目次
はしがき
第Ⅰ部 済州島の自然と風土
第1章 東アジアの「要石」――“平和の島”を夢見て(梁聖宗)
第2章 三姓神話と三多の島――風・石・女の島(梁聖宗)
第3章 失われた済州島の原風景――カラス、ヘビ、ムルホボク、エギクドク……(梁聖宗)
第4章 漢拏山――火山島とそこに生きる人びと(金良淑)
第5章 ユネスコ世界自然遺産――保護と開発のはざまで(金良淑)
第6章 済州島への眼差し――本土からのイメージの変化(文京洙)
第7章 東の「地中海」への視座――東アジア海域における済州島から(野村伸一)
コラム1 トルハルバン――済州島の「ゆるキャラ」?(伊地知紀子)
コラム2 神秘とロマンのオルム(余田幸夫)
済州島アルバム1[村の風景]
第Ⅱ部 基層文化と伝統社会
第8章 巫俗信仰――一万八千の神々が宿る島(金良淑)
第9章 ポンプリ――波乱万丈な神々の物語(金良淑)
第10章 済州島の昔ばなし――自然と圧政に苦しんだ辺境の、とりわけ女たちの物語(玄善允)
第11章 家族とクェンダン――先祖祭祀と社会関係にみる儒教と固有文化(髙村竜平)
第12章 墓と葬送、結婚式――伝統の形成とその変化(髙村竜平)
第13章 村落の類型と多様性――今も息づくムラの伝統と人びとの絆、そしてその行方(金明美)
第14章 三多の島の住まいと生活――済州島の伝統的民家と居住慣行(佐々木史郎)
第15章 「済州語」は外国語?――母音「アレア」の残る不思議な言葉(梁聖宗)
第16章 済州島の食文化――合言葉は「ベジグナダ!」(梁聖宗)
コラム3 済州島の離島めぐり――離島だからこそ、本島がよく見える(玄善允)
コラム4 済州島の老人たち――節約と自立の精神(松本誠一)
済州島アルバム2[民俗・信仰]
第Ⅲ部 済州島の歴史 古代から解放まで
第17章 耽羅――絶海に浮かぶ海洋王国(橋本繁)
第18章 高麗の統治と三別抄――蒙古支配の100年(高橋公明)
第19章 チョランマル――畑を踏む馬と海に浮かぶ牧場(金良淑)
第20章 朝鮮王朝時代の済州島――陸からの視座、海からの視座(藤田明良)
第21章 『耽羅巡歴図』――18世紀の済州島を色鮮やかに描いたビジュアル地誌(梁聖宗)
第22章 恋北亭――辺境の地に儒教文化の種を蒔いた流謫者たち(梁聖宗)
第23章 済州島の海民と海賊の時代――倭寇と水賊(六反田豊)
第24章 出陸禁止と漂流民(六反田豊)
第25章 高得宗、その栄光と挫折――『朝鮮王朝実録』に名を残した済州人(高橋公明)
第26章 西洋人の見た済州島――ハメル漂流記とクェルパート(梁聖宗)
第27章 朝鮮王朝の統治と民乱――「抗争」の系譜(文京洙)
第28章 済州島の海女の歴史――自然と人との共存・共生を通して(李善愛)
第29章 植民地期の民族運動と海女闘争――女たちの「生きるための闘い」(藤永壯)
第30章 済州島の近代水産業と日本――日本人事業家たちの足跡(河原典史)
第31章 済州島に残る旧日本軍遺跡――南北分断の悲劇を生みだした日本軍の爪痕(塚﨑昌之)
コラム5 「済州島の母」金萬徳の魅力――「ジョニャン精神」の体現者(梁聖宗)
済州島アルバム3[生活文化]
第Ⅳ部 日本と済州島
第32章 植民地期の日本人による済州島研究――鳥居龍蔵から枡田一二まで(髙村竜平)
第33章 泉靖一の済州島研究――友人の漢拏山遭難死から(伊藤亜人)
第34章 君が代丸――阪済航路と済州島(伊地知紀子)
第35章 同郷親睦会の活動――在日済州人コミュニティの特徴と変容(鄭雅英)
