目次
はしがき
序章 課題と方法――ケア関連専門職養成教育の検討のために
1 課題――なぜ養成プロセス俯瞰の試みか
2 方法――俯瞰図作成のフレーム
3 本書の意義と目的――養成教育をケアの議論に据える
第1章 専門職養成基盤の形成――ケアの産業化
1 ケアセクター形成のスケッチ
2 ケアと家族の関係変化――生命の再生産過程の「社会化」
3 ケア関連専門職の制度化による支え(職業化と産業化)
4 ケア関連専門職養成の国家的課題化の歴史段階
第2章 専門職養成ルートの多様性――階層性と「規制」
1 なぜ多様性が形成されてくるか
2 厚生労働省と文部科学省管轄下の養成教育概観
3 養成学校数等の推移――高学歴化・階層化
4 資格取得ルートの多様性という共通する特徴
5 多様性がもたらす指定規則による「規制」の必至
第3章 専門職養成教育のコントロール――教育の分化の困難と対置できない理想
1 教育の分化はどこまできているか――共通性の確認とともに
2 看護師養成とカリキュラム基礎
3 社会福祉士養成とカリキュラム基礎
4 介護福祉士養成とカリキュラム基礎
5 保育士養成とカリキュラム基礎
6 教育の共通基盤と包摂の動き(連携教育)
7 専門性の基盤をめぐる議論への収斂
第4章 専門職の専門性基盤と職能団体・学会――ケアのアイデンティティをめぐる分断の構造
1 議論にケアはどのように含まれているか――検討順序の転換
2 看護師の専門性とケア――「独占」
3 介護福祉士の専門性とケア――「遠慮」
4 保育士の専門性とケア――「未整理」
5 社会福祉士の専門性とケア――「無視」
6 業務の「重なり」の取り込みとキャリアパスの追求へ
第5章 専門職の社会的評価の現状と対応――分断のなかの資格階層化志向
1 低評価への対応の先に何が見えるか
2 ケア関連非専門職(ケアラー)と「境界線上」の専門職
3 ケア関連専門職(医療・福祉関連)労働市場の特徴
4 看護師、介護福祉士、保育士の潜在化の意味
5 官僚システムのなかの社会福祉士――その存在感の希薄さ
6 社会的評価をめぐる専門職団体等の対応――内部からの資格階層化の追求
第6章 専門職養成における連携教育の現状――ケアの「見えない壁」をどこまで意識しているか
1 連携教育は期待に応えているか
2 「医療と福祉」の連携実践・連携教育
3 連携教育の現在――偏りの構造と深まりの不足
4 連携教育の「向こう側」を見る視点の再確認
5 求められる今日の「連携現場のケア」の分析――終章にも代えて
あとがき
前書きなど
はしがき
20世紀の終わりごろから21世紀の現局面にかけて、爆発的と言えるほど人口に膾炙した言葉に“ケア”がある。ケアは、辞書を引けば、いろいろな意味で使われているし、ケアあるいはケアリングに関する研究は、さまざまな視点あるいは領域において論じられている。そのなかで、ケアにかかわる実践あるいは仕事・職業に注目すれば、日本では介護や看護の領域を中心にイメージされるのが一般的である。
しかし、欧米においてケアで括られる活動は、保育を必要とする子ども、介護を求めている高齢者、介助を不可欠とする障害者、あるいは病気やけがなどに関連して看護・医療の手当てを必要としている人びと、生活に困難を抱えている人びとなど、さまざまであるのが普通であるようだ。(日本の)職業名で言えば、看護師等、理学療法士・作業療法士や臨床検査技師あるいは管理栄養士などのいわゆるコメディカルの職、介護福祉士など介護職、小学校低学年教員、保育士・幼稚園教諭、社会福祉士・精神保健福祉士・医療ソーシャルワーカー(広くソーシャルワーカー)なども含めて論じられている場合も多い。
ここでは、これらを以下“ケア関連専門職”と呼ぶことにしている。いずれも何らかの形でケアの仕事にかかわっていると同時に、ある一定期間以上の教育・訓練を受け、何らかの公的資格を有して、専門家として担当業務に従事しているからである。それらの多くは、20世紀以降、とくに最近になって増加してきている職種である。そして、関連する養成学校の増加も目覚ましい。
本書は、上記のケア関連専門職の養成教育プロセスを検討の対象に取り上げている。それは、筆者の専門研究の延長線上にではなく、必要に迫られてということからである。たまたま学長職にあった筆者が、栄養学科、看護学科、社会福祉学科、社会保育学科からなる名寄市立大学(北海道)の学科構成をふまえて、すべて何らかの形でケアにかかわる専門職を養成するのだから、「ケアの未来をひらく名寄市立大学」というキャッチコピーでそのミッションを言い表そうとしたことに始まった。
(…後略…)