目次
「移民・ディアスポラ研究」9の刊行にあたって
序章[小林真生]
1 日本におけるコミュニティとは
2 日本の移民をめぐる状況
3 本書の意義と方向性
4 本書の構成
5 移民社会の特性と展望
6 求められる当然の対応
第1章 80年代以前および難民のコミュニティ形成――主に生活防衛のための集住
1-1 在日コリアン――コミュニティの形成と変容[曺慶鎬]
1-2 華僑華人――80年代以前のコミュニティの形成について[陳天璽]
1-3 中国帰国者――「祖国帰還の物語」を超えて[南誠(梁雪江)]
1-4 インドシナ難民――現在・過去そして展望[長谷部美佳]
1-5 クルド人――ふるさとからの声[ソホラブ アフマディヤーン]
1-6 滞日ビルマ系難民――コミュニティの時間・空間・階層の観点から[人見泰弘]
1-7 ロヒンギャ――群馬県館林市から東京、バングラデシュへ[加藤丈太郎]
第2章 80年代以降の低賃金労働者――就業条件による集住・分散と存続・消滅
2-1 ブラジル人――デカセギ時代の起源と終焉 時間、空間、階層をめぐる模索[アンジェロ・イシ]
2-2 ペルー人――日本社会におけるペルー人コミュニティの30年間[スエヨシ・アナ]
2-3 フィリピン人女性――折りたたみ椅子から大家族の一戸建てへ[高畑幸]
2-4 中国人留学生――1980年代から現代までの変化とコミュニティの特徴[佐藤由利子/徐一文]
2-5 韓国人超過滞在者――1990年代の横浜・寿町を中心に[山本薫子]
2-6 フィリピン人男性――草の根からの多文化主義[マリア・ロザリオ・ピケロ・バレスカス/高松宏弥]
2-7 パキスタン人――エスニック・ビジネスの確立と定住[福田友子]
2-8 イラン人――超過滞在者としての人生[駒井洋]
2-9 バングラデシュ人――新しい層の流入と第2世代以降の定着[水上徹男]
2-10 タイ人――「分断」された多様な人びと[石井香世子]
第3章 80年代以降の研修生・技能実習生――就業業種による規定と一時的滞在性
3-1 中国人研修生・技能実習生――一時滞在性と過疎地での若年労働力供給[上林千恵子]
3-2 ベトナム人研修生・技能実習生――仮想空間に拡大するコミュニティと今後の展望[岩下康子]
3-3 インドネシア人研修生・技能実習生――多様な既存コミュニティの活用[奧島美夏]
第4章 高度人材の移動と分散――IT革命を転機として
4-1 中国人高度人材――滞日経験者の国際移動 コミュニティとモビリティの関係性[王暁音]
4-2 韓国人ニューカマー――ミドルクラスの移動と定着[ソン・ウォンソク(宣元錫)]
4-3 インド人IT技術者と商人――東京と神戸の対比[澤宗則]
4-4 ロシア人――宣教師からITエンジニアまで[ゴロウィナ・クセーニヤ]
4-5 アメリカ人――現実のコミュニティの非存在[ジェンス・ウィルキンソン]
4-6 トンガ出身者――ラグビーを職業とする人々[北原卓也]
第5章 2010年代の新規移民――継続する課題と次世代の胎動
5-1 ネパール人――定住を目指す家族の増加[田中雅子]
5-2 ベトナム人留学生――中国人留学生と比較した特徴とコミュニティの役割[佐藤由利子/フン・ティ・ハイ・タン]
5-3 ジャパニーズ・フィリピーノ・チルドレン(JFC)――国籍法改正を分岐点として[原めぐみ]
5-4 ナイジェリア人――アフリカ系移民と日本社会のまなざし[松本尚之]
5-5 ガーナ人――アフリカと日本とにルーツをもつ人たちと新たな移民たち[若林チヒロ]
書評 BookReview[駒井洋]
編集後記
前書きなど
「移民・ディアスポラ研究」9の刊行にあたって
(…前略…)
シリーズ第9号のタイトルは、「変容する移民コミュニティ-――時間・空間・階層」とすることとした。戦前における中国人移民および朝鮮半島出身者の移民の流入にはじまり、1970年代初頭の日中国交正常化による中国からの帰国者や、1970年代末からの難民および外国人労働者などの流入もあいまって、日本の移民コミュニティは、すでに百数十年に達する歴史的経緯のもとに日本列島全体への定住が顕著である。
これに対応して日本の移民研究も相当の歴史的な蓄積をもってきたのはたしかである。しかしながら、日本の移民研究は、特定のコミュニティに集中する傾向があり、ほとんど無視されているコミュニティがかなり存在しているのは事実である。さらに、実態の解明がほとんどなされていない、かつては存在していたが現在は消滅しかけているコミュニティや急速に出現しはじめているコミュニティも相当ある。そのため、われわれは手間のかかる作業であることは承知のうえで、現時点における日本の移民コミュニティの全体像を提供することを決意した。
執筆者は、いずれもそれぞれの移民コミュニティについて余人に代えがたい識見をお持ちの方々であるが、時間、空間、階層の三つの軸にもとづく分析をお願いした。すなわち、時の流れとともにそのコミュニティがどのように変容してきたか、とりわけ日本社会におけるそのコミュニティの社会的経済的地位がコミュニティ形成にどのような影響を与えたか、集住と分散という視点からそのコミュニティはどのような空間的特徴をもっており情報技術はそれにどのように関係するかという三つの軸である。
本書は5章から構成されている。第1章は80年代以前の移民と難民を対象とし、生活防衛のための集住に着目する。第2章は80年代以降の低賃金労働者を対象とし、就業条件による集住・分散と存続・消滅に注目する。第3章は90年代以降の研修生・実習生を対象とする。第4章は高度人材の移動と分散を対象とし、情報技術革命という条件が重視される。第5章は2010年代の留学生をふくむ新規移民を対象とする。
本書の編集作業中に新型コロナウィルスの蔓延が発生し、移民たちも感染の危険性、失業、帰国の困難性など、きわめて困難な状況に置かれている。本書で提供した知見が、移民たちの直面している窮状の解決に少しでも貢献できることを望みたい。