目次
はじめに
第一章 清水坂
一 清水坂を歩く
二 清水坂の成立
三 奈良坂を歩く
四 清水坂・奈良坂抗争
五 清水坂の癩者
六 坂の者の葬送権益
七 清水坂の変貌
八 近現代の清水坂
九 清水坂の記憶
十 若者による地域活性化の取り組み
十一 地域史継承の課題
第二章 逢坂
一 境界としての逢坂
二 芸能民と神
三 若御霊・蝉丸
四 蝉丸から人康親王へ
五 蝉丸伝承の変転
六 境界ランドマーク・関寺
七 兵侍家追放事件
八 もう一つの坂―日ノ岡の坂
九 農村としての山科
十 近世の山科
十一 近代の山科
十二 山科の現代化
十三 「山科の良さ」を次世代に伝える取り組み
十四 エコランド音羽の杜
第三章 長坂
一 長坂街道を歩く
二 境界貴族・小野氏
三 戦国、近世初めの長坂
四 葬送地・蓮台野
五 現代の長坂街道
六 「隠さない」ということ
第四章 狐坂
一 狐坂を歩く
二 三つのルート
三 境界としての岩倉
四 里子預かりと精神障害者受け入れ
五 京都から見た岩倉
六 境界のなかの境界
七 松ヶ崎と狐坂
八 岩倉の近代化と狐坂の変貌
九 精神障害者との共生
終章 坂の喪失と再生
あとがき
前書きなど
あとがき
(…前略…)
本書では、京都を「中心部」、「外部」、その中間(境界)ゾーンとしての「坂」に三区分しました。そして「坂」に視点を置くことにより、京都という都市を、漠然とした全体イメージや、洛中、洛外の二分割ではなく、もう少し丁寧に見ていこうとしています。これが成功したかどうかはわかりませんが、京都の歴史と現在は、決して「心が安らぐ」ものばかりではないこと、「みやび」「はんなり」「粋な」などのプラスイメージは、それらの対極イメージが「境界」や「外部」に放逐されて純化していったことなどは、不十分ではありますが、描けたのではないかと思っています。
私は、京都で生まれ育ち、今も住んでいます。旅行以外で京都を離れたことがないので、京都と切り離して自分を考えることはできません。その京都が「好きか、嫌いか」と問われれば、嫌いではありませんが、一筋縄ではいかない複雑な思いがあります。京都について調べることは、やはりいくつになっても「自分探し」にがるという実感があります。
大人になるまで京都の中心部で暮らしてきた(今は郊外の住宅地に住んでいますが)私が、周縁部=坂と向き合ったことにより、「私にとっての京都」の内実が、今までより豊かなものになったような気がします。
私はまた、前著『戦争のなかの京都』以来、世間的に流布しているありきたりの京都像とは一味違う京都を発信したいと思ってきました。本書を読んでいただいた読者の「京都イメージ」が少し変わり、また「視点を変える」ことによって新しい視野が拡がっていくことに気付いていただくことができれば、著者にとってとても嬉しいことです。
(…後略…)