目次
はじめに
第2版刊行にあたって
Ⅰ 地理と自然環境
第1章 ミクロネシアの島じま――太平洋に浮かぶ「小さな島」
第2章 火山島とサンゴ島――どのようにして島はできたのか
第3章 海流と貿易風――自然を読みとる独自の知識
第4章 雨期と乾期・自然災害――島に生きるための知恵と手段
第5章 ミクロネシアの動物――人と動物の深い関わり
第6章 ミクロネシアの植物――環境が生んだ栽培植物の多様性
Ⅱ 歴史
第7章 ミクロネシアの人びと――人はどこから無人島にやって来たのか
第8章 ミクロネシアの言語――多様な島じまの言葉
第9章 ヨーロッパ人との遭遇――「発見」されたミクロネシア
第10章 スペインからドイツ統治時代へ――ヨーロッパ諸国による統治の歴史
第11章 日本統治時代――日本の手に渡った植民地
第12章 太平洋戦争(第2次世界大戦)――戦地となったミクロネシア
第13章 アメリカによる戦後統治――負わされ続ける軍事的役割
第14章 キリスト教の功と罪――植民地支配がもたらした意識の変容
Ⅲ 伝統の息づく生活文化
第15章 伝統社会のしくみ――ピラミッド社会とネットワーク社会
第16章 母系社会と父系社会――集団編成の基盤となるもの
第17章 ミクロネシアの伝統的コスモロジー――危機対応システムの変容
第18章 多様な漁労法――サンゴ礁と外洋への適応
第19章 カヌーと航海術――海を渡るための知識と技術
第20章 手間をかけた保存食――発酵と乾燥(パンノキ・パンダナス)
第21章 調理法のいろいろ――食材がもたらす優れた一品
第22章 ビンロウ噛みとカヴァ――伝統的な嗜好品
第23章 手工芸品――木彫工芸、装身具、織物、編み物
第24章 衣文化――腰蓑、腰巻き、フンドシ
第25章 家・集会所・カヌーハウス――人びとが集まった公共施設
第26章 歌と踊り――伝統の創造と継承
Ⅳ 現代社会
第27章 独立国家への道――ミクロネシアの独立とは
第28章 自立と経済――島嶼国が抱える困難な課題
第29章 観光立国の光と影――「楽園」が抱える課題
第30章 出稼ぎする人びと――押し寄せるグローバリゼーションの波
第31章 家族の軋轢と変貌――小家族化と若者の自殺
第32章 フカヒレより観光資源――資源保護へのチャレンジ
Ⅴ 日本とミクロネシア
第33章 日本統治時代の生活――古写真から見た文化の変容
第34章 日本統治時代の移民と産業――南洋の「楽園」に見た夢と現実
第35章 日本観光に来たミクロネシアの人びと――最高の名誉とされた参加者たち
第36章 政府開発援助――アメリカのコンパクト・グラントと日本のODA
第37章 ミクロネシアとボランティア――シニア海外ボランティアの活躍
第38章 沖縄にやって来たチェチェメニ号――失われた伝統航海術の復興
第39章 ミクロネシアの日系人――全体の約2割が日系人
Ⅵ グアム・北マリアナ諸島自治領
第40章 チャモロ文化の源流――ミクロネシア最古の文化
第41章 巨石遺跡ラッテの謎――稲作文化と共にあらわれる
第42章 色濃く残るスペインの影響――キリスト教文化と新大陸起源の動植物
第43章 分断されたマリアナ諸島――終わらない「植民地支配」
第44章 戦跡と慰霊の島――テニアン、サイパン
Ⅶ ミクロネシア連邦
第45章 世界最大の貨幣――石で作ったヤップのお金
第46章 星座と航海術――「星座コンパス」の多様な応用
第47章 助け合う島じま――サウェイ交易ネットワーク
第48章 南海のヴェニス――ナン・マドール遺跡
Ⅷ パラオ共和国
第49章 女性と社会――パラオに見る女性社会の構図
第50章 人びとをつなぐバイ(集会所)――伝統と現在
第51章 世界に誇る非核憲法――小さな国の大きな「武器」
第52章 パラオ南西離島の人びと――辺境の島じまの歴史と謎
第53章 世界遺産になったロックアイランド――複合遺産としての魅力
Ⅸ マーシャル諸島共和国
第54章 サンゴ礁の島に生きる――マーシャル諸島の島嶼間ネットワーク
第55章 核実験とマーシャルの人びと――破壊された島の生活と景観
第56章 ふるさとをなくしたビキニ環礁の人びと――核実験による強制移住者の過去・現在・未来
第57章 ホスピタリティを重視する観光へ――観光開発の現状と課題
Ⅹ キリバス共和国・ナウル共和国
第58章 乾燥した島で命をつなぐ――乾燥保存食とピット栽培
第59章 気候変動問題に立ち向かうキリバスの人びと――水没問題に揺れる環礁国家の将来計画
第60章 燐鉱石産業の終焉と国家の行方――かつて「最も豊かな国」といわれたナウル
主要参考文献
前書きなど
はじめに
オセアニアという地域名はようやく日本でもよく使われるようになってきた。それでも「南太平洋」という言葉のほうが一瞬にしてイメージがわくようだ。この二つの言葉の狭間にあるのが、赤道より北に位置する「ミクロネシア」である。
(…中略…)
このように先史文化一つとってもそうであるが、民族文化や日本との関わりなど、多様な視点で見るミクロネシアは、なかなかに魅力あふれる地域である。それにもかかわらず、ミクロネシア地域全体を正面から取り上げた本は、観光書以外には少なかった。ぜひ、総合的な一冊の本を作りたいと長らく考えてきたが、今回それが実現した。ミクロネシア地域の自然や歴史、伝統文化や現代文化、そしてミクロネシアと日本との関わりの歴史などを58の章に分け、それぞれに適した方に執筆していただくことができた。どのトピックもミクロネシアを知る手がかりとなる基本情報をベースにしているので、どこからでもおもしろく読んでいただけることと思う。
歴史的にも距離的にも日本に近いミクロネシアについて興味を持っていただくことができたら、本書の目的は半分達成される。そしてあとの半分は、ぜひミクロネシアへと足を運んでいただければと思う。人間がいかに自然環境と密接に関わりながら生活をしてきたのか、島で生活をすることで理解がぐんと深まる。それがミクロネシアのおもしろさにさらに近づくステップとなるだろう。
(…後略…)
第2版刊行にあたって
初版が刊行されてから10年が経った。その間、世界情勢は多様なかたちで変化し、ミクロネシアの国ぐにや地域も世界と関わりを持ちながら、小規模国家としての模索を続けている。アメリカの影響力が圧倒的に強かったミクロネシアであるが、近年は中国が様々なかたちでミクロネシアのみならずオセアニアへの進出を続け、影響力を増しつつある。ミクロネシアは島嶼国家である。陸上資源には乏しくても、豊かな海洋資源を有しており、それをいかに有効に利活用するかにその未来がかかっているといえる。
改訂版の刊行にあたり、全面的な見直しを行うとともに、後半には新たに国別のセクションをもうけ、それぞれの特徴を示す新しい章も追加した。(……)