目次
まえがき
Ⅰ ルクセンブルクとは
第1章 ルクセンブルクのあらまし――欧州の小国は世界の中心へ
第2章 地理・地形・気候――狭い国土の中の多様性
Ⅱ 多言語社会としてのルクセンブルク
第3章 多言語社会ルクセンブルク――三つの言語を使い分ける社会
第4章 言語法――三つの公用語とその関係
第5章 多言語社会成立の背景――ドイツ語国家からルクセンブルク語国家へ
第6章 家庭や街中で使われる言語――三つの公用語が使われる場面
第7章 公的空間で使われる言語――三つの公用語使用の変化と英語
第8章 学校教育で使われる言語――多言語教育の実態
第9章 メディアで使われる言語――ルクセンブルクにおける新聞とテレビ、ラジオ
第10章 ルクセンブルク語のこれまでとこれから――方言なのか、言語なのか
第11章 言語の境界地域ルクセンブルク――言語接触の影響の有無
【コラム1】ルクセンブルク語の地域変種
Ⅲ 歴史
第12章 ルクセンブルク家の起こりと拡大――小領主からヨーロッパの一大勢力へ
【コラム2】抵当物件時代
第13章 ブルゴーニュ公国の支配下から大公国成立まで――ベネルクスあるいは南ネーデルラントとしての統一体
第14章 19世紀から第一次世界大戦に至るまで――ルクセンブルクの真の独立とは
第15章 第一次世界大戦から戦間期にかけて――新たな国家像の形成へ向けて
第16章 第二次世界大戦の苦難――ゲルマン化政策とレジスタンス
第17章 子どもたちの見た戦時下のルクセンブルク――回想記から
第18章 第二次世界大戦後の新しい道――ヨーロッパ統合の架け橋、そして移民大国へ
Ⅳ 政治と経済
第19章 政治体制――多数決型と交渉型のハイブリッド型民主主義体制
第20章 政党と政党システム――1党優位4党システムへの変容
第21章 利益集団とネオコーポラティズム――「ルクセンブルク・モデル」とそのゆくえ
第22章 物流産業――欧州有数の貨物空港、フィンデル空港
第23章 金融センターとしてのルクセンブルク――その成立に至るまで
【コラム3】1990年代後半のルクセンブルク駐在記
第24章 ICT産業――コンテンツ配信から「トラスト・センター」への発展
第25章 宇宙産業――民間主導で発展したユニークな宇宙セクター
第26章 ルクセンブルクにおける外国人――その歴史と可能性
Ⅴ 国際社会の中のルクセンブルク
第27章 小国の国家戦略1――ミニラテラリズムとしてのベネルクス
第28章 小国の国家戦略2――「調停役」主体の受身の外交から積極主義への転換
【コラム4】ヴェルナー首相とEEC――小国外交の可能性と限界
【コラム5】ジャン=クロード・ユンカーと欧州統合
【コラム6】日本の皇室と大公家の親密なご交流
【コラム7】ルクセンブルクの中の日本
Ⅵ 社会と暮らし
第29章 就学前教育から中等教育まで――多言語教育と挑戦
第30章 大学――唯一の大学、ルクセンブルク大学
【コラム8】ルクセンブルク人の名前
第31章 カトリック教会――トリーアの周辺都市から大司教区へ
第32章 ルクセンブルク語の聖書――母語による聖書の獲得か、ナショナリズムの促進か
第33章 安楽死法――ヨーロッパで3番目の先進的な法律
第34章 国民的スポーツ、自転車ロードレース――マイヨ・ジョーヌへの挑戦と蹉跌
第35章 食文化――郷土料理「豆のスープ」と星付きレストラン
【コラム9】チョコレート文化の伝統と今
第36章 ルクセンブルクワインに魅せられて――知られざる極上ワインの産地
【コラム10】ルクセンブルクワインのブドウ「オーセロワ」
第37章 世界を代表する陶磁器ブランド、ビレロイ&ボッホ――二つの家系の運命的な出会いと融合
Ⅶ 文化と芸術
第38章 ルクセンブルク語文学1 19世紀――話し言葉の「見える化」から娯楽メディアへ
【コラム11】ルクセンブルク語による文芸活動の停滞期
第39章 ルクセンブルク文学2 現代――1980年代以降の隆盛
第40章 ルクセンブルク語による児童文学――異文化との出会い
第41章 クラシック音楽とオーケストラ――ヨーロッパの「音」の交差点
第42章 伝統音楽と舞踊の文化――アイデンティティの形成と復興
第43章 近現代美術――芸術家サークルから、EUの文化都市へ
