目次
はじめに
Ⅰ メソアメリカとは
第1章 メソアメリカとは(1)――地理的範囲と自然環境
第2章 メソアメリカとは(2)――時代区分
第3章 メソアメリカとは(3)――諸文化の共通性
第4章 メソアメリカとは(4)――文化と言語の多様性
【コラム1】古代メソアメリカの世界遺産とツーリズム
Ⅱ 古代メソアメリカの歴史
第5章 最初のアメリカ人――新大陸の「発見者」
第6章 先古典期――メソアメリカ文明の萌芽
第7章 古典期――古代国家の発展
第8章 後古典期――「世界システム」の形成
【コラム2】メソアメリカ各地の遺跡での日本の調査
Ⅲ 古代文明の実像
第9章 オルメカ文化――オルメカならびにメソアメリカの「母なる文化」たち
第10章 モンテ・アルバンとサポテカ文化――オアハカ盆地の三千年史
第11章 マヤ文明の繁栄(1)――諸都市の興亡
第12章 マヤ文明の繁栄(2)――古典期だけではないマヤ文明史
第13章 国際都市テオティワカン――異言語が飛び交う多文化社会
第14章 テオティワカンの衰退と諸都市の興亡――メキシコ中央高原の続古典期
第15章 テオティワカンのさらに北に何があったか――メソアメリカ北部の諸文化
第16章 エル・タヒン遺跡とメキシコ湾岸の諸文化――球戯の特色をもつ古典期後期以降の主な遺跡
第17章 トルテカ文化の起源と繁栄――トゥーラをめぐる伝承と考古学資料
第18章 アステカ王国――メソアメリカ最大の「帝国」の実像
第19章 アステカと同時代の諸文化――ミチョアカン、ミシュテカ、トラスカラ
【コラム3】メソアメリカ周縁部の考古学最前線――エルサルバドルでの調査から
Ⅳ 古代メソアメリカの思想と宗教
第20章 二元性――メソアメリカ思想の根幹
第21章 多神教――メソアメリカの神々の特質
第22章 神話――メソアメリカにおける創造の物語
第23章 宇宙観――メソアメリカ人が思い描いた世界イメージ
第24章 メソアメリカ文明を支えた主食――トウモロコシ文化の過去と現在
第25章 天文学の知識と暦――マヤやアステカの政治・宗教の道具
第26章 リテラシー――メソアメリカにおける文字と書物
第27章 水と生活――メキシコ盆地の環境と自然観
Ⅴ 古代メソアメリカの文化と社会
第28章 植物と食材――世界に広がった「メソアメリカ・ブランド」
第29章 工芸と交易――洗練された芸術と交易網の拡充
第30章 人々の移動――「民族大移動」と移住譚
第31章 支配と領域概念――後古典期の事例から
第32章 戦争――メソアメリカにおける戦争の実態と概念
第33章 王権とイデオロギー――正統性とモニュメント
Ⅵ 古代文明の終焉――スペイン征服と植民地支配
第34章 スペイン征服(1)――アステカ王国の征服
第35章 スペイン征服(2)――マヤおよびその他諸地域の征服
第36章 「魂の征服」――メソアメリカ先住民のキリスト教化
第37章 変わりゆく先住民貴族社会――16世紀メキシコ盆地の事例から
第38章 集住化政策――植民地時代前半の先住民村落の再編
【コラム4】「アステカの百科全書」とキリスト教布教
Ⅶ 植民地支配下の文化変容と新たな文化の生成
第39章 植民地時代の絵文書――メソアメリカの書物の伝統とその変容
第40章 植民地時代の先住民エリートが語る歴史――征服前の歴史の再解釈
第41章 土地と水をめぐる先住民村落のたたかい――権原証書とテチアロヤン絵文書
第42章 疫病・移民・植民地社会の形成――人口の推移から見るメソアメリカの社会(16~17世紀)
第43章 植民地時代の言語――広大な多言語世界における言語政策
第44章 メスティソ、新たな中間層の登場――「混血」と植民地社会
【コラム5】先住民の文化変容と現代からの評価
Ⅷ 国家形成とメソアメリカ先住民
第45章 メキシコ独立への道のり――スペイン植民地支配の終焉と動乱の始まり
第46章 中米諸国のスペイン支配からの独立――中米連邦の創設と先住民
第47章 メキシコ、国民統合から多文化国家へ――文化間対話をめざすインターカルチュラリズム
第48章 グアテマラ――内戦後そして現在のマヤ社会
