目次
はじめに
第1部 歴史的、政治的文脈
第1章 Sure Start の政治的背景
1.児童サービスの最近の動き
2.幼児サービスの背景
3.Sure Start の開始
第2部 Sure Start 地域プログラムの地域的文脈
第2章 不利益地域の特定――Sure Start 地域プログラムの地域特性
1.SSLP地区の分類方法
2.不利益と問題の社会人口的指標
3.児童保健と発達
4.サービス体制とアクセス
5.SSLP地区間の違い
結論
第3章 地域特性の確定
1.境界の定義と把握
2.プログラム地区とデータベースの連動
3.データの抽出と適用
4.SSLP地区の児童と家族の特定
5.SSLPと他の地域基盤企画との重複
6.地理的情報システムの限界――正確性と課題
7.SSLP地区の比較
結論
第3部 Sure Start 地域プログラムの実践
第4章 複雑な介入の評価のための方法論――今日的議論から
1.社会的プログラムの評価の発展
2.新しいコンセンサスの構築に向けて
3.複雑な介入─異なるタイプの問題
第5章 Sure Start 地域プログラム――実践課題の概観
1.プログラム実践の研究
2.実践測定法
3.組織と専門職の垣根を越えること
4.アクセスの段階
5.児童と親へのサービス提供の新しい方法
結論
第6章 Sure Start と児童・家庭の生活――早期介入プログラムの経験
1.政策の背景
2.テーマ研究
3.資源
4.人材の変化
5.スペース
6.時間
7.利用
結論
第7章 Sure Start 地域プログラムの費用と利益
1.経済的評価とは何か?
2.経済的評価はいかにして全国評価の他の要素に関係するか?
3.人的資源(human capital)論と幼児期介入
4.分析枠組み
5.主流のサービスとその費用
6.SSLPが用いた資源
7.次の段階の課題
第4部 Sure Start 地域プログラムの影響
第8章 Sure Start 地域プログラムの児童・家庭への影響
1.調査計画
2.統計分析
3.結果と考察
結論
第9章 Sure Start 地域プログラムの多様性――児童と家庭への影響
1.プログラム実践の熟達度尺度の開発
2.プログラムの多様性と児童・家庭への影響に関する4つの問題
結論
第10章 Sure Start 地域プログラム地区はどう変わったか
1.地域レベルの変化を記録する際の問題点
2.コミュニティ・レベルでの変化の調査方法
3.社会人口学的変化と無秩序の変化
4.児童の健康と発達に関する変化
5.サービス活動の変化
6.変化に関係する要因
結論
第5部 結論
第11章 Sure Start 地域プログラム――外部者の見解
1.新しい取り組みの必要性はあったのか?
2.政府の対応――Sure Start地域プログラムの開始
3.Sure Start地域プログラムの基盤となる証拠
4.Sure Start地域プログラム体制の内容
5.調査の評価
6.調査計画
7.まとめ
監訳者あとがき
編著者紹介
監訳者紹介・訳者紹介
前書きなど
監訳者あとがき
(…前略…)
本書の原書のタイトルは、“The National Evaluation of Sure Start”であり、評価の前提としてSure Start の膨大で複雑な全貌が手際よく分析、分類されている。Sure Start の全貌をこれほど要領よくコンパクトにまとめた書籍はほとんどないであろう。またそこで駆使された実践の評価手法は、心理学部と統計研究所をもつBirbeck校ならではの洗練されたものであった。Sure Start のようないわゆる「社会的プログラム」は、その明確な政策理念とは裏腹に実証的効果測定が大変、難しい。たとえば、本書で述べられているように社会的条件(人口構成、社会保障給率、犯罪率、学業成績、疾病、サービス供給体制、親の育児態度、……)、複雑多様な対策プログラムのどこが、どのように不利益児童・家庭の改善、すなわち児童の発達と親の子育ての変化にかかわっているのか? これを統計学的に実証するには、あまりに変数が多過ぎるといわざるを得ないのである。プログラム地区の境界確定、地域特性の抽出方法、独立変数(変化させるもの)と従属変数(変化させられるもの)の確定とそのデータ収集法など統計学上の難問は尽きなかった。その分、本書は「社会的プログラム評価の方法と実際」としても貴重な例でもある。今後、わが国も財政上、社会福祉政策の選択と集中を余儀なくされ、福祉領域での社会的プログラムの必要性が急速に増すものと考えられが、その場合証拠基盤(evidence-based)の評価法の開発が重要な課題になるであろう。またそれは、財政上の費用効果の問題としてだけでなく、児童の発達、福祉にどのような環境要因が影響を与えているのかを具体的、科学的に明らかにしていく上で貴重な基礎データ(証拠)を提供するであろう。
わが国の場合、伝統的な家庭重視志向(教育熱心、子どものいる家庭の離婚率の低さなど)と高度経済成長期の経済的蓄積、医療、保育や初等教育機関の発達などによって、欧米ほど「子どもの貧困」はそれほど深刻ではないという意見もあろう。しかし、今後、わが国も団塊世代の高齢化と少子化による「人口ボーナス」の減少や新興国の経済発展などによる経済成長の停滞・低下、医療費の増大や小児科の縮小、家庭や地域の絆の弱体化などによって、低家賃の地域に貧困児童・家庭が一定の地域に集中する事態も想定しなければならない時期に来ているともいえよう。その場合、本書で示されている経済給付と保育、学習、保健、親の就労などを有機的に組み合わせた地域総合支援プログラムの構築法、それを可能にする多機関・多職種の統合的対応法、そして証拠基盤の効果評価法が大いに参考になるであろう。
以上、本書は英国の代表的な地域のおける貧困児童・家庭対策プログラムであるSure Start の機能、実際の実践をその長所、短所また費用効果の観点から詳細かつ具体的に検討、評価したものであり、この分野、つまり福祉、教育、保健や地域福祉関係の政策担当者、ワーカーや研究者をはじめ、社会的プログラムの評価法に関心をもつ人にも有益なものであると思う。
(…後略…)