目次
はしがき
序章 ホームレス状態からの「脱却」と支援
Ⅰ.ホームレス支援の新たな課題
Ⅱ.貧困・ホームレス研究と社会的排除
1.貧困と社会的排除
2.ホームレス状態と社会的排除――排除の3側面
3.ホームレス状態からの「脱却」の3段階――「実質的な脱却」と「場」による支援
Ⅲ.研究の課題と方法
1.研究の課題
2.使用するデータと研究の構成
Ⅵ.用語の確認
1.ホームレス
2.ホームレス状態を「脱却」した人々とその居住形態
3.更生施設と地域生活支援サービス
第1章 ホームレス問題と政策的対応
Ⅰ.ホームレス・ホームレス状態とは何か
Ⅱ.ホームレス問題の構成
1.「ホームレス」数の推移
2.基本属性
3.生活歴――職業の変遷と結婚歴
4.ホームレス――「住所喪失不安定就労者」
5.ホームレス状態に至る過程・要因――失業/親密な人間関係からの排除・離脱
Ⅲ.「ホームレス」問題の政策的対応とその成果
1.「ホームレス問題連絡会議」から「第2回基本方針」提出まで
2.「ホームレス」対策の成果
Ⅳ.ホームレス対策の課題――「実質的な脱却」に向けた支援
第2章 ホームレス状態を「脱却」した人々の生活状況と人間関係
Ⅰ.更生施設の位置づけと利用者の動向
1.更生施設の位置づけ
2.利用者の動向
Ⅱ.調査方法と用いるデータ
Ⅲ.ホームレス状態を「脱却」した人々の生活状況と人間関係の実態
1.基本属性
2.地域での生活状況
3.生活上の問題と不安の有無
4.地域社会での孤立――希薄な人間関係
5.「仕事の有無(形態)」と「普段過ごす場所」による対象者の3類型
Ⅳ.生活状況と人間関係の実態に差異をもたらす要因
第3章 ホームレス状態を「脱却」した人々の多様性
Ⅰ.調査方法と用いるデータ
Ⅱ.各類型の典型例からみる生活状況と人間関係
1.「職場型」
2.「自宅型」
3.「福祉型」
Ⅲ.量的調査との相違――CWとの希薄な関係
Ⅳ.進まない「脱却」の段階――親密な人間関係の形成の困難/自尊感情の喪失による自分自身からの排除の継続
1.親密な人間関係の形成を阻害する外的な要因
2.親密な人間関係の形成・回復から「逃げる」
3.人間関係を壊す
4.自尊感情の喪失による自分自身からの排除の継続
第4章 「場」による「脱却」の段階の進化
Ⅰ.研究フィールドとしての山谷・「山友会」
1.山谷地域の概況
2.「山友会」という「場」の概要
Ⅱ.調査方法と用いるデータ
Ⅲ.当事者の語りからみる「山友会」という「場」の意味
1.対象者の属性
2.ホームレス状態からの「脱却」の段階の進化――距離を置いた親密な人間関係の形成と自尊感情の回復
Ⅳ.「場」の条件とその具現化のための取り組み
1.「場」の条件
2.条件を具現化するための取り組み
終章 総括――「場」の保障に向けて
Ⅰ.本研究の知見
Ⅱ.ホームレス研究への貢献と本研究の課題
Ⅲ.今後の研究課題――「場」の保障に向けて
【引用・参考文献】
【巻末資料】「場」を利用するホームレス状態を「脱却」した人々の事例
事例A 50代後半/ホームレス状態の期間:約2年2カ月/脱却年数:約9年
事例B 40代後半/ホームレス状態の期間:約1年/脱却年数:約6年
事例C 50代後半/ホームレス状態の期間:約9年/脱却期間:1年2カ月
事例D 50代後半/ホームレス状態の期間:約3年4カ月/脱却期間:1年2カ月
事例E 60代前半/ホームレス状態の期間:約6年/脱却期間:約1年
事例F 70代後半/ホームレス状態の期間:約20年/脱却期間:約2年7カ月
事例G 50代前半/ホームレス状態の期間:約1年/脱却期間:約10年11カ月
事例H 40代後半/ホームレス状態の期間:約1年11カ月/脱却期間:約1年
事例I 70代前半/ホームレス状態の期間:約6年/脱却期間:約6年10カ月
事例J 70代後半/ホームレス状態の期間:約1年2カ月/脱却期間:約1年3カ月
事例K 70代前半/ホームレス状態の期間:約4年6カ月/脱却期間:約1年10カ月
あとがき
前書きなど
はしがき
(…前略…)
本書は、ホームレス状態からの「脱却」を支援する際に求められる視点と方法について論じようとするものである。しかしながら、先のような貧困対策の潮流をふまえれば、「ホームレス」だけに焦点をあてて議論を進めることに、違和感を覚える向きもあるかもしれない。だが筆者があえてこうした議論の立て方にこだわったのは、貧困状態にある人々の具体的な支援の在り方を検討するにあたっては、経済的な困窮の問題だけに焦点を当てるのでは不十分であり、人と人との関係性の問題や自尊感情の問題も含めて検討することが必要であると考えているからである。そして本書が焦点をあてる「ホームレス」は、貧困状態にある人々の中でもそれらの側面に対する支援が特に強く求められる対象である。なぜなら、彼らに対する社会的なまなざしが他の貧困状態にある人々と比べてとりわけ厳しく、また「ホームレス」自身がそのような厳しいまなざしを内面化してしまうがゆえに、ホームレス状態に至る過程で人との関係性から排除され(または自ら離脱し)、自尊感情までも喪失してしまうことが少なくないからである。したがって、貧困問題に絡むそれらの問題が端的に現れる「ホームレス」に対して、どのような支援を行うべきなのかということを検討する作業は、彼らに対する支援のあり方を検討する、という狭小的な議論に留まらず、同じく貧困状態にある別カテゴリーの人々の支援の在り方を考える上でも有益な知見を提供できると考えられる。このことが「ホームレス」に焦点を当てて支援の在り方を検討することの積極的な意義であり、また理由である。
もちろん、このような問題意識はさして目新しいものではない。2000年代に入り、ホームレス対策が本格化したことにより、「ホームレス」に関する研究も活発化し、彼らの生活実態や施策の成果についてかなりの部分が明らかになってきた。それらの研究の中には、先に示したような問題意識を共有している研究も少なくなかった。しかしそれらは、理念的なものか事例報告的なものに留まってしまっており、具体的な支援の方法論にまで踏み込んで検討しているものはなかったように思われる。本研究はこの点をふまえ、ホームレス状態からの「脱却」を支援する際に求められる視点や方法について体系的かつ具体的に論じることで、「ホームレス」に関する一連の研究に、支援論的な観点から新たな知見を付け加えることをねらいとしている。
(…後略…)