目次
序章 集団からカテゴリーへ――エスニシティ、ナショナリズム、移民、シティズンシップに関する三十余年間の研究をふり返って
第1部 グローバル化する世界と国民国家
第1章 移民、メンバーシップ、国民国家
1.「国民国家」というカテゴリー
2.帰属の政治
3.理念化されたメンバーシップ・モデルと帰属の政治
4.移民と帰属の政治
5.国境外の親族と外的な帰属の政治
6.国民国家とナショナリズム――その順応性と変容
第2章 ネーションの名において――ナショナリズムと愛国主義の考察
1.「ネーション」を問う
2.「ネーション」の用いられ方
3.「ポストナショナリズム」の議論
4.ナショナリズムの限定的な擁護
第3章 ナショナリズム、エスニシティ、近代
1.はじめに――「複数の近代」の再検討
2.近代――単一か複数か
3.近代化論批判を再訪する
4.エスニシティとナショナリズムに関する「単一の近代」の観点
5.おわりに――「単一の近代」の再評価
第2部 「帰属の政治」と移民政策
第4章 ドイツと朝鮮における越境的メンバーシップの政治――国境外の民族同胞問題の再編成[ジェウン・キムとの共著]
1.越境的メンバーシップ政治の比較分析――本章で論じる問題の概要
2.歴史的文脈
3.再移住者を被追放者に――冷戦期の越境的ドイツ人の受け入れ
4.競合する祖国――南北朝鮮のあいだに置かれた在日朝鮮人
5.冷戦下での越境的メンバーシップの政治
6.ドイツにおける民族移民の終焉
7.遅れてきた祖国――国境外の「親族」として再編成された中国朝鮮族
8.分岐する軌跡
9.結論
第5章 同化への回帰か?――フランス、ドイツ、アメリカにおける移民をめぐる視座の変化とその帰結
1.差異主義的転回
2.「同化」の二つの意味
3.三つの事例
4.結論――変化する概念
第3部 認知的視座に向けて
第6章 認知としてのエスニシティ[マラ・ラブマン、ピーター・スタマトフとの共著]
1.エスニシティ研究と「認知的転回」
2.カテゴリーとカテゴリー化――認知的転回の始まり
3.認知的視座――カテゴリーから図式へ
4.認知的視座がエスニシティ研究においてもつ含意
5.結論
第7章 分析のカテゴリーと実践のカテゴリー――ヨーロッパの移民諸国におけるムスリムの研究に関する一考察
《編訳者解説》グローバル化する世界において「ネーション」を再考する――ロジャース・ブルーベイカーのネーション中心的アプローチについて[佐藤成基]
1.はじめに――「国民国家の相対化」を越えて
2.国民国家の中心性――「帰属の政治」をめぐって
3.認知的視座――集団からカテゴリーへ
4.限定的なナショナリズム擁護――ネーションの包摂性をめぐって
5.おわりに――「ネーション中心的」なアプローチからの問いかけ
後記
索引
前書きなど
後記
(…前略…)
本書は、本書のために書き下ろされた序章の後、七つの論文を三部に分けて並べている。第1部は、グローバル化する世界における国民国家の位置づけについて概説的に論じた論文を集めた。第1章「移民、メンバーシップ、国民国家」では、国民国家と「帰属の政治」をめぐる基本的な分析枠組が論じられている。第2章「ネーションの名において」では、ナショナリズムが規範的に擁護できるか否かが論じられている。この論文は、ブルーベイカーが規範的問題について中心的に論じた、おそらく唯一のものだと思われる。第3章「ナショナリズム、エスニシティ、近代」は、近代とナショナリズムとの関係について、マクロな歴史的視点から考察したものである。
第2部は、在外同胞政策や移民政策における「帰属の政治」の具体的事例を考察した論文を集めた。第4章「ドイツと朝鮮における越境的なメンバーシップの政治」(ジェウン・キムとの共著)は、戦後のドイツと朝鮮の在外同胞政策の比較を試みたものであり、本書に収録した論文のなかでは最も長大で、かつ実質的な比較事例分析が行われているものである。第5章「同化への回帰か?」では、フランス、ドイツ、アメリカにおける移民をめぐる政策・言論における多文化主義の後退と「同化」への回帰が論じられている。これは一九九〇年代以後の欧米先進諸国における移民政策の全般的変化を最も早く指摘した論文として広く知られ、引用される回数も多い論文である。
第3部は、ブルーベイカーの分析方法を通底する「認知的視座」に関する論文を2つ集めた。第6章「認知としてのエスニシティ」(マラ・ラブマン、ピーター・スタマトフとの共著)は、認知人類学や認知心理学についての考察も行っていて、彼の論文のなかでは最も深く認知的視座について論じた論文である。それに対し第7章「分析のカテゴリーと実践のカテゴリー」は、認知的視座をヨーロッパの移民諸国における「ムスリム」のカテゴリーに適用した短い論文である。
だが、本書は章の順を追って読まれることを想定しているわけではない。どの章から読んだとしても、各論文の理解のしやすさにはほとんど影響しない。よって、読者の関心のあるところから自由に読み進めていただきたい。例えば、ブルーベイカーの国民国家概念について知りたい読者であれば、第1章から始めることを勧めたい。ドイツと朝鮮の在外同胞政策の具体的経緯に関心のある読者は第4章から読むのが適当であろう。あるいは、ブルーベイカーの研究それ自体に関心がある読者は、まずは序章を読むべきであろう。また、「認知的視座」というブルーベイカー独自の分析方法について関心をもつ読者には、第6章を読むことが勧められる。ブルーベイカーの規範的なスタンスについて知りたい読者は、まず第2章を読むのがよい。しかし各章はそれぞれ関連しており、ある章で言及されている論点が、他の章で詳しく展開されていたりする。全体を通して、ブルーベイカーのアプローチや分析枠組が一通り概観できるよう、本書は構成されている。
(…後略…)