目次
はじめに
序章
第1節 研究の目的
1 危機介入から始まる保護者と児童相談所の関係
2 強いられた「協働」は主体者としての「協働」に変わることができるのか
3 保護者が主体者であるための新たな実践モデルの構築の可能性
第2節 先行研究
1 子どもの保護と家族機能の維持
2 保護者の属性研究
3 保護者と支援者の関係性に焦点を当てた研究
4 保護者と支援者の「協働」に焦点を当てた実証的研究
5 ソーシャルワークにおける「協働」
第3節 研究の方法
第4節 各章の構成と結果の概要
第1章 子ども虐待対応における現状と課題
第1節 子ども虐待対応の難しさ
1 子ども虐待対応件数の顕著な増加とその背景
2 子ども虐待対応の発展段階
3 ソーシャルワークにおける子ども虐待対応の独自性
4 子ども虐待対応の体系
第2節 危機介入と支援のはざまにおいて
1 子ども虐待対応における危機介入と支援をめぐる論点
2 子ども虐待対応における危機介入と支援をめぐる実践の変遷
3 パターナリズムと当事者参画
4 子ども虐待対応における4 つの「協働」レベル
おわりに
第2章 子ども虐待に伴う不本意な一時保護を経験した保護者の「折り合い」のプロセスと構造
第1節 研究方法
1 グラウンデッド・セオリーについて
2 研究協力者
3 インタビューにおける質問
4 倫理的配慮
第2節 コンセプトとカテゴリーの概要
第3節 「折り合い」のプロセスとその構造
1 〔失う〕ステージ
2 〔折り合い〕のステージ
3 〔引き取る〕ステージ
4 小括
第4節「折り合い」の実際
1 〔失う〕ステージ
2 〔折り合い〕のステージ
3 〔引き取る〕ステージ
第5節 まとめ――実践への示唆・グラウンデッド・アクションヘの展開
第6節 研究の限界
おわりに
第3章 不本意な一時保護を体験している保護者と対峙する場面での児童相談所職員の意識・態度の統計的分析と自由記述の質的分析及びその比較
第1節 調査の目的と方法・調査対象者の属性
1 調査方法
2 倫理的配慮
3 調査対象者の属性等
第2節 質問肢アンケートの統計的分析
1 支援者が一時保護をされた保護者に対して行う優先的虐待対応尺度の分析
2 研究の限界と今後の課題
第3節 アンケート自由記載にかかわるKJ法による統合
1 検討の方法
2 手続き
3 結果――KJ法B型叙述化の手続きに従って
4 考察
5 研究の限界
第4節 アンケートの統計的分析結果とKJ法A型図解化の比較
1 アンケート分析結果とKJ法A型図解化の比較
2 共分散構造分析モデル図とKJ法A型図解化の比較検討
3 まとめ
4 研究の限界
おわりに
第4章 子ども虐待に伴い不本意な一時保護を体験した保護者への「つなげる」支援のプロセスと構造
第1節 研究方法
1 グラウンデッド・セオリーについて
2 研究協力者
3 インタビューにおける質問
第2節 倫理的配慮
第3節 結果
第4節 「つなげる」支援の実際
1 〔対話ができる関係を創る〕ステージ
2 〔つなげていく〕ステージ
3 〔寄り添う〕ステージ
第5節 まとめ――グラウンデッド・アクション、実践への示唆
第6節 研究の限界と今後の課題
おわりに
第5章 子ども虐待ソーシャルワークにおける「協働」関係の構築――保護者の「折り合い」への「つなげる」支援の交互作用理論
第1節 研究方法
1 グラウンデッド・セオリーについて
2 研究協力者
第2節 倫理的配慮
第3節 結果
1 2つのグラウンデッド・セオリーの比較
2 2つのグラウンデッド・セオリーの統合
第4節 保護者の「折り合い」への「つなげる」支援の実際
1 対話ができる関係を創っていく
2 「折り合い」への「つなげる」支援
3 折り合おうとする保護者に寄り添う
第5節 まとめ――「『折り合い』と『つなげる』支援の交互作用理論」と実践への示唆
第6節 研究の限界
おわりに
第6章 新しい実践モデルの構築――「対話ができる関係を創る・『折り合い』への『つなげる』支援媒介モデル」
第1節 「協働関係構築のための『対話の構築/希望・見通し・目標の共有』媒介モデル」に「『折り合い』への『つなげる』支援」の交互作用理論」を組み入れる
第2節 「対話ができる関係を創る・『折り合い』への『つなげる』支援媒介モデル」の可能性――2つの事例に対する家族へのインタビューから学ぶ
1 サインズ・オブ・セーフティ(SofS)による安全づくりのプロセス
2 実践1 「一時保護をきっかけに合同ミーティングを重ね『もう、家族で話し合っていける』という言葉によって終結した事例における協働」
3 実践2「親族間の対立を乗り越えて子どもの安全を創り『大切にしているものは絆』と訴えた家族との協働」
おわりに
終章
第1節 結論
1 研究のまとめ
2 「協働」するということ
第2節 研究の限界
第3節 本書のおわりに
初出一覧
引用文献
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本書で論じているのは、子ども虐待ソーシャルワークにおける協働関係の構築である。保護者が主体者として児童相談所が対峙的な関係から子どもと家族がよりよく生きていくための目標に向かって進んでいくための協働関係をいかに創っていくのかというテーマである。さらに、そのよりよく生きていくための目標は、社会が家族に求める「子どもの安全」というテーマを内包したものでなければならない。つまり、子どもの安全が担保された家族にとってのより良い未来を構築するために保護者と支援者が協働していくにはどうすればよいのか、ということである。
(…中略…)
本書は現場で児童福祉司として実践をしてきた立場からの1つの子ども虐待ソーシャルワーク論である。子ども虐待ソーシャルワークに限らないが、ソーシャルワークの分野では、現場からの発信と、研究分野からの発信が必ずしも効果的に融合されているとはいえない印象がある。現場では、日々の実践の中で様々なことを感じ、考え実践を進めている。保護者との素晴らしい協働実践がありながら、それらの実践に共通するものをまとめたり、多くの実践家が共有できるように理論化していくことには、現場の日々の忙しさもあり必ずしも積極的ではない。研究においても、現場から遠く離れたところからの発信では、現場に響くものは少ない。実践と理論の融合はこれまでもたびたび議論されてきているが、この大きな児童相談所の変革期にあって改めて問われるものであろう。
本書は、現場の実践の中での保護者の声を集め、その協働のために日々奮闘している実践者の声から質的研究の方法論、統計的な分析の方法論により実践モデルをまとめることに取り組んでいる。現場に貢献できるモデルを提示することが目的であり、少しでもそれに近づけたのであれば幸いである。