目次
はじめに
組織名・地名・個人名等
ロヒンギャ難民キャンプと関連地域地図
第1章 ロヒンギャ問題とは何か
ロヒンギャ問題再燃をめぐる地政学〔日下部尚徳〕
ロヒンギャ問題とアラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)〔高田峰夫〕
第2章 越境したロヒンギャの今
難民キャンプに暮らすロヒンギャ〔杉江あい〕
私たちが見た難民キャンプ
第一話 バングラデシュ南部避難民の現場から〔青木裕貴〕
第二話 避難民に支えられて〔青木裕貴〕
第三話 私が出会った避難民〔川瀨佐知子〕
第四話 避難民を受け入れている地元の人たち〔斎藤之弥〕
第3章 ロヒンギャとはいったい誰なのか
「複雑な」歴史を考える――ロヒンギャ問題の歴史的背景〔石川和雅〕
バングラデシュ、チッタゴン丘陵地帯から見たロヒンギャ〔下澤嶽〕
ラカイン州の経済――貧困と資源開発〔岡本郁子〕
第4章 世界のロヒンギャ
東南アジアのロヒンギャ難民〔堀場明子〕
タイのロヒンギャ――国軍・人身売買・メディア〔鈴木佑記〕
パキスタンのロヒンギャ――ムスリム同胞から孤立化へ〔登利谷正人〕
中東のロヒンギャ〔堀拔功二〕
第5章 難民支援とロヒンギャ
バングラデシュ政府によるミャンマーからの避難民への対応〔松村直樹〕
国連機関によるロヒンギャ難民支援〔志賀圭〕
第6章 難民になれない難民としてのロヒンギャ
無国籍者としてのロヒンギャ問題――日本に暮らすロヒンギャを通じて考える〔加藤丈太郎〕
バングラデシュに暮らすロヒンギャの未来――「第2のビハール難民」となってしまうのか〔大橋正明〕
第7章 アナン報告が示すロヒンギャの未来
ラカイン州諮問委員会提言の可能性と課題〔下澤嶽〕
資料
ラカイン州の平和で公平かつ豊かな未来にむけて(アナン・レポート)
ミャンマー政府によるラカイン州のへの取り組み
ミャンマーの国籍法と証明書
民族・宗教保護協会(略称:マバタ)
関連年表
前書きなど
はじめに
(…前略…)
これら問題群に対処するには、関係者間でロヒンギャに関する基礎的知識の共有が不可欠である。民族、宗教、地理、歴史、文化、言語への理解に加え、世界各地のロヒンギャ難民コミュニティの活動動向と情報発信を押さえる必要がある。彼らを取り巻く社会情勢は宗教的イデオロギーや地政学的位置づけから複雑性を極めており、難民支援や平和構築の一般理論やこれまでの経験則では対応が困難である。
本件に関して、歴史的・外交的に両国と関係の深い日本への期待は大きい。だが、実際に支援活動を志しても、基本的な情報の欠如が大きな障害となってしまう。ロヒンギャの生活を長期的に支えるには、宗教や文化、言語への理解が必須である。また、将来の平和構築に寄与するには、この地域の自然環境や、そこに暮らす人々の歴史と多様な歴史認識の在り方を十分に考慮しなければならない。まずは基本となる知識を着実に集積していく必要があるだろう。
しかしながら、これまで日本語で書かれたロヒンギャ問題の概説書は存在しなかった。各国メディアによる報道は重要な事実を伝えてくれているが、それぞれの論調の相違もあって、それだけでは全体像を掴みにくい。本書はそうした問題意識から、ロヒンギャの歴史や社会的位置づけ、開発援助論、難民・移民研究の視座から見るロヒンギャ問題に関して、まとまった視点を提示することを目的としている。
また、ロヒンギャが暮らす地域が地理的にも歴史的にもバングラデシュとミャンマーの辺境にあり、これまで双方の研究者が単独で扱ってこなかったテーマであること、同様に南アジア研究と東南アジア研究の狭間で、空白地帯となっている研究分野でもあることから、基礎研究として、今後の議論の土台としたいという学術的な要請に微力ながら応える意味あいもある。
本書の企画を進めるにあたっては、大橋正明教授が代表を務めた聖心女子大学グローバル共生研究所のロヒンギャ研究プロジェクトから多くの示唆を得た。プロジェクトを通じて、ロヒンギャ問題を単純にミャンマーの政治問題として捉えるのではなく、世界に拡散するロヒンギャの実態やロヒンギャ問題の各国への波及状況を概観することから議論を再考するという編集意図に至った。また、プロジェクト期間中に難民キャンプの人道危機が高まりを見せたことから、流入先であるバングラデシュに立脚して各国を俯瞰するというスタイルが自然とできあがった。本書もこの流れを汲み、難民受け入れ国としてのバングラデシュに軸足を置いているところにその特徴がある。
なお、本書では国際的な認知度の観点から「ロヒンギャ」の語を便宜上使用する。ロヒンギャと自らを呼称する人々の位置づけは、それぞれの政治的、宗教的、民族的立ち位置によって異なる。特にロヒンギャのエスニシティを巡る問題に関しては、学術的にも見解が分かれている。
(…後略…)