目次
読者のみなさまへ[久能登郎太(Lothar Knauth)]
凡例
主要専門用語解説
序章
1 本書の主題
2 基本史資料
3 本書の構成
第Ⅰ部 副王領時代の聖フェリーペ・デ・ヘスス崇拝
第一章 フェリーペ・デ・ヘススの生涯
1 フェリーペの生い立ちとイメージ――最初期の記述より
2 誕生年、幼少期、兄弟と生家
3 プエブラのフランシスコ会系サンタ・バルバラ修道院への入会と「還俗」
4 二度の旅立ち
第二章 殉教事件と反響
1 フェリーペの遭難・漂着から殉教事件まで
2 ヨーロッパ(スペイン)での反響
3 アメリカ大陸(ヌエバ・エスパーニャ)での反響
4 クエルナバカの壁画
5 南米ペルーに残された殉教の図
第三章 聖フェリーペ・デ・ヘスス崇拝の始まり
1 聖フェリーペ崇拝とその始まりに奔走したメキシコのクリオージョ
2 列福に到るまでの過程と図像から見る修道会の反応
3 列福の知らせに対するクリオージョの反応
4 三つの傷跡と三本の槍
5 年祭、教会堂、聖遺物
第四章 クリオージョのシンボルへ
1 聖フェリーペ崇拝が共存する聖人聖母崇拝とその創成
2 メキシコ市大聖堂内聖フェリーペ・デ・ヘスス礼拝堂
3 ミゲール・サンチェスの説教におけるキリストとの類似性と聖フェリーペの聖性
4 ハシント・デ・ラ・セルナが聖書から見出した聖フェリーペの聖性
第五章 聖フェリーペ・デ・ヘスス崇拝の定着過程
1 カプチナ修道院と崇拝の定着過程
2 バルタッサール・デ・メディーナの聖フェリーペ殉教物語、そして地方への崇拝の広がり
3 十八世紀の説教録及び関係史料から見た崇拝の広がり
4 十八世紀に教会堂に奉納された聖フェリーペ像
第Ⅱ部 独立国家における聖フェリーペ崇拝の変容
第一章 メキシコ独立前夜の聖フェリーペ・デ・ヘスス崇拝
1 独立前夜と聖フェリーペ崇拝の変容の兆し
2 アントニオ・ピチャルドと聖フェリーペ研究
3 国民の宗教の祝日となった「二月五日」
4 聖フェリーペ・デ・ヘスス礼拝堂へのアグスティン・イトゥルビデの遺骨の納骨
第二章 メキシコ人聖人への道
1 政教分離を掲げたラ・レフォルマ(自由主義的改革)前夜
2 奇蹟を語る「イチジク伝説」の誕生
3 聖フェリーペの国民の祝日から憲法記念日へと変わった「二月五日」
4 「列聖」までの過程と意義
5 十九世紀に教会堂に納められた聖フェリーペ像とその役割
第三章 聖フェリーペ・デ・ヘスス崇拝の大衆化と普遍化
1 聖フェリーペ・デ・ヘスス国民総懺悔の教会堂と崇拝の大衆化
2 二十世紀における聖フェリーペ崇拝と大衆化そして普遍化
3 二十世紀に新たに建立された聖フェリーペの名を冠する教会堂や他の教会堂に納められた聖フェリーペ像
おわりに
史料集
附録
二〇〇七年から二〇〇八年にかけて実施した現地調査の結果報告
「メキシコ・ミチョアカン州での聖フェリーペ・デ・ヘスス崇拝の現状調査(二〇〇七‐二〇〇八)より」『名古屋短期大学研究紀要』四十七号に加筆修正
1 ミチョアカン地方と聖フェリーペ・デ・ヘスス崇拝
2 聖フェリーペの名を冠する教会堂
3 調査内容
4 調査結果の分析と今後の課題
参考文献
欧文書
和書
あとがき
図版一覧
索引
前書きなど
序章
1 本書の主題
本書が扱う人物、フェリーペ・デ・ヘスス(以下、フェリーペという)は、一五九七年二月五日に、長崎で磔刑(はりつけの刑)に処せられた二十六人のキリシタン(カトリック教徒)のひとりで、「メキシコ(市)生まれのスペイン人」である。この人物の生国メキシコでは、その死後三十年を経て崇拝が始まっている。
本書の目的は、このフェリーペに関する崇拝[以下、聖フェリーペ崇拝という]の成り立ち及びその変容の歴史を考察し、その時々の意義を解き明かすことである。
(…中略…)
3 本書の構成
本書は二部構成で、第Ⅰ部の五章、第Ⅱ部の三章と「おわりに」で構成されている。第Ⅰ部は副王領時代の聖フェリーペ崇拝に関して、第Ⅱ部は独立国家時代の聖フェリーペ崇拝に関してと時代別になっている。そして最後に「おわりに」で本書のまとめが用意されている。
第Ⅰ部では、副王領時代に始まり展開していく聖フェリーペ崇拝の足跡を辿り、殉教しか語ることのない聖フェリーペのイメージがいかに神聖なるものへと創り上げられていったか、その過程を確認する。フェリーペの誕生から殉教事件までと、その後の崇拝の始まり、形成、普及の過程を考察するために、それぞれ事象を基に五つの章に分けられている。各章の内容は次の通りである。
(…中略…)
第Ⅱ部では、独立後の各時代における聖フェリーペ崇拝の変容を検証する。独立後、一般に忘れ去られたと思われがちな、このフェリーペ崇拝の存続状況をその時代の政治や社会の歴史的事象と合わせて考察し、二十世紀から二十一世紀にメキシコ・カトリックの普遍的な崇拝のひとつとなっていく様子を明らかにしていく。ここは三つの章で構成されている。各章の内容は次の通りである。
(…中略…)
そして、「おわりに」では、始まりから二十一世紀に至るまでの聖フェリーペ崇拝の形成・普及・変容とその意味をまとめ、メキシコ近代史において、この崇拝が有した歴史的意義を総括するとともに、日墨関係史におけるこの崇拝の位置付けを問い、その意義に光をあてたい。
(…後略…)