【コラム12】歴史的建造物と美術
Ⅷ 都市
第44章 首都・ルクセンブルク市1――城塞都市の面影を残す緑豊かな首都
第45章 首都・ルクセンブルク市2――サントルからグルントへ、世界遺産の街を歩く
第46章 近代都市キルヒベルク――農地から欧州の中心、金融センターへ
第47章 ヴィクトル・ユーゴーが愛した町フィアンデン――ルクセンブルク随一の古城をめぐって
第48章 アルデンヌ地方の小都市をめぐる――バルジの戦いの舞台ヴィルツ、クレルヴォー
第49章 ルクセンブルクの小スイス、エヒタナハ――建国の足がかりとなった地
第50章 北部の中心都市ディーキルヒ――ビールと祭に彩られる小さな町
【コラム13】3国国境地域を歩く
もっと深く知るためのブックガイド
前書きなど
まえがき
(…前略…)
しかしながら、この国には多くの魅力が詰まっている。そこで本書では14名の執筆者たちが、これまで日本ではほとんど知られていなかったこの小さな国について、ときには学問的に、ときには著者の体験を交えながら紹介している。
本書の構成は、総論の第Ⅰ部「ルクセンブルクとは」に始まり、第Ⅱ部「多言語社会としてのルクセンブルク」、第Ⅲ部「歴史」、第Ⅳ部「政治と経済」、第Ⅴ部「国際社会の中のルクセンブルク」、第Ⅵ部「社会と暮らし」、第Ⅶ部「文化と芸術」、第Ⅷ部「都市」となっている。多くの読者にとって馴染みが薄いルクセンブルクの基本事項を第Ⅰ部で確認し、第Ⅱ部以降でさまざまな側面からより深く知っていただこうという思いからこのような構成になった。
各論の始まりである第Ⅱ部は「多言語社会としてのルクセンブルク」である。これをみて、小さな国なのに言語がたくさんあるのか、と不思議に思われるかもしれない。そう、ルクセンブルクは三つの言語が話されている多言語社会なのである。そしてこれらの言語は、歴史にも文化にも深く関係している。「多言語社会」は、ルクセンブルクを知るうえで最も特徴的であり、なおかつ重要なキーワードであるといえよう。まずは基本的な知識として、ルクセンブルクの三つの公用語がどのような位置付けで、どのように使用されているのかを知っていただきたい。そうすれば、この後のテーマについてもより理解を深めることができるだろう。
第Ⅲ部では、ルクセンブルクの歴史をひも解いていく。中世ヨーロッパにおいてルクセンブルク家は名門貴族の一つであり、何人もの神聖ローマ帝国皇帝を輩出している。地方の小さな勢力であったルクセンブルク家がいかにして発展し没落したか、そして居並ぶ列強の間で小国がいかにして生き残ったのかをたどっていこう。
第Ⅳ部では、政治と経済の面からルクセンブルクをみていく。実は、この小さな国は国民一人あたりのGDPが世界一である。かつては鉄鋼業が、現在では金融業がルクセンブルク経済を支えているが、近年では最先端の情報通信技術や宇宙産業なども発展してきている。こうした話題が日本の新聞に掲載される機会も増えてきたので、目にされたことがあるかもしれない。
第Ⅴ部は「国際社会の中のルクセンブルク」である。ルクセンブルクはヨーロッパ諸国の中でもとりわけ小さな国だが、EUの発展はルクセンブルク抜きでは語れないほど、この小国が果たした役割は大きい。なぜルクセンブルクは欧州の統合に尽力したのか、そこにはさまざまな思惑があったのである。
第Ⅵ部「社会と暮らし」では、ルクセンブルクでの日常生活に密着したさまざまな話題を扱っている。ルクセンブルクの学校や教会など、日本にいると(そして現地にいても)なかなか知ることが難しい話題から、ルクセンブルクの国民的スポーツともいえる自転車ロードレースや、近年大手の百貨店などでちらほらと見かけるようになったルクセンブルクワインなど、盛りだくさんである。
第Ⅶ部「文化と芸術」では、ルクセンブルク語の文学や音楽など、日本ではまだ紹介されていない文化芸術の一端を取り上げている。ルクセンブルクの文化芸術には魅力的なものも少なくないが、まだ日本語で読める本や資料がないのが残念だ。
最後の第Ⅷ部では、興味深い七つの都市と一つの地域について、さまざまな角度から述べている。ルクセンブルクを訪れる前に、是非ともご一読いただきたい部分である。
(…後略…)