目次
はじめに――中東と日本
第Ⅰ部 中東を読み解く三つの鍵
第1章 中東近代史のもう一つの見方――アラブ革命の5年間を振り返って(長沢栄治)
第2章 中東地域における現代国際政治――アクター・構造・システム(今井宏平)
第3章 中東諸国が抱える経済問題――経済のグローバル化と石油がもたらしたもの(後藤晃)
第Ⅱ部 各国/地域の現状と分析
第1章 エジプト――革命の5年間(長沢栄治)
コラム1 あるヌビアの友人との別れ(長沢栄治)
第2章 パレスチナ/イスラエル――世界史の中のオスロ合意 「近代のプロジェクト」の挫折?(臼杵陽)
コラム2 日本とパレスチナ(臼杵陽)
第3章 シリア――内戦と多民族・多宗派問題(黒木英充)
コラム3 シリア内戦とレバノン内戦(黒木英充)
第4章 イラク――戦後統治の失敗から「イスラーム国」の台頭へ(吉岡明子)
コラム4 親日国のイラク(吉岡明子)
第5章 イラン――政治の底流にある諸派閥攻防の歴史と展望(ケイワン・アブドリ)
コラム5 ネクタイの政治学(ケイワン・アブドリ)
第6章 トルコ――創造的破壊者としての公正発展党(今井宏平)
コラム6 多角化するトルコ外交――アジアとアフリカとの関係を強める(今井宏平)
おわりに
参考文献
中東近現代史年表
前書きなど
はじめに――中東と日本
(…前略…)
私たちは中東で起きていることをどのように理解したらいいのか。中東で現在、起きている変化は、「アラブの春」が始まったと思ったら、あっという間に内戦が始まって、大量の難民が発生するなど動きが速すぎでよく分からない。さらには、ISをめぐる問題など新聞のニュース解説などを読んでもあまりにも事態が複雑すぎてよく分からない。しかし、中東で起きている変化が日本にも大きな影響を与えるようで何か不安である。以上に述べた「中東は分からない」から生まれる「素朴な疑問」に対して、しっかりした枠組みと正確な事実を示すことで答えようとするのが本書の目的である。
本書は、総論の第Ⅰ部「中東を読み解く三つの鍵」と各論の第Ⅱ部「各国/地域の現状と分析」の二つの部から構成される。最初の総論では、現代の中東をどのように理解すべきかについてテーマ別に論ずる。第1章では政治史を中心にした近代中東の歴史的な把握について、第2章では中東の国際政治の構造的な理解について、そして第3章では政治変動の背景となる経済の問題について、それぞれ概説する。
第Ⅱ部では、六つの国/地域について、最近の状況を中心にその動態を論ずる。第1章では2011年革命後のエジプト、第2章ではパレスチナとイスラエルで結ばれたオスロ合意の世界史的な位置づけ、第3章ではシリア内戦の混迷する状況、第4章ではイラク戦争後に再建されたイラク国家の危機、第5章ではイラン革命後のイスラーム共和国の体制と変化の行方、そして第6章ではトルコ政治に画期的な変化をもたらした公正発展党(AKP)をめぐる問題を論ずる。以上に加えて、各章に関連するトピックに関するコラムも掲載した。
本書が、複雑すぎてよく分からないと言われることが多い中東の現状と歴史について、読者の理解の助けとなることを期待する。