目次
まえがき
『発達障害白書 2020年版』における「発達障害」の表記と定義の統一について
第1部 特集
1 障害者雇用の水増し不正を問う
Ⅰ 障害者雇用の水増し不正問題はなぜ起こったのか
Ⅱ 行政機関はなぜ不正を放置してきたのか
Ⅲ 障害者雇用水増し問題に対する政府の対応と今後
Ⅳ 障害者雇用率と世界の状況
2 「知的障害の定義」問題
Ⅰ 知的障害と医学的診断
Ⅱ 日本における知的障害の定義
Ⅲ 知的障害認定の現状
Ⅳ 知的能力とその障害
第2部 各分野における2018年度の動向
第1章 障害概念
Ⅰ 発達障害への認識と変化
Ⅱ 発達障害・知的障害研究の最前線
Ⅲ 発達障害への小児科的視点
Ⅳ 発達障害と愛着障害
Ⅴ 変化する発達障害の姿
■時の話題■
発達障害の早期診断とその功罪
発達障害への薬物療法
第2章 医療
Ⅰ ICD-11採択、訳語や分類に課題も
Ⅱ ICD-11、発達障害は第6章に
Ⅲ 発達性トラウマ障害
Ⅳ 重症心身障害児施設における地域連携の取り組み
Ⅴ 教育虐待と発達障害
■時の話題■
公認心理師試験が開始
子どものこころ専門医制度
第3章 子ども・家族支援
Ⅰ ニーズの多様化に対応した支援の質向上
Ⅱ ティーチャー・トレーニング・プログラムによる保育者支援
Ⅲ 子どもと子育て家庭を地域で支える相談支援――育ちあう居場所「子育てサロンるんるん♪」の挑戦
Ⅳ 放課後等デイサービスは、地域の障害児を支えているのか
Ⅴ 地域特性に応じた継続的な支援に向けて
■時の話題■
重症心身障害児向けデイサービス――家族支援の立場から
児童福祉司2000人増員――児童虐待防止新プラン
ゲーム障害の疾患認定
第4章 教育:特別支援学校の教育
Ⅰ 「社会」とつながる特別支援教育に向けて
Ⅱ 特別支援学校高等部学習指導要領の改訂の概要
Ⅲ 特別支援学校におけるカリキュラム・マネジメント――豊かな教育活動の展開に向けて
Ⅳ 肢体不自由特別支援学校のICT活用の現状と今後
Ⅴ 特別支援教育における連携と実践のシステム構築
■時の話題■
病院内教育の現場から見えること
発達障害のある児童・生徒の教育への公認心理師の役割
第5章 教育:小・中学校等での特別支援教育
Ⅰ 多様な課題を実践で具体化する
Ⅱ 小・中学校における個別の指導計画および個別の教育支援計画
Ⅲ 高等学校における通級による指導
Ⅳ 特別支援学級における学びの連続性
Ⅴ 小・中学校等におけるキャリア発達支援
■時の話題■
新しい形の特別支援教室――東京都と横浜市に焦点をあてて
北海道胆振東部地震での特別支援学級等の状況
第6章 社会参加
Ⅰ 発達障害者の社会参加をとりまく近時の課題
Ⅱ 「当たり前」から「ありのまま」への支援とは
Ⅲ 重度発達障害者の社会参加――「森と木」の地域生活支援の取り組み
Ⅳ 行動援護を活用した社会参加
Ⅴ 「福祉」の枠組みを超えた地域の居場所
■時の話題■
地域で必要とされてこその障害者の社会参加
一般社団法人スローコミュニケーションとは
知的・発達障害のある子どもを育てるためのQ&Aの作成
第7章 住まい
Ⅰ ひろがる「住まい」の支援
Ⅱ 障害児の暮らしの場のこれから
Ⅲ 重度知的障害のある人が地域で住まうこと――映画『道草』から
Ⅳ 小児訪問看護で支える地域での暮らし
Ⅴ 医療依存度の高い人を支えるグループホーム
■時の話題■
こども宅食の歩みと全国展開への挑戦
バリアフリー法の改正
アフターケア事業全国ネットワークえんじゅ設立
第8章 地域での暮らし
Ⅰ 発達障害者の地域での暮らしを考える
Ⅱ 自立生活援助への期待――横浜市障害者自立生活アシスタント事業の実践から
Ⅲ 地域自立支援協議会を活用した地域生活支援拠点の整備
