目次
まえがき
序章 ヨーロッパ人は英語教育をどう考えるか
論点1 外国語教育を小学校から始めることについて
論点2 早期外国語教育の実施と言語学習の臨界期について
論点3 早期外国語教育が母語の習得にあたえる影響について
論点4 小学校で学習する外国語について、英語でなければならないのか
論点5 早期外国語教育で重要なのは、運用能力の養成か、それとも「ことばへの気づき(言語への目覚め)」活動か
論点6 どの程度の英語力をめざすのか
論点7 早期外国語教育は、英語だけでいいのか
第Ⅰ部 国外の事例から
第1章 ヨーロッパにおける言語教育政策と早期言語教育
はじめに
早期言語教育は有効か
早期言語教育の成功するケース
EUの早期言語教育
COEの言語教育政策に見る早期言語教育
おわりに
第2章 ヴァッレ・ダオスタの早期バイリンガル・複言語教育
はじめに
ヴァッレ・ダオスタの言語環境
ヴァッレ・ダオスタの早期バイリンガル・複言語教育
様々なバイリンガル教育モデルとヴァッレ・ダオスタのバイリンガル・複言語教育
生徒の学力評価
教師の養成
費用対効果の問題
バイリンガル教育を成功させるために
おわりに
第3章 ギリシャにおける早期言語教育と「言語への目覚め活動」
はじめに
ヨーロッパの外国語教育とギリシャの外国語教育
ギリシャの外国語教育と日本の外国語教育
ギリシャの移民に対する教育
まとめ
第4章 アラン谷における早期多言語教育――日本の言語教育に与える示唆
はじめに――言語的少数派から見た早期多言語教育
アラン谷における早期多言語教育
日本の言語教育に与える示唆
おわりに
第5章 カナダにおける早期言語教育――イマージョンとANL
はじめに
カナダについて
コア・フレンチ
イマージョン
インテンシブ・フレンチ
神経言語学的アプローチ(ANL)
まとめ
第Ⅱ部 日本の事例を考える
第6章 歴史の中の小学校英語教育
はじめに
小学校における外国語教育の史的概観
小学校ではどのような外国語が教えられたか
小学校の外国語教育をめぐる論点
開始時期と時間数をどうするか
おわりに
第7章 英語リメディアル教育研究者から見た小学校英語教育
小学校英語教育が話題になったころ
小学校英語教育に関して推進派の意見
小学校英語教育に対する反対論
リメディアル教育とは何か
リメディアルと向き合う
小学校英語教育教科化に対する現場の意見
小学校英語教育の利点と欠点
今後のこと
リメディアル研究者から見た早期英語教育に対する提言
第8章 小学校における国際理解教育としての外国語活動の可能性
はじめに
小学校教育現場の多言語状況
国際理解教育の視点
国際理解教育としての外国語活動
公立小学校における授業実践事例
国際理解教育としての外国語活動の可能性
おわりに
第9章 言語への目覚め活動と小学校英語教育
はじめに
「言語への目覚め活動」の誕生と発展
言語意識教育の定義
欧州での発展――「言語意識」から「言語への目覚め活動」へ
複言語主義とのつながり
日本の小学校外国語活動における導入
おわりに
第10章 継承語教育が民族的アイデンティティに与える影響
はじめに
移民の言語とバイリンガル教育
在日韓国・朝鮮人と彼らの使用言語
国内の朝鮮語教育機関と朝鮮学校の概要
朝鮮学校の朝鮮語教育
朝鮮学校出身者の朝鮮語に見られる問題
複言語主義の視座から提唱する新たなパラダイム
おわりに
終章 鼎談――小学校の英語教育は必要か
あとがき
著者紹介
前書きなど
まえがき
文部科学省は2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を掲げ、小学校英語教育を大幅に拡充しようとしています。現在、小学校の5年生と6年生で行われている「外国語活動」を教科化し、その上で1週間に3コマ程度導入し、初歩的な英語の運用能力を養い、さらに小学校3年生より外国語活動を週1回か、2回導入し、コミュニケーションの素地を養うことをめざそうというのです。小学校の英語教育はいよいよ本格化するといえるようです。
このような計画を見ると、小学校英語教育が「お上のお墨付き」を得たと小躍りする方もいるでしょうし、大変な宿題がくだってくると頭を抱えている先生も多いことと思います。どのような教材を使うのか、どのように評価を行うのかといった教授法に関わる疑問から、英語教育を担当する教師に充分な英語力はあるのか、また小学生という認知的な発達の段階にある学習者に対する外国語の教授法を教師が充分に身につけているのかなど、教師に対する疑問も立ち上がります。さらに小学校英語は中学校からの英語教育の前倒しなのか、その場合、中学校のカリキュラムとの整合性をどのように確保するのか、様々な小学校からやってくる生徒はみな均一の英語能力を持つことができるのかなど、小学校英語教育をめぐっては実に様々な疑問が湧き上がります。
本書は、これまでに刊行された小学校英語教育の本とはいささか趣の異なるものです。小学校英語教育については賛否両論の立場から、様々な論考が進められてきましたが、他国で進められてきた言語教育政策の事例を研究する場合でも、小学校英語教育の実施を前提に考察を進めるため、それ以外のケースに対する目配りが比較的少ないように思えてなりません。英語教育学の専門家が行う研究であれば、英語を教えることを前提としてこの問題に取り組むのですから、早期英語教育といえば小学校英語教育を指すと考えるのは当然のことかもしれません。
しかし本書は、小学校英語教育を考えるにあたり、これまでとは異なる視点を採ります。編者も含めて、著者の多くは狭い意味での小学校英語教育の専門家ではありません。当事者とは異なる立場から早期言語教育の課題に迫ろうとしているのです。
(…後略…)