目次
はじめに
第1章 〈触発の思考〉 〈良心〉の不在と遍在――morsus conscientiaeの行方
1 良心の現在とニーチェの洞察
2 スピノザにおける良心の位置
3 様々な良心論の特徴
4 スピノザの「良心」論・再考
5 悲しみと共同性
第2章 〈シュトラウス〉 〈徳〉をめぐる係争
1 シュトラウスに抗うスピノザ
2 シュトラウスにおける「エルサレム」と「アテナイ」
3 スピノザに抗するシュトラウス――〈徳〉をめぐる差異
4 シュトラウスの影響と意義
第3章 〈アドルノ〉 「ひとつの場所」あるいは反転する鏡像
緒言――三つの契機
1 アドルノの啓蒙批判と自己保存
2 スピノザにおける理性の役割――自然と自己保存
3 アドルノによる「同一性」批判
4 スピノザにおける二つの「外部性」
5 否定とユートピア
6 現存するものへの眼差しと理性
7 残酷な平和
第4章 〈ネグリ〉 「絶対的民主主義」とcivitasの条件
1 ネグリの民主主義――国家の廃絶と〈歴史〉の終局
2 スピノザの民主主義――自生する共同社会(キウィタス)と法的秩序
3 「国家」による簒奪ではなく
第5章 〈バーリン〉 「二つの自由」の彼方
1 バーリンの自由論
2 ウエストとバーリンの論争
3 スピノザにおける自由
4 バーリンによるパターナリズム批判
5 消極的自由を超えて
第6章 〈シュミット〉 不純なる決断
1 シュミットの「レヴィアタン」論
2 シュミットの主権論――垂直性と空間的包摂
3 シュミットとスピノザの接点と差異――主権の構成をめぐって
4 戦後のシュミット――権力をめぐる問い
第7章 〈三木清〉 ある「理想的公民」の軌跡
はじめに
1 スピノザ理解の先進性
2 「対自(フュア・ジッヒ)」以前のスピノザ
3 三木における弁証法
4 「理想的公民」の限界
あとがき
初出一覧
前書きなど
はじめに
本書に収められた論文は、前著〔『スピノザ 共同性のポリティクス』〕以降に発表したものの中から選んだものである。
スピノザの哲学が思想史上の〈異物〉(Fremdkörper)であるという認識は、レーヴィットやハイデガーをはじめとして多くの論者から、これまで繰り返し示されてきた。本書の論考はいずれも、喩えるならば、何らかの形でスピノザと接点のある他の思想家の液体の中にこの異物が、それの持つ異物性を減じられることなく投げ入れられた場合、どのような色彩や組成の変化が起こるかを確認しようと試みるものとなっている。
取り上げた思想家の中には、スピノザの思想を批判ないし否定する者も少なくない。しかし、ある思想的な枠組みから嫌悪され、否認され続ける存在とは、逆に、その思想の臨界点(ないし限界)を示していたり、それが隠蔽する地層に属していたりするものであると規定することもできる(例えば、ヘーゲルやハイデガーにおけるスピノザがそうであるように)。仮に影の濃さが光の強さを示すのだとしたら、その影の側から明るみの側を測定しようとしたらどうなるか――そこから立ち現れる世界を、垣間見たいと思った。
発表する時期も媒体も異なっている独立した論文を集めたものであるため、多少なりともスピノザの著作に親しんでいる人にとっては周知となっている観点を、各稿で飽かず繰り返す結果となっている。しかしながらそのような欠点は、見方を変えれば、彼の著作にあまり馴染みがない読者に対しては、スピノザの中心的な考えのいくつかに反復して触れる機会を提供するものになっていると言い直せるかもしれない。
(…後略…)