Ⅳ 意思決定支援ガイドラインに基づく実践研修に向けて
Ⅴ 地域での暮らしにつなぐ重度障害者等包括支援
■時の話題■
地域ニーズから生まれた単独型短期入所
不動産と福祉をつなぐ新たな取り組み
第9章 労働
Ⅰ 迫られる障害者雇用制度の根本的な問い直し
Ⅱ 今後の障害者雇用制度の在り方に関する検討から
Ⅲ 超短時間雇用の取り組みと課題
Ⅳ 企業の社会的責任と障害者雇用を改めて問う
Ⅴ ディーセント・ワーク実現に向けた新たな視点――対話を通した信頼関係の構築
■時の話題■
民間企業の障害者雇用率、遅れて公表
ILO第99号勧告の訳語修正へ、「身体障害者」から「障害者」に
ダイバーシティ就労支援プロジェクトの発進
特例子会社の雇用実態調査から
第10章 権利擁護/本人活動
Ⅰ 権利擁護と理解促進に向けた取り組みへの期待
Ⅱ 旧優生保護法と強制不妊手術に対する全国手をつなぐ育成会連合会の検証
Ⅲ 共生社会フォーラムの開催――平成30 年度共生社会等に関する基本理念等普及啓発事業
Ⅳ 障害者の生涯学習の推進に向けた文部科学省の取り組み
■時の話題■
公務部門における知的・発達障害者の雇用
「命について」結婚、出産、医療を通して、障害者の人生を考える――内閣府障害者週間連続セミナーから
第11章 文化・社会活動
Ⅰ わかりやすい情報提供と文化芸術活動の振興に向けた取り組み
Ⅱ 障害者文化芸術活動推進法の施行
Ⅲ 知的障害者が相模原障害者施設殺傷事件について語る――「にじいろでGO!」の取り組み
■時の話題■
鑑賞支援コーディネーター育成講座 知的・発達障害編――劇場や映画館を誰もが楽しめる場所に
パリの街に舞った「うみのはた」――湖南ダンスカンパニーのパリ公演記
第12章 国際動向
Ⅰ ダイバーシティ社会を目指した動きが加速
Ⅱ 国連障害者権利委員会の動きと市民社会の役割
Ⅲ マラケシュ条約の国際的な動向と日本国内における対応
Ⅳ 2018年度JICA課題別研修「地域活動としての知的・発達障害者支援」
Ⅴ 国際育成会連盟第17回世界会議英国バーミンガム大会開催
■時の話題■
パラリンアート世界大会2018が開催
2020年パラリンピック東京大会の見どころ
第3部 資料
1 年表
2 統計
3 日本発達障害連盟と構成団体名簿
あとがき
執筆者一覧
前書きなど
まえがき
知的障害をはじめとする発達障害のある人々を支援する医療、福祉、教育、労働など、様々な分野の動向を民間の立場で記録する唯一のイヤーブックとして、この白書は半世紀余の歴史を重ねてきた。本書2020年版は概ね2018年から2019年にかけての1年間について論考する。
この半世紀の間に状況は大きく変化してきたが、とりわけ近年の変化は、激しくさえある。国連の障害者の権利条約は世界に大きな制度と認識の変革を迫った。DSM-5(アメリカ精神医学会)やICD-11(世界保健機関WHO)によって定義や概念が変遷してきた。国内においても、条約の批准と前後して多くの議論がなされ、法改正が行われた。特集2では、ようやく検討が始まった日本での知的障害の定義の問題を取り上げた。
近年の潮流は、大筋としてこの分野の前進・発展と評価できるが、残念な出来事もあった。本書の特集1では公的機関による障害者雇用の水増し不正について扱った。共生社会をうたいながら、その本音はどこにあったのだろうか。多様性の尊重が人類の知恵であり世界の潮流かと思いきや、障害分野にとどまらずそれに逆行する不安も消すことができないでいる。
懸命に今を生きている当事者は、待ってはいられない。皆がより良く生き、充実した人生を得るために、支援者と社会はどうあるべきか。読者の皆さんと共に考え、実践していきたい。本書がそのための一助となることを願っている。
(…後略…)