目次
まえがき――「居酒屋独立論」から「科学的独立論」へ[松島泰勝]
Ⅰ 琉球独立論にいたる道――沖縄・日本・教育[前川喜平×松島泰勝]
独立論を唱える動機になった原体験
EUのような地域共同体は可能か
アメリカ従属から独立する
琉球独立のモデルは
1972年の方言札
元祖「忖度」の教科書検定
八重山の教科書問題
もっとも成功した面従腹背
竹富町は独立の拠点になりうる
Ⅱ 歴史・法・植民地責任――ニューカレドニアから琉球を見る[佐藤幸男×前川喜平×松島泰勝]
独立をめぐる国際法
第二の沖縄戦への不安
「ごさまる科」とはなにか
「郷土を愛する」を援用する
歴史総合の課題
ニューカレドニア住民投票を解読する
「独立」というコードを再構築する
「植民地」の経済効果
琉球アイデンティティの行方
Ⅲ 近代の学問が生んだ差別――アイヌ・琉球の遺骨問題と国際法[上村英明×前川喜平×松島泰勝]
琉球人は先住民族
国連はアイヌを先住民族と認めた
押しつけはいつも日本政府から
民族自決権の衝撃
アイヌ語の継承をどうするか
「国語」の問題
盗まれた遺骨
遺骨をなにに使おうとしていたか
皇民化教育がもたらしたもの
学問の反省はどこまで進んだか
「集めること」が目的化している
Ⅳ 独立琉球共和国の憲法問題――国籍・公用語をめぐって[遠藤正敬×前川喜平×松島泰勝]
満洲国の国籍問題
日本モデルの国籍制度はなじまない
ルーツはいろいろあっていい
出会えばきょうだい
島々の伝統をつなぐ独立のかたち
自民族中心主義からの離脱
「島のなかの海」がイメージするもの
公用語をどうするか
資料 琉球共和社会憲法私(試)案[川満信一]
前書きなど
まえがき――「居酒屋独立論」から「科学的独立論」へ
なぜ琉球(沖縄)で日本からの独立が活発に議論されるようになったのだろうか。「沖縄から日本がよく見える」、「沖縄は日本を写す鏡である」とよくいわれる。新型コロナウイルス問題発生後、日本政府の独裁体制化、軍国主義化が露になったが、辺野古新基地問題のように、それは琉球に対しては先行した形で発動されていた。琉球独立論は日本政府への抵抗として提示されてきた議論であり、琉球独立の根拠は日本政府の琉球に対する植民地支配と脱植民地化運動にある。本書は日本政府批判の書であり、戦前であったら、発禁処分を受けていたかもしれない。日本が戦前のような社会にならないようにとの願いを込めて、敢えて本書を世に問うことにした。
独立運動には、政治経済的、社会的、思想・文化的な側面がある。独立が実現する上で土台になるのが社会的、思想・文化的な側面である。たとえ政治経済的に宗主国に大きく従属し、独立後、経済的な困難が予測されていても、独立運動が大きく盛り上がり、独立が実現する場合が多い。それは植民地支配による「人間否定」の状態から脱したいという、人の存立に関わる根源的な欲求が独立運動を推し進めてきたからである。独立運動において、社会的、思想・文化的な活動や表現が先行的に現れてくると考えていい。本書は、琉球独立の軸になる部分に特に焦点をあてて検討を行なった。
本書は、これまでにない多様な視点から論じた、極めて、具体的で、斬新な琉球独立論である。文部科学省事務次官をつとめ、現在は自主夜間中学で教えられている前川喜平さん、太平洋島嶼と琉球の平和や独立を研究されてきた佐藤幸男さん、アイヌや琉球人を中心にして先住民族の権利回復の研究や社会運動の第一人者である上村英明さん、日本や日帝植民地における国籍・戸籍問題や日本国のあり方を研究されてきた遠藤正敬さんと対談、鼎談を行なった。これまでの琉球独立論では掘り下げられることが少なかった論点を明らかにした。その結果、琉球独立を、琉球の将来における有効な政治的選択肢として提示することができたと考える。琉球独立論は、これまで「居酒屋独立論」といわれることもあったが、独立を客観的、具体的、国際的に研究する「科学的独立論」という近年の研究動向のなかにおいても、本書は一石を投じることになるだろう。
(…後略…)