目次
日本の読者へ
序文
フランコの神話
フランコ体制下のカタルーニャにおける弾圧
カタルーニャ語の使用禁止
移入者
カタルーニャ社会の起源
語られることのないカタルーニャ・ブルジョワジー
原罪としてのバルセローナ
カタルーニャ人の性格
フランコ主義者が思い描いたカタルーニャ人
フランコ主義的民主主義か?
スペインのなかのカタルーニャ
カタルーニャの独立
訳者あとがき
前書きなど
訳者あとがき
本書『カタルーニャでいま起きていること――古くて新しい、独立をめぐる葛藤』は、Eduardo Mendoza, Que esta pasando en Cataluna, Barcelona: Seix Barral, 2017の全訳である。冒頭には、著者エドゥアルド・メンドサにお願いして寄せてもらった、「日本の読者へ」(二〇一八年七月)を訳出して添えた。
(…中略…)
すでに多くの批評家や評論家が指摘しているように、小説家メンドサは、カタルーニャ地方、とくにバルセローナ市の歴史的激動の時代を背景にして、そうした社会に蝟集する人びとに焦点をあてながら、パロディーとユーモアを混ぜ合わせたかたちで、壮大な風刺的エンターテインメント小説を書くことを、真骨頂としてきた。(……)
しかし本書『カタルーニャでいま起きていること』は、現在のカタルーニャを対象にした作品だが、パロディーでも風刺でもない。そうではなくて、一人のカタルーニャ知識人によるカタルーニャのいびつな現状に対する危惧の吐露である。本書は序文を含めると一三のテーマからなっているが、フランコ主義とフランコ体制下のカタルーニャの実態についての叙述は、バルセローナに生まれ育った人物の同時代証言として貴重である。(……)本書の最後には、カタルーニャ社会がいまなおグローバル化の時代に求められる多文化性と多様性に対応しきれていない現状を批判したうえで、独立派の動きが、カタルーニャ社会の抱える多岐にわたる複雑な課題に取り組む丁寧な努力からはほど遠いことを批判する。そして本書の締めくくりにメンドサは、いま大切なのは「偏見、無知、無理解を前に肩をすくめるのではなくて、自分たちの考えを問題にし、ものごとを自分自身に、そしてお互い同士に説明していくことである」と述べて、「ものごとを考え始めたときには、たいていもう遅いのだ」と言いつつも、自分を生んだ祖国カタルーニャが冷静さを取り戻すことに最後の望みをかけている。
(…後略…)