目次
まえがき
第1章 パキスタンという国
日本の約二倍の国土
パキスタン最大の州
パシュトゥーンの州
五つの河
イスラームの門戸
イスラームの都
連邦直轄部族地域
インドとの係争地
民族
言語
宗教
第2章 長い軍政の歴史
軍政が三〇年以上
戒厳令
諜報機関・治安維持機関
国家安全保障会議
憲法
大統領
非常事態宣言
首相・連邦大臣
州知事・州首相
連邦議会
総選挙
司法
大反逆罪
連邦制と州の関係
宗教マイノリティの問題
言語騒動
地主や部族長が多数占める議会
主要政党
第3章 司法による殺人
中パ友好関係の樹立に尽力
クスーリー議員の父親殺人事件
イスラーム世界初の女性首相
ミスターテンパーセント
ベーナズィールの暗殺
ムルタザーとシャーナワーズの死
第4章 ローティー、カプラー、マカーン
バングラデシュの誕生
文民の戒厳令総司令官
戦後処理
バングラデシュ承認
中東諸国との関係緊密化
パキスタンで初めての民主的憲法
州政府と連邦政府の対立
スィンド州の言語騒動
野党弾圧の政策
総選挙でのPPPの圧勝
第5章 オペレーション・フェアプレー
総選挙後の国内混乱
マリー会談
ヌスラト・ブットー訴訟
再度の総選挙延期
ブレジネフのクリスマス・プレゼント
イスラーム化政策
大幅な憲法改正
ジュネージョー首相の解任
ズィヤー大統領の死
第6章 失われた一〇年
PPP政権の復活
首相不信任の動き
憲法によるクーデター
軍部の申し子
イスラーム法施行法の制定
シャリーフ首相の解任と復権
ベーナズィール首相の返り咲き
判事の任命問題
シャリーフ首相の返り咲きと独裁化
前代未聞の最高裁乱入
第7章 四度目の軍政
非常事態宣言の布告
シャリーフ前首相の亡命
政権基盤強化のための憲法改正
宗教政党の予想外の躍進
ムシャッラフ政権の正統化
ムシャッラフ大統領の公約違反
女性保護法の制定
最高裁長官の停職処分
ムシャッラフ大統領との連携の模索
司法に対するクーデター?
第8章 民主主義定着への一歩
与野党の逆転
判事の復職
国民和解政令(NRO)に違憲判決
政府と軍部の不和
第一八次憲法改正
ビン・ラーディンの殺害
メモゲート事件
現職首相に法廷侮辱罪で有罪判決
アスガル・ハーン訴訟
シャリーフ、三度目の首相に
ムシャッラフ元大統領の訴追
第9章 原爆の父と核の闇商人
パキスタンの核実験
原爆の父
パキスタンの再処理プラント購入問題
米国の対パキスタン核不拡散政策の後退
米国の核不拡散政策の見直し
核の闇商人
イラン、北朝鮮、リビアに流出
第10章 テロとの戦い
宗派間の対立抗争
対立抗争のパターン
スンニー派とシーア派の過激組織
イラン革命
パキスタンの苦渋の選択
マドラサ改革
成果のない和平合意
無人飛行機による攻撃
赤いモスク事件
パキスタン・ターリバーン運動の結成
スワート軍事掃討作戦
自爆テロ
あとがき
写真出典一覧
パキスタン政治を知る上で有益な資料、サイト
年表(1970年以降)
索引
前書きなど
あとがき
一九八九年八月、私はイスラーマーバードの書店で一冊のウルドゥー語の本を手にした。題名は『パキスタンの政治家たち』(Aqeel Abbas Jaffery “Pakistan ke Siyasi Wadera”, Lahore 1993)で、パキスタンの著名な政治家の家族、姻戚関係などにつきこと細かく書かれた書物であった。私は文字どおりむさぼり読んだ。
私は一九六九年外務省に入省し、パキスタンとかかわりを持つようになったが、当時はパキスタン政治について勉強しようにも日本では概説書の類は皆無であった。パキスタン関係の書籍と言えば、アジア経済研究所から出版されていた経済関係の専門的なもの数冊であった。
そんなこともあって、外務省在職中たえずパキスタン政治を勉強、研究しようとする人にとっての手引となる、あるいはパキスタン政治のことを知りたいとする人にとって参考となる入門書、概説書をぜひとも書きたいと思っていた。そのための資料もずいぶん集めていた。たまたま前述の書物に出会ったことにより書いてみたいという私の願望は一層強くなった。というものの筆はなかなか進まなかった。
本書を執筆するにあたって、いろいろな文献や資料を参考にしたし、パキスタンのさまざまな人々からも話を聞いた。その過程で、自分が在パキスタン日本大使館と在カラーチー日本総領事館勤務中に経験したさまざまな出来事について当時一般に考えられていることとは違った見方や背景を知り、なるほどとうなずかされることや、なんだそれだけのことだったのかと、がっかりさせられることが多々あった。しかし、それは実に楽しい発見であり、経験でもあった。
パキスタンといえば、同じアジアの国でありながら、我が国とは距離的だけでなく、文化的にも遠く、ともすれば大国インドの陰にかくれがちである。核問題やテロで世界の耳目を集めているとはいえ、一部の旅行者や登山家を除き、まだまだ馴染みの少ない国である。さまざまな分野の研究が進み、多数の書籍が発行されているインドに比べ、パキスタンを専門に研究している人も多くない。
最近、観光ガイドブックだけでなく、徐々にではあるがパキスタン関係の書籍も書店に並ぶようになっているが、まだまだ数は少ない。パキスタンの政治、経済、社会などについての概説書は残念ながらほとんどないというのが現状である。
従って、本書はできる限り多くの方々に、かつ、気軽に読んでもらえるよう努めたため、パキスタン研究者、専門家の方には到底満足のいただける内容とはなっていない。本書が多くの人々、特に若い人々が少しでもパキスタンに関心を持ち、かつパキスタンを理解する上での一助になれば、本書の目的は十分達成されたと言えるであろう。
(…後略…)