目次
まえがき
地図
Ⅰ ウェールズの風景
第1章 ウェールズ概観――海から山まで自然美にあふれる国土
第2章 カーディフ――石炭の富が作ったウェールズの首都
第3章 北ウェールズの巨城群――征服されたウェールズの象徴
第4章 忠犬・殉教者・魔術師の町――ベスゲレット、ホリウェル、カーマーゼン
第5章 観光リゾート地――水彩画家を魅了した村や『不思議の国のアリス』が誕生した町
第6章 ウェールズの祈りの場所――大聖堂から素朴なチャペルまで
第7章 マーサー・ティドヴィル――ウェールズに突然出現した製鉄業の巨大な村
第8章 ペンブルックシャー――ウェールズのリトル・イングランド
【コラム1】フィッシュガード――フランス革命軍の上陸した小さな漁村
Ⅱ 歴史
第9章 先史時代のウェールズ――様々な古代の遺跡と遺物
第10章 カーリアン――南ウェールズ支配のためのローマ軍団根拠地
第11章 サクソン人との戦い――アーサー王伝説の原点
第12章 オファの防塁――ウェールズ・イングランド国境
第13章 「ウェールズ法」――人々の法からナショナル・シンボルへ
第14章 ジェラルド・オブ・ウェールズ――イングランドとの仲介者
第15章 征服されたウェールズ――イングランド人のプリンス・オブ・ウェールズの誕生
第16章 オワイン・グリンドゥールの反乱――ウェールズの独立を目指した愛国者の蜂起
第17章 ウェールズにおける新しい信仰の波――非国教会の隆盛
第18章 巡回学校――ウェールズ民衆教育の原点
第19章 暴動と労働争議――産業化するウェールズ
第20章 民族主義の高まり――カムリ・ヴィーズ運動からプライド・カムリの活動へ
第21章 自治権回復への道――ウェールズ省からウェールズ国民議会政府へ
【コラム2】ウェールズ人の海外移住
Ⅲ ウェールズ語保存の歴史
第22章 ウェールズ語――英語とはまったく異なる言語
第23章 ウェールズ連合法――公用語になれなかったウェールズ語
第24章 ウェールズ語聖書――宗教と教育の言葉として生き残ったウェールズ語
第25章 ウェールズ教育青書の衝撃――英語習得の促進と教室でのウェールズ語禁止
第26章 ウェールズ語の教育・研究拠点――ウェールズ国立図書館と大学の設置
第27章 ウェールズ語の話者率――言語の将来への不安
第28章 ウェールズ語の法的復権――言語法の成立
【コラム3】ウェールズ人の父称と姓
Ⅳ 産業と交通
第29章 北ウェールズの鉱業――銅鉱石採掘とスレート採石
第30章 最高品質のスチーム炭と無煙炭――南ウェールズ石炭産業の繁栄
第31章 産業革命を支えたウェールズの製鉄業――マーサー・ティドヴィルの製鉄王たち
第32章 産業の爪痕――スウォンジーの銅産業公害とアベルヴァンの悲劇
第33章 運河・鉄道――ウェールズの物流システム
第34章 ウェールズの交通を支えた美しい橋――石造のアーチ橋や最新の吊橋
第35章 第2次大戦後のウェールズ――石炭産業の没落と海外企業の誘致
第36章 カーディフ港の盛衰と再開発――石炭積み出し港から高級リゾート地へ
【コラム4】蒸気機関車の発明者トレヴィシックと日本
Ⅴ 祭典と伝統
第37章 中世のアイステズヴォッド――吟唱詩人たちの就職試験?
第38章 アバガヴェニ・アイステズヴォッド――ヨーロッパ文化の源流を求めて
第39章 現代のアイステズヴォッド――新しいウェールズの総合文化祭典
第40章 セント・デイヴィッズ・デイ――いちばん大切なウェールズの祝日
第41章 ウェールズの守護聖人の祭り――宗教色を取り除いた民衆文化としての祝祭
第42章 ウェールズ旗――レッド・ドラゴンの伝統
第43章 ウェールズ女性の山高帽とガウン――民族衣裳か創作か
第44章 ブリテン島のバルドのゴルセッズ――現代に蘇った古代のドルイド
【コラム5】今に続く奇習――マリ・ルイド
Ⅵ 絵画・スポーツ・音楽・生活
第45章 ピクチャレスクなウェールズを描いた画家たち――リチャード・ウィルソンとその周辺
第46章 オーガスタス・ジョンとグウェン・ジョン――20世紀のウェールズを代表する姉弟画家
第47章 ウェールズ国立美術館――ウェールズ人美術愛好家による愛蔵品の寄贈
第48章 ラグビー――ウェールズの第2の宗教
第49章 谷間や採石場に響く歌声――ウェールズ人と合唱の伝統
第50章 ウェールズの食――カウル、ラーヴァーブレッド、ウェルシュラビット、バラブリスなど
第51章 ウェールズ人会――結束するロンドンや各地のウェールズ人
第52章 映画に見るウェールズらしさ――『わが谷は緑なりき』と『ウェールズの山』を中心に
【コラム6】ウェールズの著名な歌手と映画スター
Ⅶ 伝説・文学・地誌・学術
第53章 水没伝説――海底に沈む町、湖底に沈む村
第54章 マビノギオン――ウェールズの幻想的な中世物語集
第55章 2つの言語による文学――ウェールズにおけるウェールズ語文学と英語文学の伝統
第56章 トゥム・オール・ナントのインタールード――ウェールズにおける道徳劇の伝統
第57章 ウィリアム・ウィリアムズとアン・グリフィス――ウェールズの卓越した讃美歌作者たち
第58章 ディラン・トマスとR・S・トマス――20世紀のウェールズを代表する英語詩人
第59章 3つのウェールズ旅行記――聖職者、動物学者、小説家の見たウェールズ
第60章 ケルト学に寄与したウェールズ人――オックスフォードの「リトル・ウェールズ」
【コラム7】マドック伝説――ウェールズ人によるアメリカ大陸発見説の顛末
ウェールズをもっと知るためのブックガイド
執筆者紹介
編著者紹介
前書きなど
まえがき
1997年、地方分権に関する住民投票の結果を受け、イギリス政府はスコットランド、ウェールズ、北アイルランドに権限を一部委譲することになった。これにより、これらの「地域」に新たにその「地域」の名を冠した議会と政府が誕生した。このことは、イギリスが歴史的、文化的に背景の違う4つの「国」から成り立っていることを、またイギリスが「連合王国」と呼ばれる所以を我々に再認識させたのであった。権限委譲への要求はさらに高まり、スコットランドでは、イギリスから独立するかどうかの賛否を問う住民投票が2014年に行われた。その結果、僅差でイギリス残留が決まったものの、これは改めて現在の「連合王国」の枠組みと、それぞれの「国々」に強まるナショナリズムを我々に痛感させたのであった。そして今、イギリス自体がEUから離脱しようとしている。
近年、イギリスがこのように話題になったことは、2012年のロンドンオリンピックを除いて、なかったであろう。そして今、我々のイギリスへの関心のひとつは、スコットランドの住民投票に見られるように、イギリスが「連合王国」であるという古くて新しい問題に向かいつつあるように思える。本書はイギリスを形成する「国々」のひとつであるウェールズを総合的に紹介する解説書として、またより深くウェールズを知りたい人のための案内書として企画された。
(…後略…)