第49章 ベリーズ――英語圏の「マヤの国」
第50章 中米における近代国民国家形成と先住民――軍事政権下のエルサルバドルのナワ・ピピルの人々
Ⅸ メソアメリカ社会のいま――現代先住民の世界
第51章 カトリック信仰――聖人崇拝の多様性
第52章 祭礼――さかしまの世界を演出するジャガー
第53章 農耕と儀礼――循環する生命と豊かさにあふれた地下世界
第54章 カルゴ・システム――村落社会の自治制度
第55章 都市と先住民――メキシコ市内の旧先住民村落
第56章 織りと装い――グアテマラ高地マヤ、機と衣の今昔物語
第57章 遺跡利用と観光開発――チチェン・イツァを中心に
第58章 民俗文化の「真正さ」――メキシコにおける先住民と「先住民的なもの」
【コラム6】現代先住民の食文化――「ポソレの木曜日」とグアテマラの世界企業
【コラム7】越境するメソアメリカ先住民
メソアメリカを知るための文献ガイド
図版出典一覧
前書きなど
はじめに
日本の大学で講義をしたり、一般の講演や講座に携わっていて、アメリカ大陸の古代文明への世間の関心が高いことを感じると同時に、日本国内ではこれらに関する基本情報が不足していると痛感することも多い。手元にある高等学校の世界史Bの検定教科書をめくってみると、四半世紀ほど前に編者自身が学んだものと比べて古代アメリカやラテンアメリカ史の記述は格段に増加している。しかし、東洋史や西洋史の同時期の記述に比べればその内容は体系的と呼ぶにはまだまだ貧弱で、現在の学問的水準を十分に反映しきれていない。興味本位のテレビ番組やマスコミ報道と相まって一般に世間に流布するイメージと、研究によって明らかになってきていることとの間にギャップがあるというのは、多くの研究者の同意を得られるところであろう。
(…中略…)
それと同時に、明石書店が本書の企画に興味を示してくださった際、編者は何よりも「現在」を意識したメソアメリカの入門書を作りたいと考えた。先述の通り、メソアメリカの古代文明について現時点での学術的な知見や基本的な情報を広く提供することはもちろん不可欠である。しかし、それを「遠い過去」に閉じ込めてしまってはいけない。16~19世紀にかけてヨーロッパ人による約3世紀の植民地支配を経験し、その後およそ2世紀かけて現在のメキシコ、あるいはグアテマラをはじめとする中米の諸国家が展開してきた。その中でメソアメリカ先住民は時に権力によって弾圧されたり為政者らに翻弄されたりしながらも、したたかに生の営みを続け、現在でも生き続けている文化を持つ人たちなのである。
このような観点に立ち、本書ではいわゆる古代(先スペイン期)を扱う部分に十分なスペースを割くと同時に、植民地時代と独立~現代にも相応の紙幅を割くことにした。執筆にあたっては、考古学・歴史学・文化人類学といった各分野の若手・中堅を中心としたすぐれた研究者の方々に参加していただくことができた。各執筆者には基本的な情報や研究の最前線をバランスよく盛り込んでいただくべく、時に無理な注文もお願いし、様々な図版や写真も提供していただいた。編者としては、広範な時代と地理的範囲にまたがるものとして、極力、全体像が見えるように配慮すると同時に、一般の概説書ではあまり取り上げられることのない文化的な側面を多く盛り込むよう心掛けた。巻末には、本文に関わる日本語の参考文献のほか、本書で扱っている個々のテーマに興味を持った読者が大学図書館等で入手できそうな日本語の書籍や論文を「メソアメリカを知るための文献ガイド」として挙げた。なお、スペイン語やナワトル語など先住民語での地名や専門用語については、原語の発音や表記に忠実にカタカナ表記することを基本方針としたが、「メキシコ市」、「エルサルバドル」など一部、慣用に従ったものもあることをお断りしておく。
本書を手に取られた読者諸氏には、メソアメリカ文明が数千年かけて築き上げた文化的な豊かさ、さらにはその豊かな文化を作り上げた人々の息吹がしっかりと現在まで続いていることを感じ取っていただければ幸いである。それこそが編者ならびに執筆者一同の願いである。
(…後略…)