目次
まえがきと謝辞
日本語版への序文
凡例と資料
第一部 歴史
はじめに
第一章 はじまり 一九三四年一一月~一九三五年六月 酒をやめていないアルコール依存症者の限界
第二章 最初の成長 一九三五年六月~一九三七年一一月 酒をやめたアルコール依存症者の限界
第三章 AAの独立 一九三七年一一月~一九三九年一〇月 限界のなかに、全体性を見いだす
第四章 成熟を願うAA 一九三九年一〇月~一九四一年三月 他者を求めて――AAが周知される時代
第五章 AA成熟への道 一九四一年~一九五五年 アルコホーリクス・アノニマスの限界
第六章 成熟にともなう責任 一九五五年~一九七一年 有限だからこそ生まれるAAの全体性
第二部 解釈
はじめに
第七章 米国史のより広い文脈で
第八章 宗教思想史の文脈で
第九章 AAの意味と意義
補遺A AAと「絶対的存在」 成長あるいは完成としての「霊的なもの」
補遺B 時が満ちて 一九七一年~一九八七年 古い境界と新しい限界
参照文献解題
訳者による解説 『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』の構成と特徴
註
索引
著者・訳者紹介
前書きなど
日本語版への序文
(…前略…)
本書『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』は、二つの本が一つになったものと考えていい。前半はAAが誕生し発展する、創始から一九七〇年代までの詳細な物語である。後半はアルコール依存症からの回復に取り組むAAプログラムの中身を探り、幅広い思想史におけるAAの歴史的意義を掘り下げる探究である。一八〇の国に二一〇万以上のメンバーがいるAAの成長と、依存症研究の国際的な成長に照らすと、本書『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』が最初に刊行されて以来、四〇年のあいだずっと、本書はAAの誕生を物語る決定版の歴史書であり続けた。
アルコール依存症という病気よりもアルコール依存症者という人間のほうがずっと興味深い――AAがそう主張するのと同じく、アーニーもそのように言い続けてきた。アルコール依存症者の回復体験には何か普遍的な価値がある、と彼は気づいた――人間が神でないこと、それを彼は、不完全さを受け入れるスピリチュアリティだと、よく表現していた。このように受け入れることで、現代人のひとりひとり、現代の家族や社会や国家をも冒している多くの病気に対する、効果的で本質的な治療になると感じていた。アルコール依存症の原因と結果よりは、アルコール依存症からの回復体験のなかに人間は何を見いだしうるかという思いがけない意味のほうに、彼は強くとらえられていた。とくに、回復のなかにある逆説にふれて、彼は畏敬の念をもった。病いという呪われた状況のなかに、隠された贈り物がある。自分が弱いと受け入れるところから強さが立ち上がってくる。ばらばらになったものが一つになる。もっとも厳しい疎外と孤独から、本当のつながりと仲間が生まれてくる。恨んだり憎んだりする気持ちが、赦ゆるしと感謝に道を譲る。自分を偉いと思いこんだり、自分を嫌悪したりしたのが、自分を受け入れられ謙虚さを得られるようになる。自分も他人も傷つけていたのが、他のために何かができるようになる。これらは、アルコール依存症から回復する男女を観察し続けたアーニー・カーツが見いだした、心にしみる教訓の一部である。
(…後略…)