目次
はじめに
第1部 新型コロナウイルス・感染症と教育について知る
1 歴史家が語る、パンデミックを生きる指針[藤原辰史(京都大学)/聞き手:杉浦真理・池田考司]
1 コロナ時代への対応
2 「善」という感覚
3 「パンデミックを生きる指針――歴史研究のアプローチ」について
4 社会を見つめ直す視点を若い世代に
5 感染症下の教師へのメッセージ
2 公衆衛生・医療から考える感染症[尾島俊之(浜松医科大学)]
1 感染症の基礎知識
2 感染症の動向
3 保健所・行政による感染症対策
4 保健所等と学校の連携
5 養護教諭等による感染症対策
3 パンデミック下の教育課程づくり[子安潤(中部大学)]
1 学校休業の波
2 文科省の教育課程再編方針
3 削減ばかりの教科外活動
4 教科内容分析と子どもの経験という視点からの再編
5 オンライン授業と教育課程
4 コロナによって出現したオンライン授業の形と未来[杉浦真理(立命館宇治中学校・高等学校)]
1 オンライン教育の緊急性
2 オンライン教育の実際
3 オンライン教育の波及効果
4 オンライン教育とオフライン(対面)教育の融合
5 新型コロナウイルス感染症・経済停滞と子どもの貧困[末冨芳(日本大学)]
1 コロナ前から生命や安全が保障されていない日本の子どもたち
2 子どもの貧困は所得だけではなくウェルビーイング(幸福度)で測られている
3 経済停滞の中で子どもたちに起きていること
6 緊急時に示された子ども若者の社会参加・参画保障の重要性[池田考司(北海道教育大学)]
1 「9月入学」を求める当事者としての高校生の行動
2 大学生も学費減免等を求め動いた
3 グレタさんだけではなく、日本でも
4 新学習指導要領における「主権者教育」の位置づけ
5 緊急時の学校単位での自主活動
6 子どもの権利は「不要不急」?
7 「未来に対する権利」
第2部 感染症の授業プラン
1 感染症と共に生きる授業をしよう【小学校】[佐藤広也(札幌市立栄小学校)]
1 子どもの願いは生きること
2 保健室の行列・熱・マスク・ソーシャルディスタンス
3 子どもたちに経験を記録化させていくこと
4 「はたらく細胞」を見ながら考える自分の体のこと
5 新型コロナ肺炎 COVID-19をキャラクターにしてみる
6 今も昔も「マスク」で感染症を防ぐ そして、「密」を防ぐ
7 感染症カルタを「読む」
8 「感染症カルタ」をすすめる、そして創る
9 47番目のカルタ作り、あるいは47番目だけのカルタ作りを
おわりに:楽しく楽しく生き生きと学ぶ
2 聞いて・調べて・考える、新型コロナウイルスと感染症の授業【小学校 総合的な学習の時間】[村越含博(北海道公立小学校)]
はじめに
授業の進め方
さいごに
3 第1次大戦と感染症――感染症の歴史の授業【中学校 社会科(歴史的分野)】[田中龍彦(佐賀県白石町立有明中学校)]
はじめに
1 第1次世界大戦について
2 授業案〈第1次大戦と感染症〉
おわりに
4 コロナ禍の中学公民の授業――SNS、差別、雇用、ワクチン【中学校 社会科(公民的分野)】[山本悦生(津和野町立津和野中学校)]
1 SNSによる拡散(情報社会)
2 感染症と差別(基本的人権の尊重)
3 非正規労働者(労働環境)
4 ワクチン(国際社会)
追記
5 感染症はなぜ広がったのか――第一次世界大戦の歴史に学ぶ【高校 地歴科(歴史総合)】[山本政俊(札幌学院大学)]
1 はじめに――歴史と感染症との関係を問う
2 教育課程上の位置づけ
3 授業事例
6 地理教育でCOVID-19をどう扱うか――システム思考を活用した授業を創る【高校 地歴科(地理総合)】[泉貴久(専修大学松戸高等学校)]
1 感染症を地理的にとらえることの意味
2 教育課程上の位置づけ
3 システム思考と地理教育
4 授業事例:単元「COVID-19から持続可能な社会を考える」
7 コロナ禍で社会のひずみが可視化された! 新しい社会、よりよい世界を創造しよう!【高校 公民科(公共・政治経済)】[福田秀志(兵庫県立尼崎小田高等学校)]
1 はじめに――コロナ禍で普段見ようとしてこなかったことが見えてきた
2 学校再開以降、コロナ禍を授業でどう扱ったのか?
