目次
謝辞
イントロダクション――犯罪とその説明に関する統一手法に向けて
学術的背景
本書の構成
おわりに
第1章 犯罪の組織的理解
従来の社会哲学に対する組織的代案
組織のCESMモデル
NBEPC 図式と犯罪の範囲
認識論的問題
犯罪に関する種々の説明
多因子及び複数レベルの犯罪モデル
結びに代えて
補遺――2つの定量的モデル
第2章 コミュニティの状況はどのような役割を果たすか?――社会的メカニズムと犯罪率の説明
定義及び背景的事実
貧困を超えて――社会的プロセス及びメカニズム
空間的なコミュニティ間ネットワーク
コミュニティレベルの理論の課題
結論及び示唆
第3章 個人、状況背景、犯罪行為――状況的メカニズムと犯罪の説明
犯罪とは何か。犯罪因果関係の理論は何を説明すべきか
犯罪の一般理論
科学的アプローチ
相関関係と因果関係の問題への取り組みの必要性
行動理論を持つことの重要性
古典的な行動理論
古典的な行動理論における主要テーマの評価
選択のプロセス
選択肢の認識
行動選択肢と選択プロセスの認識――個人や状況と行動を結び付ける状況的メカニズム
個人差の役割
環境により扇動される行動プロセス
Situational Action Theory of Crime Causation(犯罪生成の状況的行動理論)
第4章 行動遺伝学から得た反社会的行動に対する環境の影響を示すエビデンス
反社会的行動の原因を家庭内に求める理由
反社会的行動の研究はリスク要因ステージから抜け出せない
行動遺伝学研究はどのように役立つか?
環境的因果関係に関する仮説の検証
育児が子どもの攻撃性に及ぼす影響に関する行動遺伝学的研究
第5章 重大な非行の累積的3次元発育モデル
反社会性が形成されたり深刻化したりする発達的道すじ
リスク因子
リスク因子と非行との間の量的反応関係
保護因子
保護因子と非行の間の逆方向の量的反応関係
発育経路の3次元モデル、及び発育面から評価したリスク因子及び保護因子
評価や介入に関するモデルの妥当性
第6章 状況に応じた逸脱行動の自己抑制と社会的抑制――人生の経過に沿った発達と相互作用
序論
抑制メカニズムに対する体系的な見解
自己抑制の発達
社会的抑制の策定
自己抑制と社会的抑制との間の相互作用
自己抑制/社会的抑制と逸脱行動との間の相互作用
自己抑制と社会的抑制の環境的背景――コミュニティ
結論
第7章 犯罪離脱、社会的結束、人為作用――理論的探求
犯罪離脱に関する最新研究
人為作用――序論
Barry Barnes――作用、社交性、因果関係、責任
Margaret Archer――自己、感情、役割の実行
EmirbayerとMische――一時的に組み込まれた社会的関与のプロセスとしての作用
Jeanette Kennett――意思の弱さと自己抑制
考察と統合
「位置付けされた選択」と「促進的要因」
結論
訳者あとがき
著者紹介
編著者・訳者紹介
前書きなど
訳者あとがき
本書は、イギリスでSocial Contexts of Pathways in Crime(SCoPiC)という組織が、2002~2007年まで政府から資金援助を受けて進めてきた研究を集大成したものです。3点が研究目的として挙げられており、以下に要約します。
・反社会的傾向を有する個人と、犯罪が起こった社会的文脈の相互作用を明らかにする
・多学際領域にまたがって、犯罪の原因を明らかにする
・犯罪を減少させるような政策を後押しする
犯罪は多くの人の関心をき立てます。マス・メディアやインターネットでは刺激的な犯罪ほど注目を浴びますし、映画や小説で犯罪が多く取り上げられるのは、犯罪や犯罪者に対する人々の関心が高いことを証左しています。一方で犯罪は個人や社会に甚大な被害をもたらします。これらの理由から、世界中で犯罪研究が展開されており、膨大な知見が蓄積されているのです。しかし残念ながら、それらの知見が学際領域を超えて統合されることはあまりありません。洗練された高度な研究手法によって得られたエビデンスほど、専門領域以外の研究者に共有されることが難しくなるのです。
そのような背景から、本書はきわめて貴重な専門書であるといえます。本書の特徴は3つに集約されると思います。1点目は現代の犯罪学を牽引し、犯罪学のエビデンス構築において最も影響力のある研究者によって執筆されていることです。毎年6月に国際ストックホルム犯罪学シンポジウムという学会が開催され、ストックホルム犯罪学受賞者が選出されます。いわば犯罪学のノーベル賞といえます。本書の2名の執筆者が過去に受賞しており、選考委員を務めている方もいます。本書の執筆者たちは、犯罪学のスーパースターといってよいでしょう。私も何度かこの学会に出席し、執筆者の方々にお会いした折に、本書を日本語に翻訳している旨を伝え、挨拶をしました。皆さん一様に驚かれ、「よくまあたいへんな作業をしているね」と若干呆れながらも励ましの言葉をかけてくれました。翻訳中、不明な部分をメールで問い合わせると、間髪入れず回答が送られてきて、「一流の学者は違うなあ」と感銘を受けたものです。
2点目は究極的に学際的であることです。執筆者の専門領域は犯罪学を中核として社会学・心理学・遺伝学・精神医学・疫学・統計学・論理学など多様です。多様な学際研究では、同じことを表現するにも概念や用語が異なったり、論理の進め方が違ったりします。1つの問題を様々な角度から分析し、それぞれの主張を擦り合わせ、問題解決に導くのは非常に骨の折れる作業です。本書は高度な専門的分析に基づきつつ、一貫して、犯罪の原因や社会的文脈、メカニズム等について追究されています。そこにはSCoPiC構成者らが、他領域の研究者と障壁を打破して協働し、犯罪学を発展させていこうとする決意がみてとれます。
3点目は犯罪学のみならず、行動科学を専門とする研究者、大学院生にとって格好の専門書であることです。10人の執筆者は顕著な功績によって国際的に認知されていますが、本書では自身の研究成果や課題を1章に凝縮してまとめています。学術論文では述べられていない仮説や結論、問題点、および今後の研究の方向性についての考えが含まれており、興味深いと思います。犯罪学を学ぶ大学院生にとって格好の一冊になることを願っています。一方訳者の能力不足で誤訳、稚拙な翻訳が多く存在すると思います。なるべくわかりやすい日本語にするために、著者の意図とずれが生じた可能性も否定できません。読者からのご指摘をお待ちしております。
(…後略…)