目次
はしがき
序章 生活保護制度における自立論研究の概要
1.本研究の目的、対象、方法
2.本研究の社会的背景
3.先行研究との対比における本研究の位置
4.本研究の課題と分析の視点
5.本研究が重視した視点
6.本研究における用語の定義
おわりに
第1章 生活保護制度における自立と自助についての政策動向の歴史的変遷
はじめに
1.生活保護制度における時期区分
2.生活保護制度における自立論の変遷
3.生活保護制度における自立論の変遷からみる到達点と課題
おわりに
第2章 「切れ目のない就労・自立支援とインセンティブの強化」という自立論を考える
はじめに
1.「就労インセンティブを強調する自立論」が進める生活保護政策
2.先行研究からみる「就労インセンティブを強調する自立論」
3.「就労インセンティブを強調する自立論」が導入された経緯
おわりに
第3章 就労支援事業参加者を対象とした実態調査――就労意欲と就労阻害要因に着目して
はじめに
1.現場実践に基づく先行研究からみる就労支援の課題
2.就労阻害要因と就労意欲という課題の提起
3.現場実践から考える就労支援の課題と新しい自立論の提案
おわりに
第4章 生活保護行政における伝統的自立論と新たな自立論
はじめに
1.伝統的自立論モデルとしての北九州市と大阪市における生活保護行政
2.現場実践から生まれた江戸川区、山城北、釧路市にみる新しい自立支援
3.新しい自立論としての中間的就労の変遷
4.伝統的自立論克服のための新しい自立論の到達点と課題
おわりに
第5章 日韓比較研究からみる新たな中間的就労の可能性――新たなセーフティネットの構築を目指して
はじめに
1.韓国における生活困窮者を対象とする就労支援体制
2.韓国における就労支援体制の見直しで起こる最低生活保障の崩壊
3.日韓両国で進むワーキングプアの公的扶助からの退出への仕組み
おわりに
終章 本研究の到達点と課題
はじめに
1.ベーシックインカムの主張にみる可能性と危険性
2.生活保護制度にみる「普遍的」な「最低」生活保障
おわりに
あとがき
参考・引用文献
索引
前書きなど
はしがき
本書は、現代日本の公的扶助を代表する生活保護制度における自立論をテーマにしている。生活保護利用者(以下、保護利用者)がどのような社会資源を利用して「自立」をしていくのが望ましいのか、それに対して生活保護行政はどのような社会福祉サービスを行うのが望ましいのかを考察している。
(…中略…)
本書の構成は、序章「生活保護制度における自立論研究の概要」、第1章「生活保護制度における自立と自助についての政策動向の歴史的変遷」、第2章「『切れ目のない就労・自立支援とインセンティブの強化』という自立論を考える」、第3章「就労支援事業参加者を対象とした実態調査――就労意欲と就労阻害要因に着目して」、第4章「生活保護行政における伝統的自立論と新たな自立論」、第5章「日韓比較研究からみる新たな中間的就労の可能性――新たなセーフティネットの構築を目指して」、終章「本研究の到達点と課題」という7部構成になっている。
序章「生活保護制度における自立論研究の概要」では、生活保護行政と障がい者運動における自立論が社会福祉制度の利用をめぐり相反する主張を行ってきたことに着目している。(……)
第1章「生活保護制度における自立と自助についての政策動向の歴史的変遷」では、生活保護制度における自立論について歴史的、社会的な分析を行った。生活保護制度における自立論は、その時代の貧困観や社会福祉政策を反映する論点となっている。このため生活保護制度における自立論について歴史的、社会的な分析から、現代社会の課題を明らかにしようとした。(……)
第2章「『切れ目のない就労・自立支援とインセンティブの強化』という自立論を考える」では、先行研究の分析から2013年度の生活保護法「改正」とともに導入された「就労インセンティブを強調する自立論」について言及した。(……)
第3章「就労支援事業参加者を対象とした実態調査――就労意欲と就労阻害要因に着目して」では、現場実践に根ざした先行研究から、生活保護利用者が働くということが就労阻害要因、就労意欲(生活意欲)と所得保障にどのように関係しているのかを明らかにすることが必要であると考えた。(……)
第4章の「生活保護行政における伝統的自立論と新たな自立論」では、生活保護行政が抱える最大の問題点である超低保護率と保護申請手続きの複雑さ、スティグマ(恥の烙印)の付与が生まれる構造を、「北九州方式」や「大阪方式」と呼ばれる伝統的自立論から説明している。(……)
第5章の「日韓比較研究からみる新たな中間的就労の可能性――新たなセーフティネットの構築を目指して」では、日韓両国で見直しが進められた生活困窮者を対象とした所得保障策と就労支援策についての政策動向をさぐり、一般就労や福祉就労とは異なる第三の働き方として日本において注目された中間的就労について改めて評価を行っている。(……)
終章「本研究の到達点と課題」では、生活保護行政において「自立助長」「自立支援」という名のもと手法を変えて保護から退出させることを進める就労自立論が展開されているということを述べた。(……)
今、まさに社会福祉における自立論は、新たな政策動向が生まれ、歴史的転換点に立っている。しかし、社会福祉における自立論についての研究動向はこの重要な局面に危機感をもって立ち向かっているのだろうか。本書をもとに検討が始まれば幸いである。