目次
まえがき
第Ⅰ部 「米中対峙」の新展開とASEAN(イシュー編)
第1章 米中対峙と中国‐ASEAN関係――多国間枠組みによるバランシング
はじめに
1.インスティテューショナル・バランシング(IB)
(1)インスティテューショナル・バランシング(IB)
(2)IBの推進とその分岐
2.「一帯一路」「周辺外交」とASEAN諸国
3.「一帯一路」とFOIPのバランシング
(1)FOIPとアメリカの対中政策
(2)ASEANの位置づけと地域秩序の特徴
(3)中国の対応と西側の再対応
(4)「一帯一路」とFOIPによる相互のIB
おわりに――地域秩序の変容とIBの限界について
第2章 米中対峙下におけるアジア太平洋の多国間制度
はじめに
1.力の移行、勢力均衡、多国間制度――本章の学術的意義
2.米中対峙下の多国間制度――ルール・規範形成をめぐる抗争
3.アジア太平洋における抗争的多国間主義
(1)抗争的多国間主義
(2)レジーム・シフティング
(3)競争的レジーム創設
4.アジア太平洋の多国間制度の二つの課題
(1)大国間の緊張緩和における課題
(2)大国主導の多国間制度・枠組みからの挑戦
おわりに
第3章 「一帯一路」時代の日本外交――リベラルなASEANの守り
はじめに――日本にとってのASEAN
1.ASEANに接近する中国
(1)「一帯一路」以前の中国・ASEAN関係
(2)ASEAN連結性強化のためのAIIBと「一帯一路」
2.日本の対ASEAN外交の変化
(1)「質の高いインフラ」という対抗言説の形成
(2)ASEANとの防衛協力の開始
3.地域秩序の模索と日中関係の改善
(1)「自由で開かれたインド太平洋」の変遷と展開
(2)日中関係の改善と「一帯一路」への間接的協力
おわりに
第4章 シャープ・パワー概念とASEAN
はじめに――「シャープ・パワー」とは何か
1.「シャープ・パワー」概念への二つの助走路
(1)国際関係論におけるパワー論議の推移
(2)通奏低音としての「中国脅威論」
2.「シャープ・パワー」概念
(1)「シャープ・パワー」概念の登場
(2)「理念の戦争」としての「シャープ・パワー」概念
3.広域アジア国際関係へのインパクト
(1)米トランプ政権の登場
(2)「インド太平洋」地域概念の浮上
(3)内憂外患とASEANの機能低下
4.南シナ海紛争の変容
(1)中国による「一方的現状変更」
(2)ASEANの対応
(3)米中「言説戦争」
おわりに――「シャープ・パワー」概念と「チキディデスの罠」
第5章 アジアにおける非伝統的安全保障協力――ASEAN主導の「平和」の制度化:テロ対策を事例にして
はじめに
1.なぜ「非伝統的安全保障」なのか
2.テロ対策に対するASEANと中国の立場
3.テロ対策に向けた多国間協力の取り組み
(1)ARF(ASEANリージョナル・フォーラム)での取り組み
(2)APECでの取り組み
4.中国におけるテロリズム対策の動向
おわりに
第6章 一帯一路と東南アジア経済
はじめに
1.中国の対東南アジア経済進出
2.中国特有の東南アジア進出の形態
(1)中国の対外経済合作
(2)華人の存在
3.中国とASEANとの制度的関係
(1)ASEAN中国FTA
(2)中国ASEAN博覧会
(3)中国ASEAN投資協力基金
おわりに
第Ⅱ部 ASEAN諸国と「一帯一路」(各国編)
第7章 ドナーとしての中国の台頭とそのインパクト――カンボジアとラオスの事例
はじめに
(1)本章の焦点
(2)中国の「一帯一路」と東南アジアへの影響
1.カンボジア・ラオスの開発・安定・政治体制の位置づけ
(1)着実な経済発展
(2)国の安定
(3)行政能力のゆるやかな改善
(4)腐敗・汚職の横行
(5)政治の独裁化
2.カンボジア・ラオスに対する中国の援助と投資の拡大
