目次
序章
第1節 本書の意図と特徴
1.地域包括ケアシステムとは
2.地域包括ケアシステムにおける「地域」とは
3.なぜ高齢者の「住まいとケア」なのか
第2節 本書の構成
1.高齢者の「住まいとケア」施策分析を通して
2.最期まで住み続けるための体制を考える
3.デンマークの地域包括ケアシステムから学ぶ
第1章 高齢者の「住まいとケア」政策の変遷
第1節 高齢者福祉創成期からの30年
1.高齢者福祉創設期(1963~1974年)
2.福祉見直しと施設整備期(1975~1984年)
3.在宅ケアサービス移行期(1985~1996年)
第2節 多様化する高齢者の「住まいとケア」
1.住まいとケア施策多様化期(1997~2004年)
2.地域居住期(2005年~)
3.高齢者の「住まいとケア」政策の展開
第3節 政策の変遷からみた特徴と課題
1.国と地方の関係の変化から
2.対象の拡大による変化から
3.多様化する「住まいとケア」から
第2章 高齢者の「住まいとケア」施策の現状分析
第1節 多様な「住まいとケア」施策
1.24時間ケア施設(A)
2.住宅施策と在宅ケア(B)
3.居住系施設(C)
4.ケア外付け住宅(D)
第2節 高齢者の「住まいとケア」施策の全体像
1.誰がどれだけ供給してきたのか
2.ケア×自己負担による配置
3.高齢者の「住まいとケア」のゆくえ
第3節 高齢者の「住まいとケア」施策を取り巻く課題
1.高齢者の状態変化と移動
2.自己負担とサービス利用
3.事業種別及び地域間の格差
第3章 社会福祉法人きらくえんによる地域包括ケアシステム
第1節 きらくえんにおける30年間の実践分析
1.福祉の見直しと施設整備期における実践
2.在宅ケアサービス移行期における実践
3.住まいとケア施策多様化期における実践
4.地域居住期における実践
第2節 きらくえんによる地域包括ケアシステム
1.市街地における地域包括ケア実践(喜楽苑)
2.過疎地域における地域包括ケア実践(いくの喜楽苑)
3.住民が集える地域の拠点として(あしや喜楽苑)
4.一人ひとりの「住まいとケア」の実現(けま喜楽苑)
5.きらくえんにおける地域との関わり
第3節 地域包括ケアシステム構築に向けて
1.一人ひとりへの「ケア」を支えるもの
2.「住まい」としての空間づくり
3.看取りまでを含めた継続的なマネジメント
第4章 デンマークにおける地域包括ケアシステム
第1節 高齢者に関わる「住まいとケア」政策の変遷
1.住まいとしての施設整備
2.施設をつくらないという選択
3.一人ひとりに対する「住まいとケア」
第2節 デンマークにおける地域包括ケアシステム
1.地方分権社会のデンマーク
2.コムーネにおける「住まいとケア」
3.高齢者の「住まいとケア」実践
第3節 デンマークの地域包括ケアシステムを支えているもの
1.コムーネで「住まいとケア」を保障する
2.「住まい」にこだわるデンマーク
3.一人ひとりに対する「ケア」の背景にあるもの
終章
1.一人ひとりの「住まいとケア」を保障する
2.地域全体で「住まいとケア」を支える
3.みんなで「地域包括ケアシステム」を考える
4.本研究の限界と課題
おわりに
前書きなど
はじめに
「地域包括ケアシステム」という用語が高齢者施策の中で積極的に使用されるようになってから約10年が経過した。しかし、未だ構築に向けた具体的な道筋や姿がみえているとはいえない。それは1つに、「地域包括ケアシステム」という概念が持つ多義性の表れといえるかもしれない。例えば、地域包括ケアシステムを構築する「地域」とはどこを指すのであろうか。小学校区のような身近な範囲を指すのか、市町村や広域行政区等ある程度の資源を持つ地域であろうか。また、「包括ケア」とは、医療や介護、住宅等の領域を越えて提供されるケアという意味であろうか。もしくは、市町村や社会福祉事業を担う専門機関に加えて、ボランティア団体や市民団体、地域住民等によるケアを含めたケアということであろうか。そしてそれらは、地域包括ケアシステムの構築を目指す地域によって自由に判断されるべきものなのか。
本書は、「地域包括ケアシステム」を、一人ひとりが地域で最期まで住み続けるための体制づくりと捉え、構築に向けた検討課題を明らかにすることを目的にしている。そのため本書ではまず、地域包括ケアシステムを構成する社会資源の1つである高齢者施策を分析するため、これまでの施策の変遷や現状を明らかにする。次に、30年以上の実績を持つ社会福祉法人の異なる地域での実践を分析することを通して、地域の実情に応じた地域包括ケアシステムの実践例と実現のための検討課題を導き出す。最後に、筆者が地域包括ケアシステムが実現していると考えるデンマークに着目し、日本との対比を行うことで、地域包括ケアシステムの構築に向けた視座を導き出したいと考えている。
そして本書における特色であり、全体を貫く視点として、高齢者の「住まいとケア」がある。高齢者の「住まいとケア」とは、どこで暮らすかという「住まい」と、どのような「ケア」を受けるかを組み合わせたものである。本書ではこの「住まいとケア」によって高齢者施策を整理し、多様に広がる施策を一人ひとりの視点から捉え直す。第4章で取り上げるデンマークにおいても、地方自治体であるコムーネを基盤に一人ひとりの「住まいとケア」を保障することで地域包括ケアシステムを実現していた。筆者は、この一人ひとりの「住まいとケア」をどう保障するかということが、地域包括ケアシステムを構築するための核となるのではないかと考えている。そして、施設から在宅へ、そして地域へとケアが多様に展開してきた一方で、特別養護老人ホームへの入所申込者が50万人を超え、さらに2030年には約40万人の看取り先の確保が困難といわれる今、地域包括ケアシステムを構築するために改めて検討されなければならないことではないかと考えている。
本書は地域包括ケアシステムを構築するための手引書ではない。それでも何かの形で、地域で暮らす一人ひとりの生命、生活、人生に寄り添った「住まいとケア」が提供できる体制づくりの一助となることを願っている。