目次
序文
Part Ⅰ ACTのアプローチ
第1章 アクセプタンス&コミットメント・セラピーとは何か
変化に関するACTの理論――心理的柔軟性の向上
ACTとは何か
ACTおよび行動療法の第三世代
哲学および基礎科学の基盤
精神病理に関するACT理論――心理的硬直性
まとめ
第2章 ACT臨床の基礎知識
FEARからACTへの移行
ACTの6つの臨床コア・プロセス
ACTのセラピストのコンピテンシー
ACTのセラピストとしてのスキルの向上
まとめ
第3章 ACTのケース・フォーミュレーション
問題の範囲と特性の分析
モチベーション
心理的非柔軟性を促進する要因
心理的柔軟性を促進する要因
トリートメント目標とその目標に沿った介入の選定
Part Ⅱ 行動問題へのACT
第4章 感情障害を対象としたACT
フォーミュレーション
臨床的介入
臨床上の注意事項
まとめ
第5章 不安障害を対象としたACT
フォーミュレーション
臨床的アプローチ
障害別の臨床上の注意事項
臨床上の注意事項
まとめ
第6章 心的外傷後ストレス障害を対象としたACT
フォーミュレーション
臨床的介入
臨床上の注意事項
まとめ
第7章 精神作用物質乱用・依存を対象としたACT
ケースの概念化
ACTの介入方略
臨床上の注意事項
まとめ
第8章 重篤な精神疾患を対象としたACT
フォーミュレーション
臨床的介入
臨床上の注意事項
まとめ
第9章 多問題のある患者を対象としたACT
ケースの概念化
臨床的介入
臨床上の注意事項
まとめ
Part Ⅲ 特定の対象者・状況・方法におけるACT
第10章 子ども・青少年と親を対象としたACT
アセスメントおよびケースの概念化
ACTの臨床的介入
臨床上の注意事項
まとめ
第11章 ストレスに対処するためのACT
ACTにおけるストレスの概念化――内容よりも文脈
ストレスに対処するACTの介入プログラム
臨床上の注意事項
まとめ
第12章 一般医療施設におけるACT
ACT-HCモデル
ACTの介入
プライマリケアの治療者を対象とした訓練における提案
第13章 慢性疼痛患者を対象としたACT
ケース・フォーミュレーション
臨床的介入
臨床上の注意事項
慢性疼痛のある小児患者を対象としたACT
臨床的介入
まとめ
第14章 グループ形式でのACTの実施
ACTをグループ形式に適合させた過去の研究
ACTをグループ形式で実施するメリット
グループ形式のACTの開始前の注意事項
グループ形式のACTの実施
臨床的介入――ACTの中核的な領域とグループでの技法の実施
まとめ
参考文献
監訳者あとがき
前書きなど
監訳者あとがき
現在ACTに関する図書は、日本では10点以上出版されている。そのほとんどは翻訳書である。英語以外の言語でACTの図書がこれほど多く出版されている国は他にはない。ACTと関連する研究の国際学会であるACBS(Association for Contextual Behavioral Science; http://contextualscience.org/acbs)は2005年に設立され、日本支部(http://www.act-japan-acbs.jp/index.html)も2010年に設置された。ACBSと世界各地の支部は、ACTに関する研究と実践に関わる情報と教育を提供している。ACTを日本語で学ぶ環境は、いち早く整えられてきている。
本書の原著A practical Guide to Acceptance and Commitment Therapyは、ACTの図書としては初期に出版されたものである。その後、多くの図書が出版、翻訳されてきたが、この本の著者たちを並べてみるとヘイズ、ウィルソン、ボンド、ルオマ、バッハ、ダール、ストローサルなどACTの研究と実践の第一人者たちが各章の執筆者として名前を連ねている。いずれの章も彼らの力作の一つに間違いない。各章のテーマは、原著の出版後にそれぞれが一冊の本として執筆されるほどに発展していった。うつ、精神疾患、不安障害、糖尿病患者へのACT、集団でのACT、子どもに対するACTなど、ACTの適用範囲はますます拡大して行っている。
本書は、実践ガイドというタイトルがついているが、丁寧な理論的な解説を多く含み、臨床場面で臨床家が「なぜ、そのように振る舞うのか」を理論的な観点から解説している。読みやすさを少しばかり犠牲にしても、理論的な整合性を求めた内容であると思われる。そのため、本書を読むにあたっては、『ACTをはじめる』や『ACTをまなぶ』『ACTを実践する』『よくわかるACT』(いずれも星和書店刊)などの邦訳書をあらかじめ読んでおくことが、実践と理論とのつながりを理解する助けとなるだろう。
ACTは心理的柔軟性のプロセスを促進することを目的にした認知行動療法である。心理的柔軟性プロセスは、健康やウェルビーイングのモデルであり、介入のためのプロセスを示すモデルである。われわれ言語を持つ人間に共通した問題を扱い、人間が言語というマインドとうまく付き合っていく方法を提示している。そのため、精神的な問題に関連する疾病を持つ人に対してだけでなく、教育、子育て、組織の心理教育としても適用されている。ACTは、不快な感情や思考があったとしても、自らの選択した価値に基づく行動を拡大していくための具体的な手立てを提供する心理療法、心理教育であるので、アクセプタンスとコミットメントに基づいた日々の行動をセラピストが実践することが期待されている。
ACBSは毎年、ワールドカンファレンスを開催し、多くのワークショップ、シンポジウムを通して実践家の教育に貢献している。日本支部もいくつかのワークショップを開催してきた。本書の中でも述べられているとおり、ACTのセラピストが研鑽を積む方法は、専門書を読むこと、実践を行うこと、実践を報告しスーパーバイズを受けること、ワークショップを受けることなどである。たくさんの邦訳書が出版されるようになってきた現在、日本語という言語コミュニティーの中で、ACTをどのように実践するのかを、世界に向けて発信する時期が来ている。ACTでは体験的エクササイズやメタファーを用いることで、動機づけを高め、自発的な行動の拡大を試みる。体験的エクササイズやメタファーを使用するのは、言語による強い行動制御をいったん弱めるための効果的な試みとなるためである。読んで理解することは、自発的な行動の拡大の最初の一歩となるかもしれないが、体験を通した「気づき」を模索していくことの重要性が、本書では理論的な観点から強調されている。「エクササイズやメタファーを学ぶのではなく、エクササイズやメタファーを通して学ぶ」のである。
日本でACTを学ぶわれわれ実践家は、本を通して(すなわち言語行動を通して)ACTを学びながらも、実際の体験から学ぶことに重心を置いていかなければいけない。そしてその体験を、世界の多くのACTを学ぶ実践家の仲間と共有しながら、「うまく行く」方法を開発していかなければならないだろう。理論と実践の両輪をしっかりと押さえた本書は、まさに実践のガイドなのである。最後に、根気強く編集作業を続けていただいた明石書店の吉澤さん、翻訳作業をしてくれた坂本さんに心よりの感謝をささげます。
2014年6月30日 立命館大学 谷 晋二