目次
まえがき
第Ⅰ部 多文化共生をめぐる過去/現在との対話
第1章 日本植民地時代の韓国人留学生――多文化共生のために生かす「植民体験」[波田野節子]
Ⅰ.グローバリゼーションと「多文化共生社会」
Ⅱ.韓国からの留学生
1.帝国と植民地
2.李光洙の留学
3.明治と大正――4つの事例
(1)『中学世界』のインタビュー
(2)「外地」の二等車
(3)『内鮮一体随想録』
(4)洪命憙の回想
Ⅲ.学徒出陣のころ
1.もう一つの「わだつみのこえ」
2.李光洙が見た学生たち
Ⅳ.多文化共生社会のための「植民体験」
第2章 在日朝鮮人の文化表象と多文化共生の倫理[小谷一明]
はじめに
I.「はざま」に浮かぶ交流史――金達寿による共生の実践
Ⅱ.文化の内なる多様性――深沢夏衣と都市の物語
Ⅲ.「はざま」を越える文化実践――梁英姫の「ディア」ピョンヤン
おわりに
第3章 遅子建の小説にみる多文化共生[後藤岩奈]
はじめに
Ⅰ.遅子建について
Ⅱ.「北極村童話」
1.作品について
2.作品の内容要約
3.作品からみられるもの
Ⅲ.『偽満洲国』
1.作品について
2.作品からの引用、紹介
(1)元馬賊の胡二とオロチョン族
(2)楊昭と仏教
(3)李香蘭
(4)開拓団員鈴木正保と張秀花
3.作品からみられること
Ⅳ.『アルグン川の右岸』
1.作品について
2.作品からの引用紹介
(1)住居について
(2)トナカイについて
(3)火の神について
(4)「神降ろし」について
(5)雨季の雷神について
(6)マルー神について
(7)新しいシャーマンになる儀式
(8)熊の肉を食べるときに、熊の骨を捨ててはならない、という掟
(9)学校について
(10)医者について
3.作品からみられること
まとめ
第4章 地方・地域から考える多文化共生社会――文化人類学的アプローチ[木佐木哲朗]
はじめに
Ⅰ.新潟における中国帰国者家族との共生
Ⅱ.フィリピン・北部ルソンの山岳少数民族地域の自治と共生
結びにかえて
第Ⅱ部 多文化共生社会の実態と課題
第5章 多文化共生社会と外国人の権利[堀江薫]
はじめに
Ⅰ.多文化共生の意義と課題
1.文化の意義・性質
2.多文化共生の意義と課題
(1)多文化共生の意義
(2)多文化共生社会実現のための指針・計画の策定および具体的施策実施のための体制整備等の課題
Ⅱ.入居拒否に関する事例と法的論点
1.行政調査による入居拒否の実態の例
2.入居拒否に関する判例について
(1)入居拒否に関する事案①
(2)入居拒否に関する事案②
(3)法的論点
Ⅲ.外国人の権利、人権、人権の私人間効力
1.外国人の権利、人権の意義、外国人の人権享有主体性について
(1)外国人の権利――私権、不法行為との関連
(2)人権の意義・内容、外国人の人権享有主体性
2.憲法人権規定の私人間効力について
(1)人権規定の私人間効力とは何か
(2)私人間効力と裁判例
結びにかえて――今後の課題
第6章 玄界灘をはさんで「EUの卵」が創れないか――在留外国人の地方参政権付与をめぐって[田中宏]
はじめに
Ⅰ.在日コリアンの差別撤廃運動の中から
Ⅱ.70年代に遡る参政権を求める声
Ⅲ.日韓またがる「課題」に
Ⅳ.日本における賛否両論の検証
Ⅴ.韓国では実現した外国人地方参政権付与
おわりに
第7章 韓国「多文化政策」の実態と課題[権寧俊]
はじめに
Ⅰ.在韓外国人の現状と「多文化政策」の実態
1.韓国に住む外国人の概要
2.多文化政策の管理体制
(1)「在韓外国人政策」
(2)多文化家族政策
(3)外国人労働政策
Ⅱ.外国人労働者政策について
1.外国人研修制度
2.外国人雇用許可制
3.「在外同胞法」と朝鮮族
4.外国人労働者の定住問題
Ⅲ.国際結婚移住者への支援政策
1.国際結婚移住者に対する出入国管理政策
2.法律による「社会統合」のための支援事業
Ⅳ.韓国の多文化政策の問題と課題
1.韓国政府主導の韓国語および韓国文化教育事業
2.「兵役法」による多文化政策
3.「公職選挙法」と参政権問題
おわりに
第8章 華僑社会からみる多文化共生社会――日本と韓国の華僑社会を中心に[王恩美]
はじめに
Ⅰ.日本と韓国の華僑社会
1.日本の華僑社会
2.韓国の華僑社会
Ⅱ.「境界者」となった日本と韓国の華僑
1.「境界者」である日本華僑
2.「境界者」である韓国華僑
Ⅲ.「境界者」と多文化共生社会への模索
1.「境界者」と国民国家
2.「境界者」の苦痛と苦悩
3.「共苦」と多文化共生社会
おわりに
あとがき
前書きなど
まえがき
(…前略…)
3.本書の構成および内容
本書はⅡ部に分かれる。
第Ⅰ部の「多文化共生をめぐる過去/現在との対話」では、韓国人、中国人、残留邦人とその家族、中国・フィリピンの少数民族などさまざまな民族を取り上げる。「多文化共生」とは何かをフィールドワークや文学世界を通じて考察する。それによって、「多文化共生社会」の実現に向けていまを生きる私たちが得るべきものを提示しようとする。
(……)
第Ⅱ部の「多文化共生社会の実態と課題」では、現在の東アジア諸国における「多文化共生社会」の実現では、どのような問題が存在するのか、それをどのように解決したらよいのか、その課題は何かを論じている。外国人の人権問題、差別問題、労働者問題、地方参政権問題、国籍問題、民族アイデンティティ問題などを中心に取り上げる。
(……)
以上のように、本書は東アジア地域における多文化共生社会の実現に向けた「過去/現在との対話」、「実態と課題」を描く。特に、日本・韓国・中国を中心に考察を進めている。しかし、多文化共生の課題は広範であり、残された課題も少なくない。今後もさらに研究を深めていきたい。最後に、本書が「多文化共生社会」についての理解を深めるために、また、東アジア地域の多文化共生社会実現に向けた問題提起の書として、多くの方々に読んでいただければ幸いに思う。