目次
はじめに[川松亮]
第1部 市区町村子ども家庭相談体制は今どうなっているか[川松亮]
第1章 市区町村子ども家庭相談はどう進展してきたか
1 要保護児童および要支援家庭に対する支援体制の転換
2 子ども家庭相談における2004年体制の始まり
3 「市町村児童家庭相談援助指針」に見る市区町村の役割
4 地域における支援ネットワークの展開
5 2016年児童福祉法改正への経緯と「市町村子ども家庭支援指針」
第2章 市区町村子ども家庭相談はどのような課題を抱えているか
1 市区町村の相談体制はどうなっているか
2 相談対応の現状はどうなっているか
3 要保護児童対策地域協議会の運営はどうなっているか
4 子どもの虹情報研修センターによるヒアリングの問題意識
第2部 先進自治体の取り組み事例
掲載自治体の紹介とヒアリング実施日
1.長野県池田町の取り組み――小規模自治体における充実した支援体制の構築[川松亮]
1 池田町の概要
2 池田町の子ども家庭相談の仕組み
3 池田町の子ども虐待対応の状況
4 池田町のネットワークの仕組み
5 池田町の取り組みの特徴と課題
6 まとめ
◆現在の相談体制の状況について(池田町役場健康福祉課)
2.大阪府熊取町の取り組み――福祉・保健・教育による協働体制の構築[川﨑二三彦]
1 熊取町の概要
2 熊取町の子育て施策
3 熊取町のネットワークの仕組み
4 熊取町の取り組みの課題
5 まとめ
◆現在の相談体制の状況について(熊取町子育て支援課)
3.大阪府泉南市の取り組み――予防を重視した取り組みときめ細かい巡回相談[川﨑二三彦]
1 泉南市の概要
2 泉南市の子ども家庭福祉行政
3 泉南市の子ども家庭相談の状況
4 泉南市の取り組みの課題
5 まとめ
◆現在の相談体制の状況について(泉南市健康福祉部保育子育て支援課)
4.大阪市西成区の取り組み――民間団体を中心とした濃密なネットワーク形成[川松亮]
1 西成区の概要
2 西成区の子ども家庭相談の仕組み
3 西成区の子ども虐待対応の状況
4 西成区のネットワークの仕組み
5 西成区の取り組みの特徴と課題
6 まとめ
◆現在の相談体制の状況について(西成区役所保健福祉課)
5.千葉県八千代市の取り組み――ランクづけによる進行管理と進行管理会議の工夫[安部計彦]
1 八千代市の概要
2 八千代市の子ども家庭相談の仕組み
3 八千代市の子ども虐待対応の状況
4 八千代市のネットワークの仕組み
5 八千代市の取り組みの特徴と課題
6 まとめ
◆現在の相談体制の状況について(八千代市子ども部子ども福祉課)
6.東京都新宿区の取り組み――地域エリアごとに設置された相談機関による支援体制の構築[小出太美夫]
1 新宿区の概要
2 新宿区の子ども家庭相談の仕組み
3 新宿区の子ども家庭相談の状況
4 新宿区のネットワークの仕組み
5 新宿区の取り組みの特徴と課題
6 まとめ
◆現在の相談体制の状況について(新宿区立子ども総合センター)
7.愛知県豊橋市の取り組み――若者支援を包含した地域ネットワークと児童相談所との良好な協働関係[川松亮]
1 豊橋市の概要
2 豊橋市の子ども家庭相談の仕組み
3 豊橋市の子ども虐待対応の状況
4 豊橋市のネットワークの仕組み
5 豊橋市の取り組みの特徴と課題
6 まとめ
◆現在の相談体制の状況について(豊橋市こども若者総合相談支援センター)
8.東京都町田市の取り組み――市内を細分化したエリアでのネットワーク構築[川﨑二三彦]
1 町田市の概要
2 町田市の子育て施策
3 町田市のネットワークの仕組み
4 町田市の取り組みの課題
5 まとめ
◆現在の相談体制の状況について(町田市役所子ども家庭支援センター)
9.大分県大分市の取り組み――市域を分けたセンター設置と臨床心理士の配置[安部計彦]
1 大分市の概要
2 大分市の子ども家庭相談の仕組み
3 大分市の子ども虐待対応の状況
4 大分市のネットワークの仕組み
5 大分市の取り組みの特徴と課題
6 まとめ
◆現在の相談体制の状況について(大分市中央子ども家庭支援センター)
第3部 これからの市区町村子ども家庭相談のあり方を考える[川松亮]
第1章 進んでいる自治体の取り組みと課題――子どもの虹情報研修センターヒアリング調査から
1 相談体制はどうなっているか
2 児童相談所との関係はどうなっているか
3 要保護児童対策地域協議会の実効的な運営をどう工夫されているか
4 自治体職員の積極的な姿勢
5 共通する課題と今後の方向性
6 政令市ヒアリング調査に見られた特徴
7 児童相談所設置市の特徴と課題
第2章 市区町村子ども家庭相談はどうあるべきか
