすき間に置かれているということである。制度のすき間は、グレーゾーンだったり特殊事例だったり、場合によっては表に見えにくい虐待や差別だったりといった形を取るだろう。このことは類型化が難しいということを意味する。すき間にある事象は典型から外れるわけであり、統計的な把握では捉えにくい。あるいは、見方を変えると制度が想定しているような典型例というのはそもそも存在しない。すべての人は何らかの仕方で典型から外れる個別の事情を抱えており、その個別性において悩み、力を発揮している。誰かの個別の事情は他の人には当てはまらないのだが、まさにそれゆえに(個別の事情を抱えた)他の人を触発しインパクトやヒントを与えるだろう。
すき間に陥っている子どもや親の一人ひとりが個別の物語をもっている。そしてその〈物語〉は、語り得ない物語であったり言葉にされたことがない物語であったりする。つまり語りにくいがゆえにあいまいな語りを丁寧に聴き取ることで、かろうじて目に見えるようになるような、そういうすき間なのである。そして当事者として現場に巻き込まれるのでない限り、そのような語りを通してしか、私たちはすき間へのアクセスをもたないし、当事者にとっても語りに変換できたときにこそ、そのすき間が意味をもってくる。このような語りの重視という点で、本書は児童福祉領域の多くの論文や書物とは一線を画している。
社会のすき間には貧困や就労、国籍や戸籍の喪失、差別、病や障害、高齢者が抱える困難などさまざまなものがある。それぞれ重要であり多様でもあるのだが、その中で本書では話題を子どもと子育てにしぼる。
さらに、子どもと子育てをめぐるすき間の中で、本書はとくに2つの場面に焦点を当てる。1つは発達障害を中心とした障害のある子どもの中でグレーゾーンにいる子どもが陥るすき間である。もう1つは虐待や貧困といった、逆境が理由で親元で暮らせなかった子どもたちがつきあたるすき間である。
とはいえ本書の構成は、制度や外的なラベリングによる区分によらない。制度から漏れてしまうことがすき間であるのだから、ラベリングを前提にして議論をすることはすき間を強化することになってしまうだろう。本書は、ラベリングではなく当事者の目線から導き出される二部構成を取る。つまり当事者がもつ生き抜いていく力の発露、そして(居場所を失った)すき間から出発して居場所をつくっていく運動である。力の語りと、すき間から居場所がつくられる運動という2つの陽性の方向を取り出したい。
(…後略…)