目次
「シリーズ・子どもの貧困」刊行にあたって[松本伊智朗]
序章 「子どもの貧困ブーム」をふりかえって――本書の問題意識と構成[佐々木宏]
1 子どもの貧困をめぐる議論の主戦場としての〈教育〉
2 何がどのように論じられてきたか
3 見落とされてきた視点・論点に光をあてる
4 楽観論と悲観論の狭間に立つ――本書の基本姿勢
第Ⅰ部 〈教育〉化する「子どもの貧困」政策の再検討
第1章 「子どもの貧困」再考]――「教育」を中心とする「子どもの貧困対策」のゆくえ[堅田香緒里
1 はじめに――問いの所在
2 「子どもの貧困対策」は何を「貧困」と捉え、どのようにそれを解消しようとしているか
3 「子どもの貧困対策」の含意
4 おわりに――「子どもの貧困」という問題構成の「問題」
第2章 生活保護世帯の子どもへの教育支援――教育Learn+福祉welfare=ラーンフェアLearnfare[桜井啓太]
1 生活保護(困窮)世帯へ向けた学習支援
2 ラーンフェア(Learnfare)とは?
3 いくつかの批判
4 排除をうまないラーンフェアはありうるか
第3章 障害のある子どもの貧困と教育[丸山啓史]
1 子どもの障害と貧困
2 障害のある子どもと貧困対策
3 子どもと家族の困難の軽減
4 母親の就労保障
第4章 外国につながる子どもの貧困と教育[新藤慶]
1 日本に暮らすブラジル国籍の子どもの貧困状況
2 日本に暮らす外国につながる子ども全体の貧困状況
3 アメリカにおける外国につながる子どもの貧困に関する知見
4 エスニシティによる移民社会への適応状況の差異と社会関係資本の可能性
第Ⅱ部 教育と「お金」
第5章 家計の中の教育費[鳥山まどか]
1 家計支出としての教育費
2 家計の中の教育費をめぐる議論
3 教育費負担と家計管理
4 家計管理による対応の限界と問題点
第6章 教育の市場化は子どもの貧困対策となるのか[篠原岳司]
1 序論――教育の市場化とは何か
2 日本の公教育の構造とその限界性――なぜ教育の市場化が支持されるのか
3 日本における教育の市場化の現状――なにがどこまで進んでいるのか
4 教育の市場化は子どもの貧困にどんなインパクトをもたらすのか
第7章 教育費の家庭依存を支える日本人の意識[中澤渉]
1 公教育費増額の困難
2 日本の教育制度と授業料負担の歴史的経緯
3 日本人の教育意識の構造
4 意識構造から垣間見える問題点
第Ⅲ部 教える・学ぶの「現場」から
第8章 子どもの貧困と教師[盛満弥生]
1 貧困対策の支援拠点として期待される学校・教師
2 子どもの家庭背景・生活背景への教師のまなざし
3 貧困を不可視化させる学校文化
4 子どもの貧困の「再発見」と教師の貧困認識
5 教師の「子どもの貧困」理解に向けて
6 学校にしかできないこと・学校だからできること
第9章 「学校以前」を直視する――学校現場で見える子どもの貧困とソーシャルワーク[金澤ますみ]
1 学校という場で見えてくる子どもの貧困
2 貧困とネグレクトの関係
3 学校という場の可能性――「学校以前」に向き合い、学校から手をつなぎはじめる
4 子どもたちの暮らしに占める「学校時間」
5 おわりに――「学校以前」を直視する「学校学」への視座
第10章 学習支援は何を変えるのか――その限界と可能性[西牧たかね]
1 学習支援の二つの役割
2 学習支援によって実現できること
3 学習支援事業が抱える課題
4 学校の役割
第11章 株式会社は子どもの貧困解決のために何ができるか[岡本実希]
1 福祉サービスと株式会社
2 調査概要
3 子ども貧困領域への株式会社の参入可能性
4 株式会社が参入するメリット
5 株式会社としての限界
6 株式会社が子どもの貧困解決に果たす役割の可能性
第12章 貧困問題を教える授業の現場から――「他人事としての貧困」という壁[佐々木宏]
1 貧困問題の解決に「教育」ができること
2 広島大学・教養教育科目「社会福祉と貧困」について
3 授業の中でみえてくること
4 「他人事としての貧困」という壁
おわりに[鳥山まどか]
前書きなど
「シリーズ・子どもの貧困」刊行にあたって
「子どもの貧困」が社会問題化して、約10年になる。換言すれば、子どもの貧困問題が再発見されて約10年になる。この間、貧困率・子どもの貧困率の公表、法律の制定などに見られるように政策課題として認識されるようになった。また自治体での調査、計画策定などの動きも広がっている。この問題を主題にした多くの書籍が出版され、社会的関心は確実に高まっている。学習支援や子ども食堂など、市民レベルでの取り組みも多く見られるようになり、支援の経験が蓄積され始めている。
一方で貧困の議論が常にそうであるように、子どもの貧困を論じる際にも、問題を個人主義的に理解し個人・親・家族の責任を強化するような言説、あるいは「子どもの貧困」と「貧困」を切り分け、問題を分断、矮小化する言説が見られる。また政策動向もそうした観点から、批判的に検討される必要がある。
子どもの貧困の再発見から10年の現時点で、なされるべきことのひとつは、「議論の枠組み」を提供すべきことだろう。貧困と不利に関わる個々のエピソードの集合として、この問題が語られるべきではない。特に子どもの貧困は、貧困問題の一部であると同時に、その具体的な姿は「子ども」という社会的区分の特徴と関係して現象する。したがって、貧困研究の枠組みを子ども研究の視点から豊富化する必要がある。あるいは、子ども研究に貧困の視点を組み込んでいく必要がある。
こうした観点を意識した研究は、少ない。この「シリーズ・子どもの貧困」は、この10年の議論の蓄積を踏まえて、子どもの貧困を議論する枠組みを提供する試みである。共有されるべき視点を、以下にあげる。
・経済的問題から離れない。経済的困窮を基底において貧困を把握する。
・社会問題としての貧困という観点をとる。個人的問題にしない。
・貧困問題を分断しない。子どもの貧困は、貧困の理解と対策を広げることばである。
・反貧困としての「脱市場」と「脱家族」の観点をとる。
・子ども期の特徴と関係させて構成する。
・政策と実践を批判的に検討する。
・全体として、「子どもの貧困を議論する枠組み」を提供する。
(…後略…)