1 市区町村子育て支援の基本構造
2 中学校区に1つのネットワークを
3 やってよかったと思える個別ケース検討会議を
4 児童相談所との協働関係を
5 重ね合う支援――役割分担の前に協働を
おわりに[川松亮]
前書きなど
はじめに
子どもが抱える様々な問題の解決を目的として子どもと家族を支援する取り組みは、わが国においては長く児童相談所を中心として営まれてきた。しかし児童相談所の設置は都道府県内に数か所であり、地域住民に必ずしも身近な存在であるとはいいがたい相談機関である。また、児童相談所につながることで救われた子どもや家族は多かったものの、児童相談所は子どもを一時保護する権限を有することに大きな特徴があり、その点でも住民にとって気安く相談できる場所としては認識されにくい面があったと思われる。
それでも児童相談所は、障がいのある子どもの療育や、不登校の子どもたちへの家族療法を取り入れた支援など、日本の子どもたちの健全な成長発達を保障する取り組みを長く展開してきた。しかし2000年代に入り、子ども虐待への対応が強化される中で、児童相談所の相談対応件数が急増し、対応力に比して求められる業務が上回るようになり、継続的な支援を丁寧に行うことが困難な状況が生まれてきた。
そのため2004年の児童福祉法改正では、それ以降の日本の子ども家庭相談体制を大きく変える画期となるような変革が行われた。すなわち、市区町村が子ども家庭相談の窓口として位置づけられ、子ども虐待の通告先ともされたのである。また、要保護児童対策地域協議会が法定化されて、地域のネットワークによる子ども家庭支援が全国的に開始されることとなった。
本書を刊行する2019年は、その児童福祉法改正から15年の節目となる年である。この15年間、市区町村が自らの地域の子どもと家族を支援するために、様々な工夫と努力のうえに、それぞれに独自の相談体制を構築してきた。しかし一方で、その体制構築に困難を抱えている市区町村も見られ、自治体間での取り組みや体制に格差があることが指摘されてきた。また、要保護児童対策地域協議会はすでに99.7%の自治体において設置されているが(厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課虐待防止対策推進室調べ、2017年4月1日現在)、その会議運営においては、会議の内容・構成機関・開催頻度などに悩みを抱えている自治体も多く存在している。市区町村における相談体制の構築はまだ道半ばということができるだろう。
こうしたことから、市区町村が他の自治体の取り組みを参考にしながら、自らの取り組みの内容や体制について検討をすることが必要になっているといえよう。そこで、編者が所属していた子どもの虹情報研修センターでは、全国の市区町村の中から先進的あるいは特徴的な取り組みを展開していると思われる自治体を選んで直接訪問し、その工夫の経緯や成果、現状における課題などをヒアリングして、それらをまとめて報告書として公表した。そのことで、他の自治体の体制整備の参考として資することを目的として、ヒアリング調査を行ったのである。
ヒアリング調査は、子どもの虹情報研修センターのメンバーと、外部の研究者として西南学院大学の安部計彦先生、流通科学大学の加藤曜子先生にご参加いただき、2014年から2016年まで実施したものである。訪問する自治体は共同研究者の持つ情報をもとに研究会で選定し、事前アンケートや当該自治体の関係資料提供をお願いして、事前に情報を収集したのちに共同研究者により実施した。3年間で計24自治体のヒアリングを行い、数々の優れた取り組みを知ることができた。ヒアリング報告書の原稿については、当該自治体の確認修正を求めたのちに作成した。
その後2016年の児童福祉法改正により、市区町村の子ども家庭総合支援拠点の整備が厚生労働省により進められることとなったが、ヒアリング自治体の取り組みは子ども家庭相談体制構築のヒントとなる情報が豊富に得られ、今後の市区町村での取り組みを検討するうえでの大きな参考になるものと思われる。そこで、24自治体のうちの9自治体を選定して、書籍として再整理して発刊することとした。なお、各掲載自治体の方には、ヒアリング後の取り組みの変化や進展について原稿を依頼し、あわせて収録している。ここに、ヒアリングをお受けいただいた市区町村のみなさまに心から感謝するとともに、本書への掲載をご承諾いただき、原稿もお寄せいただいた自治体のみなさまに合わせて深謝したい。
本書が、これからの市区町村子ども家庭相談の進展に少しでも寄与できれば幸いである。
2019年8月 共同研究者を代表して 川松亮