第36章 日本と済州島を結ぶネットワーク――渡日済州島人の4世代(高鮮徽)
第37章 日本への出稼ぎ海女――済州島チャムスの生活世界(伊地知紀子)
第38章 済州島出身者の生活史――東アジア近現代史の縮図として(伊地知紀子)
第39章 済州島の文学(大村益夫)
第40章 『季刊 三千里』と在日済州島人(高二三)
第41章 女たちの済州島――映画『HARUKO』と『海女のリャンさん』(金良淑)
第42章 猪飼野、日本の中の済州――あってもない町、なくてもある町(呉光現)
コラム6 済州島で生まれ育った日本人――親睦会「済州島会」を訪ねて(伊地知紀子)
コラム7 日本の済州島研究会――耽羅研究会、大阪済州島研究会、済州島研究会(梁聖宗)
済州島アルバム4[町の風景]
第Ⅴ部 4・3事件と再生する島
第43章 済州島4・3事件とは何か?(文京洙)
第44章 4・3事件の経緯(文京洙)
第45章 4・3事件が残したもの1――記憶の圧殺と連座制(李昤京)
第46章 4・3事件が残したもの2――済州人の離散と冷戦の犠牲(李昤京)
第47章 開発をめぐる葛藤と住民運動――市民社会の再生(文京洙)
第48章 済州島の「4・3運動」――「4・3特別法」までの道のり(文京洙)
第49章 在日の「4・3運動」(伊地知紀子・文京洙)
第50章 4・3事件の表象と追悼――済州4・3平和公園におけるモニュメント(高誠晩)
コラム8 4・3事件の史跡を訪ねる(高誠晩)
コラム9 在日済州人三世の4・3とマダン劇(李明玉)
済州島アルバム5[子どもたち]
第Ⅵ部 済州島の「再発見」 “平和の島”の現在と未来
第51章 ミカン栽培と観光産業――農業の近代化と経済の変化(髙村竜平)
第52章 移住ブームと済州「再発見」――「東洋のハワイ」から「癒しの島」へ(金良淑)
第53章 済州島と沖縄1――黒潮が結ぶ周縁の島と共同研究の試み(津波高志)
第54章 済州島と沖縄2――歴史の共有と平和への連帯(鄭ヨンシン)
第55章 オルレッキル――世界につながる癒しの道(金良淑)
コラム10 カンジョンの闘いと連帯(李昤京)
コラム11 済州特別自治道――外資誘致のための地方分権?(髙村竜平)
コラム12 中国資本と済州ドリームタワー(髙村竜平)
参考文献
編者あとがき
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本書は、漢拏山の裾野に広がる豊かな自然、国家の枠組みにとらわれず東シナ海を縦横無尽に往来していた海民の文化や歴史、海女や牧畜、ミカン、観光産業のほか、朝鮮半島と日本の狭間にあって沖縄と共通する住民虐殺の歴史や基地問題を抱えながらも「平和の島」をめざす今日の歩み、古代から現在に至るまで続く日本との深いつながりなど、済州島の多彩な姿を紹介する入門書である。日本ではこれまでもさまざまな角度から済州島研究が行われてきたが、概説的な入門書は1996年の高野史男『韓国済州島――日韓をむすぶ東シナ海の要石』以来なかなか現れなかった。しかし、2000年代に入り済州島をめぐる環境は大きく変化している。近年の変化やこれまでの研究の蓄積を踏まえた上で、気軽に読める入門書として本書を編集することに努めたが、分野によって分量が偏ってしまったのは編者の力不足によるものだ。その代わりではないが、4・3事件に関しては日本における研究の層の厚さを反映して、非常に充実した内容になっている。本書は、4・3事件の入門書としても読んでいただけるのではないかと思う。
(…後略…)