目次
まえがき
序章(福原宏幸/中村健吾/柳原剛司)
1.アクティベーション
2.フレキシキュリティ
3.社会的排除
4.社会的包摂
5.福祉国家と資本主義の類型論
6.多次元的なヨーロッパ福祉レジーム
第Ⅰ部 EU
第1章 ユーロ危機にあえぐ欧州の経済と社会(中村健吾)
1.グローバル恐慌のなかの欧州金融・経済危機
2.EUのドイツ化と環大西洋蓄積レジーム
3.危機を経たEUの経済と社会の現状
第2章 『欧州2020』戦略とEUによる危機への対応(中村健吾)
1.折り返し地点に立つ『欧州2020』戦略
2.債務危機の救済制度――欧州安定メカニズム
3.財政規律の強要
4.銀行同盟
5.経済・通貨同盟の社会的側面を強化する
6.「埋め込まれた新自由主義」から「むき出しの新自由主義」へ?
第Ⅱ部 イギリスとフランス
第3章 規律訓練型社会政策の連続と限界――イギリス(居神浩)
1.論点の再構成
2.連立政権のアクティベーション政策を支える政策論理――アクティベーション政策の位置づけ
3.連立政権におけるアクティベーション政策の展開
4.アクティベーション政策の本音(?)の政策論理
5.政策論理転換の可能性――スコットランド独立住民投票が示唆するもの
第4章 福祉・復職支援の一体改革に見る福祉レジームの再編――フランス(松原仁美)
1.フランスの貧困対策の特徴――1980年代から90年代にかけての展開
2.福祉・復職支援の一体改革
3.ユーロ危機下における一体改革の動向
4.今後の展望
第Ⅲ部 北欧
第5章 社会的経済政策から見る就労支援――スウェーデンにおける長期失業者の社会的包摂(太田美帆)
1.EUにおける社会的経済
2.スウェーデンにおける近年の労働市場の概況
3.スウェーデンへの社会的経済の導入
4.就労支援政策と結びつくスウェーデンの社会的経済
5.労働による社会的統合か?
6.結びにかえて
第6章 就労アクティベーションから教育アクティベーションへ――デンマークにおける公的扶助改革(嶋内健)
1.失業保険改革と緊急雇用対策
2.公的扶助改革
3.支援行程から見た新制度の特徴
4.新制度における給付
5.新制度に見る改革の理念
6.教育アクティベーションへ
第Ⅳ部 南欧と中・東欧
第7章 福祉政策の地域格差か、それとも個性化か?――積極的労働市場政策導入後のイタリア(土岐智賀子)
1.社会福祉制度の特徴――補完性の原理にもとづく福祉制度とその課題
2.欧州統合と政権交替のなかで展開する国家的課題の克服プラン――労働市場政策の展開
3.就業率の推移から見るイタリアの状況
4.労働市場における若者の状況と、学校から職業への移行対策
5.福祉の再編成過程における自治体とサード・セクターの役割
6.おわりに
第8章 危機下における国家の再構築と社会政策の変化――ハンガリー(柳原剛司)
1.危機下のハンガリーにおける経済状況
2.オルバーン政権のもとでの国家の権力構造の変化
3.年金制度改革――3本柱の年金制度の終焉
4.雇用政策の変容――さらなる就労アクティベーションの進行
5.家族政策の推移
6.おわりに
第9章 市場移行と経済危機がもたらした福祉システムの変容――ブルガリア(ニコライ・ネノフスキー/ジェコ・ミレフ)
1.移行初期とカレンシー・ボード制導入以前のブルガリアの福祉システム(1989-1997年)
2.経済危機とカレンシー・ボード制導入以後の福祉システムの展開
3.雇用政策
4.危機の時代における福祉システム
5.結論
終章 多様化するアクティベーションと社会的包摂政策(福原宏幸)
1.知識基盤型経済の追求とその労働への影響
2.フレキシキュリティ再論
3.社会的排除と社会的連帯経済
4.日本への示唆
あとがき
著者紹介
前書きなど
まえがき
20世紀末から21世紀の初頭にかけてEU加盟国の社会保障制度は、多様性を帯びながらも共通の方向性に沿って顕著な変容を遂げていった。そうした共通の方向性は、本書の副題に掲げられている「アクティベーション」および「社会的包摂」という2つの政策志向によって特徴づけることができる。そして、2008年のリーマン・ショックと2009年末以降のユーロ危機は、EU加盟国の政府を厳しい財政的圧力のもとに置いている。本書は、ユーロ危機を経たヨーロッパ福祉レジームにおける改革の動向を、雇用政策と社会的保護・包摂政策に着目しながら分析しようとするものである。
ユーロ危機の経緯と原因については、それを立ち入って分析した文献が日本にも数多く存在する。それとは別に、EU加盟各国の福祉制度を研究し比較する日本語の文献も、枚挙にいとまがない。後者の類の文献には、私たちが2012年に公刊した『21世紀のヨーロッパ福祉レジーム:アクティベーション改革の多様性と日本』(糺の森書房、2012年)もふくまれる。
しかし、EU加盟国の財政・金融政策のみならず社会保障のあり方にも深刻な影響をおよぼしているユーロ危機によって、各国の福祉国家と制度がどのような変容圧力のもとに置かれ、実際にどのように変化しているかという点について見取り図を提供してくれる日本語の本は、意外に少ない。私たちの『21世紀のヨーロッパ福祉レジーム』は、20世紀末以降におけるEU加盟国の雇用政策と社会的包摂政策の動向を、EUによる政策調整をも視野に入れながら分析し、もって欧州福祉国家の変容の方向性を提示しようとしたものであるが、ユーロ危機が各国におよぼしたインパクトを十分に考慮したものではなかった。そこで本書は、前著において果たすことのできなかった、EU加盟国の雇用・社会的包摂政策に生じている変化をユーロ危機との関連においてとらえるという課題を掲げている。ギリシャの債務問題をめぐって2015年の夏に生じた、同国での国民投票をふくむ一連の事態が示したように、ユーロ危機は過ぎ去ってはいないし、債務危機よりもむしろ、緊縮政策の強要のもとで生じている「人道的危機」にこそ注意が向けられるべきである。危機のもとでのヨーロッパ福祉レジームの変容を分析することは、喫緊の課題である。
(…後略…)