(1)カンボジアへの援助の動向
(2)カンボジアへの投資の動向
(3)ラオスへの援助の動向
(4)ラオスへの投資の動向
3.中国の経済的影響力拡大の功罪
(1)2014年論文の暫定的結論
(2)カンボジアにおける権威主義体制化の問題
(3)ラオスにおける「債務の罠」の問題
おわりに――カンボジア・ラオスの将来と中国・日本の役割
第8章 米中対立のなかのベトナム――安全と発展の最適解の模索
はじめに
1.対外関係をめぐる二つの思考類型
2.第12回党大会――多角化路線の強調
3.「一帯一路」構想への対応――総論肯定、各論慎重
4.「インド太平洋」構想への対応――総論黙殺、各論協力
おわりに
第9章 ポスト軍事政権期の中緬関係――「一帯一路」はミャンマーに経済成長をもたらすか
はじめに
1.貿易
2.中緬国境貿易
3.外国投資
4.「一帯一路」と中国の変化
おわりに
第10章 マレーシアの中国傾斜と政権交代――「一帯一路」をめぐるジレンマとその克服
はじめに――「一帯一路」をめぐるジレンマ
1.対中経済関係の拡大――中国への依存が進む貿易と投資
2.中国傾斜への道――ナジブ政権による「一帯一路」への積極関与
(1)対中経済関係緊密化の過程
(2)「一帯一路」プロジェクトとその特徴
(3)中国傾斜の非経済的要因――1MDB問題
(4)民主化の逆行と「債務の罠」のリスク
3.政権交代後の対中政策――マハティール政権の対中国観と開発戦略
(1)「一帯一路」プロジェクトの見直し
(2)新政権の対中政策と対中国観
(3)「一帯一路」プロジェクトの再開と先端技術への関心
おわりに――対中依存から主体的な「ルック・チャイナ」政策へ
第11章 自立した外交を目指して――東ティモールの対中国外交とその意味
はじめに
1.国家承認の取り付けと外交関係の樹立――1999~2002年
2.復興支援・開発援助の取り付けと軍事的協力関係の構築――2002~12年
(1)新たな復興支援国・開発援助国として
(2)軍事的協力関係の構築
3.社会開発・経済開発のパートナーとして――2013年~現在
(1)経済的パートナーとして
(2)主権と領土の一体性をめぐって
おわりに
あとがき
索引
編著者・執筆者紹介
前書きなど
まえがき
冷戦終結が米ソ首脳によって宣言されてからちょうど30年が経過した。冷戦後しばらくの間、世界の政治・経済システムはやがて自由民主主義と市場経済へと収斂し、国家の繁栄と国際社会の安定は国際協調によってもたらされるとの認識が広く共有されていた。しかし、21世紀に入って20年を経たいま、その認識がそのまま通用すると考える者はもはやいまい。しかも、不確実性や混迷の度合いが深まるだけでなく、冷戦時代に経験した分断と対立の方向へと時代が逆行しているかのようにみえる。
アジアでは、中国の天安門事件から今年がやはり30年目にあたる。中国の国家体制はヨーロッパのかつての社会主義同胞諸国とは異なる方向に向かったが、変化の大きさで言えば、この間の中国の変貌ぶりは他国に類をみない。しかも、世界全体を揺り動かす最大の震源としてであり、国際社会の歴史を従来の覇権国とは異なる価値観をもって牽引する新興大国としてである。
本書はこの中国の変化、特に近年の急速な「中国の台頭」がもたらす影響を取り上げる。11名の執筆者は、東南アジア諸国や東南アジア諸国連合(ASEAN)とそれを取り巻く国際環境をすでに15年以上にわたって分析してきた「21世紀アジア研究会」のメンバーである。同研究会はこれまでに3冊の研究書を明石書店から上梓して世に問うてきた。直近の『「米中対峙」時代のASEAN』(2014年2月)では、「中国の台頭」とその一つの帰結である「米中対峙」の状況に対して、東南アジア諸国やASEANがいかに対応したかを多面的に描いた。
(…後略…)