3 どういう授業を構想しなければならないのか。
おわりに
8 感染症と国際社会――コロナ後の理想世界(パクスコロナ)はどんな世界?【高校 公民科(公共・現代社会)】[藤川瞭(立命館宇治中学校・高等学校)]
1 はじめに――現代社会とコロナウイルス
2 教育課程上の位置づけ
3 授業事例
おわりに――コロナ後の世界を「そうぞう(想像・創造)」しよう
9 ポストコロナ期に求められる教育――「競争主義」に対峙するOAに学ぶ【高校生・大学生に語る技術論】[山口歩(立命館大学)]
はじめに
閑話休題
1 日本の半導体は何故敗退したのか
2 風力発電は何故デンマークなどが確立することになったのか
3 まとめにかえて
おわりに
執筆者略歴
前書きなど
はじめに[編著者 池田考司]
感染症の時代を生きていくために
政府の要請にもとづく一斉休校による混乱、感染者や都市部からの訪問者へのバッシングや嫌がらせ、自粛要請や客の激減による飲食業や宿泊業等の相次ぐ倒産・閉店、非正規労働者を主とした解雇の増加。
今年2020年は、新型コロナウイルスCOVID-19という感染症の流行に社会が大きく揺れ動いた年でした。
本書は、そのような感染症が生み出した混乱や困難に対して、冷静に対処していくための知識・情報を共有する機会を提供したい。また、未開地まで進む開発・人口集中の都市化・瞬く間に世界であらゆることが伝播するグローバル化の進行により、今後も感染症の一定の間隔での発生が避けられない時代を生きていく子どもたちに、冷静に、そして、主体的に感染症と向き合い、対処していくための教養・視点を提供する教育・授業をみんなでつくっていきたい。そのような思いで今年6月から企画を始めたものです。
市民が感染症と感染症をめぐる事態を考えていくための第1部
第1部では、歴史学、保健医療学、教育学、貧困政策の専門家から、感染症事態をどう見て、これからどう向き合っていくべきかを考えるための指針を提示してもらっています。
感染症は、人類の長い歴史の中で何度も大流行し、人類は多くの犠牲も出しながら、乗り越えてきています。
また、感染症に対する対処・政策についても、国家や地域による差があり、何が最善なのかを考え、国民が参加して政策決定していく必要があります。
感染症と向き合うための重要な知見がコンパクトにまとめられた第1部を、教師だけでなく、多くの人に読んでほしいと思い、まとめました。
学校現場で感染症の教育・授業を始めていくための第2部
一斉休校、様々な教育活動の制約。学校で話し合い、方針を立てても、あっという間に変更・作り直しとなる。そんな事態の連続で無力感を感じた教師の方がたくさんいるということを聞いてきました。
この状況の中で、感染防止を優先して、今までの教育活動を縮小してやっていくしかないのか。子どもたちの不安や揺れ動きが次々と起こる中で、感染防止以外に教師として伝えることはできないのか。感染症そのもの、さらには感染症をめぐる動きについて、子どもたちが話し合い、考えていく教育・授業をつくれないのか。そのような思いを持っている先生がたくさんいると思います。しかし、「学習の遅れ」への対策が求められ、感染対策にも多くの時間を割かれ、感染症の教育・授業をつくっていく余裕がないと感じる現実があると思います。
そのような先生方のため、今まで数多くの教育実践を積み上げてきた全国の実践家に、そのまま使うことができ、アレンジして使うこともでき、またオリジナルの授業づくりの着想の土台にもなる授業プランをつくり、提案してもらいました。
授業プランは、小学校2本、中学校2本(歴史・公民)、高校4本(歴史・地理・公民)、大学1本(情報)と各段階のものを紹介しています。
小学校は、教科の枠にとらわれない、日常の中での実践プランが提示されています。中学校は、多数の実践資料を書籍として提供してきているお二人に執筆してもらいました。高校は、新科目のスタートも見据えながら、授業プランを提示してくれています。
私は、子ども若者の「未来に対する権利」をここ数年提唱しています。これからの長い人生のある子ども若者こそが、未来に大きな影響のある決定に参加・関与していく権利があると思うのです。そのための学習の権利があると思うのです。感染症は、まさにそのような、子ども・若者、教育者としての教師が関わるべき課題だと思うのです。本書がベースになった教育・授業が、子ども若者の未来創造の力の一つになることを願っています。