目次
第一章 東京裁判での奇行
第二章 若き哲学者/愛国者
第三章 ライム・アヴェニューの家
第四章 天からの使命
第五章 未解決事項
第六章 昭和維新
第七章 軍精神科医になるまで
第八章 アジア解放への戦い
第九章 衰弱
第十章 無意識の意識
第十一章 審判
第十二章 東洋と西洋の魂
謝辞
日本語版へのあとがき
訳者あとがき
原註
前書きなど
訳者あとがき
本書は二〇一四年一月にScribner社より出版されたEric JaffeのA Curious Madness: An American Combat Psychiatrist, a Japanese War Crimes Suspect, and an Unsolved Mystery from World War IIの全訳である。著者はアトランティック誌が運営する「都市の未来」をテーマにしたサイトCityLabで編集およびライターを務めるかたわら、本の執筆も行っており、二〇一〇年にはアメリカの礎となったボストン・ポスト・ロード(郵便道路)の歴史を描くThe King's Best Highway: The Lost History of the Boston Post Road, the Route That Made Americaを出版、本書はノンフィクション作品として二冊目にあたる。
東京裁判時の祖父による大川周明の精神鑑定の真偽を確かめる、というのが元々の執筆動機だったと著者は出版記念の講演で語っている。祖父が記した回想録のなかには鑑定結果に疑問を持つ者がいるとの記述があったようだが、彼の死後CIAの文書にも鑑定結果を公式に否定するような文言を見つけ、いよいよ真相を知りたくなったのだという。
(……)
大川周明の人生が描かれる本書だが、何よりもまず祖父の沈黙あるいは大川の狂気という「不確かなもの」を追ったドキュメンタリーである。そして、そうであるがゆえに大川周明に関する書籍として新鮮なものであると言える。日本語版へのあとがきで著者が述べているように、ここにあるのは「何かの答え」ではなく、「忘れ去られたものの再発見」を目指した過程だ。大川を善か悪かで判断するのではなく、東京裁判での奇行に至る過程や奇行に対する見解が、多くの研究者や関係者の視点からフラットに描かれている。そこでなにか一つの見解に肩入れするのではなく、それぞれの見解を横に並べながら、かつてあった狂気に思いを馳せる。不可解で不確かな狂気に迫ろうとする試みは、過去の再発見を目指す過程そのものだろう。
(…後略…)