目次
第1章 〈総論〉東南アジアにおける新しい強権政治の登場[外山文子]
1 はじめに
2 21世紀における民主化の課題
3 21世紀東南アジアにおける新しい強権政治の登場
4 各国の政治史――タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン
5 本書の構成
第2章 〈タイ〉タックシンはなぜ恐れられ続けるのか――滅びないポピュリズムと政治対立構造の変化[外山文子]
1 はじめに
2 ポピュリズムとは
3 タックシン政権登場前の政治――伝統的エリートによる統治システム
4 タックシン政権登場の背景――1997年憲法の施行
5 タックシン政権の誕生と障壁
6 タックシン政権Ⅰ――「ポピュリズム」第1幕
7 タックシン政権Ⅱ――「ポピュリズム」第2幕
8 2006年クーデタ――伝統的エリートの反撃1
9 政治の司法化――伝統的エリートによる反撃2
10 タックシンによる大衆デモ扇動――「ポピュリズム」第3幕
11 「ポピュリズム」が残したもの――政争の変化
12 おわりに――政治対立構図の変化
コラム1 タイ政治と学生の人文字――タムマサート大学とチュラーロンコーン大学のサッカー交流戦から[長島朝子]
第3章 〈フィリピン〉国家を盗った「義賊」――ドゥテルテの道徳政治[日下渉]
1 はじめに
2 道徳をめぐる闘争
3 「義賊」ドゥテルテの構築
4 道徳と殺人の共犯性
5 義賊は国家を乗りこなせるか
コラム2 フィリピンは弱い国家か[佐久間美穂]
第4章 〈マレーシア〉ナジブはなぜ失脚しないのか[伊賀司]
1 はじめに――世界をかけめぐった1MDBスキャンダル
2 ナジブ・ラザクという政治家
3 ナジブ政権下のマレーシア政治――改革から反動へ
4 1MDBスキャンダルからの「生き残り」
5 おわりに――あらためてナジブ・ラザクという政治家を考える
コラム3 ナジブ政権下における治安維持の政治[工藤献]
第5章 〈インドネシア〉庶民派大統領ジョコ・ウィドドの「強権」[見市建]
1 庶民出身の大統領
2 巧みな人事とイメージ戦略
3 アホックの「宗教冒」事件
4 おわりに
コラム4 「不寛容」な民主化時代[茅根由佳]
あとがき
前書きなど
あとがき
(…前略…)
第1章で述べたように、彼らは軍事クーデタにより政権を奪取した独裁者ではない。あくまで選挙によって選ばれた民選政治家なのである。ドゥテルテの支持率は、就任後約1年間は非常に高かった。2017年後半になって低下傾向が見られたが、依然として約半数の国民は彼を支持している。トランプについては、2017年12月の支持率が35%という低さだと報道されたが、他方で、大統領選挙時にトランプに投票した支持者のほとんどは、現在も彼を支持しているとも報道されている。両者ともに、多方面から批判を受けているものの、自らの統治スタイルを変える様子はない。
(…中略…)
国家の統治形態や選挙制度、選挙実施における中立性や公正性などについては、国によって様々な違いがある。また選挙戦時における報道の自由の程度にも差がある。しかし選挙で勝利を収めて政権を維持していくためには、有権者の一定の支持を獲得しなくてはならないことは間違いない。有権者からの支持と強権的統治、両者はどのように両立されるのか。また民主化に対してはいかなる影響を与えるのか。本書では、日本とも関わりの深い東南アジア4か国の政治指導者について取り上げた。
第2章では、タイのタックシンについて扱った。タックシンは、2006年9月のクーデタにより政権を打倒されたが、10年以上も経過した現在でもその政治的影響力を恐れられ続けている。(……)
第3章では、フィリピンのドゥテルテを取り上げた。ドゥテルテは麻薬戦争による多数の死者を出したにもかかわらず、なぜ高い支持率を維持できるのかという問いについて分析を試みた。(……)
第4章では、マレーシアのナジブについて分析した。現在ナジブは、国際的な汚職スキャンダルにみまわれている。(……)
第5章では、インドネシアのジョコ・ウィドドについて取り上げた。2014年に大統領に選出されたジョコ・ウィドドは、インドネシアで初めての庶民出身の大統領だといわれる。有権者はこれまでの政治指導者とは異なる「アウトサイダー」による改革に期待したためだと指摘した。(……)