目次
序章――パラダイム変換と人間観・生命観・教育観の変遷[松永幸子・三浦正雄]
第Ⅰ部 理念・思想に関わる理論
第1章 生を養う――「自己(Self)」の誕生と「生命(Life)」の変遷[松永幸子]
はじめに
第1節 イギリスの自殺・生命論争における「生命(Life)」と「自己(Self)」
第2節「生を養う術(art)」――養生論の原像にみる生(life)
おわりに
第2章 「思想としての精神世界」の変遷とその生命観・人間観の文学への影響概観[三浦正雄]
序 「思想としての精神世界」
第1節 「ニューエイジ」思想から「ニューサイエンス」「精神世界」「スピリチュアリティ」への展開概観
第2節 「ニューエイジ」思想の興隆
第3節 「ニューサイエンス」の日本への輸入と展開
第4節 「ニューエイジ」から「精神世界」「スピリチュアリティ」へ
第5節 「思想としての精神世界」に対する日本の学術での評価史
第6節 「思想としての精神世界」
第7節 海外の精神世界系の文学及び文化の紹介者
第8節 現代文学と「思想としての精神世界」
むすび
第3章 持続可能な開発のための教育(ESD)にむけた多文化保育・教育の必要性[堀田正央]
はじめに
第1節 キー・コンピテンシー(Key competencies)と「生きる力」
第2節 持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development: ESD)
第3節 持続可能な開発目標(The new Sustainable Development Goals: SDGs)
第4節 キー・コンピテンシー養成における多文化保育・教育の位置づけと有用性
第5節 持続可能な開発にむけた教育における多文化教育・保育の課題
第6節 多文化保育・教育の課題と今後の可能性
第4章 リスク・センスを働かせた「生きる力」を育む[渡邊光雄]
第1節 学校教育の理念――人権保障及び福祉
第2節 「国」の「教育権能」に支えられた人権保障及び福祉としての教育と学校教育における「体罰」禁止規定
第3節 「星の王子さま」のものごとの捉え方と「トップダウン情報処理」による「生きる力」
第4節 「危機的状況」の下でも「心のなかの世界」を通して「細部のリアリティー」の事象を捉えることのできる「生きる力」の育成
第Ⅱ部 制度・実践・設計に関わる理論
第5章 乳幼児研究と愛着理論及び愛着理論に基づいた臨床研究[金谷有子]
第1節 コミュニケーションの基本構造としての母子相互作用と発達
第2節 情動のコミュニケーションの発達研究とその理論
第3節 愛着の理論と愛着の発達研究
第4節 愛着研究と臨床
第6章 在宅医療を受ける子どもの発達支援――国連遊びに参加する子どもの権利に基づいて[山本智子]
第1節 端緒
第2節 先行研究の検討および本稿の目的と方法
第3節 結果および考察
第4節 結論
第7章 校庭の巨樹を用いた環境教育が児童・卒業生・教員の意識に及ぼす影響[長友大幸]
第1節 巨樹と人間との係わりの歴史
第2節 巨樹を用いた環境教育の必要性
第3節 小学校校庭の巨樹を用いた環境教育
第4節 卒業後の意識や行動に影響を与える在学中の巨樹との係わり
第5節 環境教育実践経験に係わる教員の意識
著者紹介
前書きなど
序章――パラダイム変換と人間観・生命観・教育観の変遷
(…前略…)
そこでわれわれは人間学部に所属し教育を扱う者として、本書で、「教育」をなす最低の要件である「生命」や「人間」を中心に、理論的、実証的両面からの探究を試みた。二部構成となっており、第Ⅰ部は、生命、人間、教育についての理論的アプローチである。第1章では、「生を養う」を主要命題に、自己(self)と生命(life)が歴史的にどのように変化してきたのか、主にイギリスの生命・自殺論争と養生論の原像を中心に描き出している。近代以降の人間・身体把握と古代からの養生論を比較検討することで、「自己」や人間観・生命観の歴史的変遷を明らかにし、人間の本来の「生」のあり方について再考している。第2章では、神秘主義など霊性に基盤をおく生命観・人間観が、地球規模の社会の閉塞状況から未来を切り開く可能性を期することを概観している。1960年代のニューエイジに始まり、ニューサイエンス、そして精神世界、スピリチュアリティへと展開していったアメリカ発の反合理主義・反物質科学・反アカデミズムの思想・文化運動について、おおまかに展開の流れを追いながら、こうした思想・文化がアカデミズムから異端視され、また、物質科学や合理主義の側から否定的、あるいは批判的に見られてきた点をも俯瞰する一方、アカデミズム諸学における肯定的な動向をも検討した上で、文学におけるその可能性を概観している。
第3章では、持続可能な開発のための教育推進にむけた多文化保育・教育の現状と問題点、保育者・教育者が差異を認め尊重する意識を共有しながら幼児教育においてどのようなコンピテンシーを養成すべきか、OECD の「コンピテンシーの定義と選択」(DeSeCo)」において定義づけられる「変化」、「複雑性」、「相互依存」に対応したESD のための子どもたちのキー・コンピテンシー涵養にむけて、本稿では日本における多文化保育・教育の現状と問題点とともに、持続可能な開発にむけた多文化保育・教育の有用性を示す。
続く第4章では、現代社会の専門的業務従事者に将来成り得る子ども達が育むべき「生きる力」のあり方を論じたものである。リスク・センスを働かせた「生きる力」を育むことがどのようなものであるのかについて、その背景となる人権保障及び福祉に基づく教育のあり方を踏まえて考察し、その問題的や具体策、今後の課題について検討している。
第Ⅱ部は、Ⅰ部の理論を踏まえた制度・実践等にかかわるアプローチである。まず第5章では、乳幼児期の母子を中心とした情動的コミュニケーションと愛着関係の発達を中心に、近年の愛着研究が取り組んでいるテーマと得られた成果、さらに今後の課題を提示する。第6章では、子どもの権利条約との関係に基づいて、在宅医療を受ける病気や障がいのある子どもに遊びを子どもの権利として確保するために、どのような条件を満たせばよいのか。在宅医療を受ける子どもの権利保障を発展させることを目的として、この問いについて検討する。
第7章では、教育現場の環境という点から、巨樹が人間や教育に与える影響を考察し、巨樹を用いた環境教育が現場でより多くの教員に実践されるためにどのようなことを考慮すべきか。地域との関係性も用いて検証している。
以上の研究の成果を、ここに「埼玉学園大学研究叢書」としてまとめた。学長ならびに関係各位、明石書店神野斉様、矢端泰典様に感謝申し上げる。
本書が、上述した生命・人間・社会にまつわる多様な問題の議論に新しい視座を投ずることが出来れば、編者・著者一同、望外の喜びである。