目次
総論 社会の脆弱性を乗り越えるために――コロナは移民/外国人政策に何をもたらしているか[鈴木江理子]
Ⅰ 脆弱性はいかに露呈したか
第1章 「二回目の危機」――コロナ禍における南米系移民の人々の仕事と生活[山野上麻衣]
第2章 コロナ以前/以降の重層的困難と連帯の可能性――ベトナム人技能実習生への調査から[巣内尚子]
第3章 「学べない、働けない、帰れない」――留学生は社会の一員として受け入れられたのか[高向有理・田中雅子]
第4章 運用と裁量に委ねられた人生――コロナ禍で浮き彫りとなった仮放免者の処遇[呉泰成]
第5章 社会的危機と差別――ヘイトスピーチ、直接的差別、そして公的差別[明戸隆浩]
Column
1 移民をめぐる国際的な動向[佐藤美央]
2 台湾の外国人在宅介護労働者における「従順」と「抵抗」[鄭安君]
3 シンガポールの男性移住労働者たち[宋恵媛]
4 韓国の移民たちへの影響[金昌浩]
5 アメリカ合衆国におけるコロナ危機と移民[南川文里]
Ⅱ 脆弱性をどのように支えるか
第6章 雇用は守られているか――政府のコロナ対応・外国人労働者政策を検証する[旗手明]
第7章 学びとつながりの危機――外国にルーツをもつ子どもの多様性を受け止める[田中宝紀]
第8章 セーフティネットの穴をいかに埋めるか――いのちをつなぐ連帯と協働[大川昭博]
第9章 コロナ禍で発揮されたネットワークの力――愛知県内での取組みから[土井佳彦]
Column
6 大阪・ミナミの外国人家族支援[原めぐみ]
7 移住労働者たちの労働現場[坂本啓太]
8 日本の難民と難民支援協会の対応[石川えり]
9 多国籍化するカトリック教会での「共助」の取組み[山岸素子]
10 新型コロナ「移民・難民緊急支援基金」の試みと成果[崔洙連]
Ⅲ 「もうひとつの社会」に向けて
第10章 諸外国の事例を通して考える「特定技能」――雇用縮小下・移動制限下での外国人労働者の受入れ[加藤真]
第11章 コロナから考える統合政策――日本における多文化共生施策の課題と展望[近藤敦]
第12章 国際人口移動の流れは変化したのか――パンデミック下の実態と今後のゆくえ[是川夕]
あとがき[鈴木江理子]
前書きなど
総論 社会の脆弱性を乗り越えるために――コロナは移民/外国人政策に何をもたらしているか[鈴木江理子]
(…前略…)
移民社会・日本
では、日本はどうであろうか。
近年、人口減少・労働力不足を背景に、政府主導で「外国人材の活用」「共生」が謳われている。二〇一八年一二月、深刻な労働力不足に対応するために、政府は出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)を改定し、新たな外国人労働者のフロントドアからの受入れへと舵を切った。同時に、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(以下「総合的対応策」)を決定し(二〇一八年一二月、一九年一二月と二〇年七月改訂)、「共に生きる」ための環境整備に向けて取組みを進めつつある。
水際対策のための国境封鎖により、二〇二〇年六月末現在統計では微減したものの、二〇一九年末現在の在留外国人数は二九三万三一三七人と過去最高を記録し、うち三七・七%が在留期間に制限のない永住資格(「特別永住者」と「永住者」)を有し、五一・〇%が就労に制限のない資格で滞在している。非正規滞在者も含めて、「在留外国人」に含まれない外国人もこの社会で暮らしている。日本国籍を取得した元外国人や、「ダブル」と呼ばれる移民/外国ルーツの出生日本人も年々増加しており、たとえば、二〇一九年に日本で出生した子どものうち、二五人に一人は、少なくとも両親の一方が外国人である。政府は「移民」という言葉の使用を忌避し、「移民政策ではない」という見解を繰り返しているものの、日本はすでに「移民社会」である。
そして、重要なのは、言葉をめぐる論争ではなく、移民社会・日本の実態にふさわしい法制度や環境が整備されているかということである。かつて送出し国であった日本が受入れ国へと転換して三〇年余りが経過している。日本で暮らす移民/外国人はおよそ三倍に増えるとともに(一九八八年末の外国人登録者数=九四万一〇〇五人)、国籍、性別や年齢、在留資格や滞在年数、居住地域などの構成も変化している。これに対して、居住局面の移民/外国人政策(統合政策、[多文化]共生施策、第11章参照)、労働や教育の現場、地域社会における取組みやホスト住民の意識などは、どれほど変化したのであろうか。この間、日本社会は、阪神・淡路大震災(一九九五年)、リーマンショック(二〇〇八年)、東日本大震災(二〇一一年)といった「危機」(非常事態)に見舞われたが、その経験は活かされているのであろうか。
本書の目的は、「移民社会・日本」の実態を、アンダーコロナという「非日常」から検証するとともに、過去の経験を踏まえつつ、移民/外国人の視点から「もうひとつの社会」に向けた課題を考察することである。
(…後略…)