目次
はじめに
【第2版】刊行にさいして
Ⅰ 自然環境とその利用
第1章 国土の概観――アンデス高地・アンデス低地・オリエンテ
第2章 多様な気候――緯度と高度で大きく異なる
第3章 アルティプラノと山岳高地――広大な大地が秘める奥深さ
第4章 ユンガス地帯――コロイコ、チュルマニを中心に
第5章 ウユニ塩湖と南西部――大自然の応援力とともに生きる人びと
第6章 谷間地方へ――未知の歴史をいまなお潜めて
第7章 セルバ――きわめて多様な低地地方
第8章 資源――豊かな資源が経済基盤
【コラム1】時代の変化
Ⅱ 現代の社会
第9章 多様な社会――地域、民族、言語、所得、あらゆる面で多彩で複雑
第10章 国家の概況――政治・経済・社会の基礎データ
第11章 都市と人びと――首都ラパスと地方都市
第12章 ボリビアの先住民族――国民の6割が先住民族と認識
第13章 先住民族の言語生活――スペイン語とすべての先住民言語が公用語
第14章 アイマラ語――政治と人びとの暮らしのなかで躍動を続ける先住民の言語
第15章 貧困と社会――農村先住民社会の不安定な暮らし
第16章 開発戦略と国際協力――「善く生きる」ための開発とは
第17章 教育改革――PRE94と異文化理解・二言語教育のゆくえ
【コラム2】現在の教育制度と教育改革プラン
第18章 急増するプロテスタント――急進的なセクトの布教活動
【コラム3】ボリビアに暮らして
Ⅲ 複雑な政治・外交
第19章 「錫の世紀」とチャコ戦争――動揺する寡頭支配体制
第20章 ボリビア革命――早熟な未完の革命と遺産、労組と軍
第21章 民主化と市場化への転換――経済破綻から新経済政策へ
第22章 近代化の試み――「第二の革命」、先住民勢力の台頭、新経済政策の破綻
第23章 多民族社会の統治と民主主義のゆくえ――「協定による民主主義」の破綻
第24章 内陸国の国際関係――「海への出口」問題、麻薬対策、地域統合
第25章 投票箱を通じた革命――先住民出身大統領の誕生でむかえた歴史の幕開け
第26章 「ボリビア多民族国」の始動――対立を超えて進む改革
第27章 矛盾を抱える「民主的革命」――先住民政権のゆくえ
【コラム4】チェ・ゲバラとボリビア
Ⅳ 経済の変貌と現状
第28章 経済開発の諸条件――多様で広大な国土の開発と障害
第29章 農業――農地改革の形骸化と農業生産者の二極化
第30章 東部低地開発――食糧の自給化から輸出商品作物へ
【コラム5】東部低地の日本人移住地
第31章 鉱業モノカルチャー経済構造の変化――金・銀・錫から天然ガスへ
第32章 コカ経済の盛衰――伝統作物から麻薬原料のコカ栽培へ
【コラム6】コカとアンデス高地農民の生活
第33章 「新経済政策」の成果――ネオリベラリスモ20年の軌跡
第34章 リチウム資源――世界の資源量の約半分を占めるというウユニ塩湖
Ⅴ 歴史
第35章 チリパからティワナクヘ――古代文明の変遷
第36章 インカ帝国の進出――年代記に残るティティカカ湖地方の創世神話
【コラム7】ティワナク遺跡
第37章 アルト・ペルーの征服――支配の拠点としての都市建設
第38章 植民地時代――最大級の原住民人口を有したラパス地域
第39章 ポトシ銀山――世界の経済と権力の中心
第40章 18世紀のトゥパック・カタリの反乱――原住民による「国土再征服」
【コラム8】トゥパック・カタリ(フリアン・アパサ)
第41章 先住民の改宗事業――土着宗教と融合した独特のカトリック文化
【コラム9】チキトスのイエズス会ミッション
第42章 独立戦争――20世紀に持ち越された問題の原点
第43章 サンタ・クルスの野望――ボリビアの「栄光」
第44章 太平洋戦争(1)――戦争の過程
第45章 太平洋戦争(2)――戦後の保守党オリガルキーの時代
第46章 自由党の時代――サラテ・ウィリュカの反乱とアクレ戦争
Ⅵ 暮らしの風景
第47章 高地の人類学――カリャワヤ、ノルテ・デ・ポトシ、ティティカカ湖周辺
第48章 低地の人類学――開発と先住民が大きなテーマ
第49章 アラシタとエケコ人形――ラパス市の縁日
第50章 ラパス県農村の青空市――都市と農村との結節点
第51章 カリシリ――身体の脂肪を奪い取る
第52章 カリャワヤのアンデス的宇宙観――人類の口承・無形遺産の傑作
第53章 ウルクピーニャの聖母の祭り――国民統合の守護者
第54章 ウィランチャ――土着信仰とカトリックの混在・融合
第55章 オルロのカーニバル――歴史と文化をテーマに多種多様な踊りを披露
第56章 アイマラの死者儀礼――宗教観にもとづく死者の魂への観念に根ざす
第57章 コパカバーナへの巡礼――アンデスの神々に祈りを捧げる宗教の中心地
【コラム10】ボリビア高地民の衣装
Ⅶ 芸術・文化
第58章 建築――植民地時代の遺産と現代
第59章 美術――異文化の交渉のなかに刻まれた屈折の歴史
第60章 博物館めぐり――ラパスのセントロ、ハエン通りがおすすめ
第61章 古代からモデルニスモまで――ボリビアの文学(1)
第62章 ペドロ・シモセとパス・ソルダン――ボリビアの文学(2)
第63章 ウカマウ映画集団の軌跡――先住民族の復権に向けて
第64章 ウカマウ集団と日本からの協働――歴史観と世界観を共有して
第65章 豊かな食文化――多彩な食材をベースに地域色に富んだ料理
第66章 アウトクトナ音楽――祭事のための音楽
第67章 クリオージャ音楽――町で育まれた音楽
第68章 二つの音楽の融合――都市部と農村部の交流の産物
第69章 ボリビア・フォルクローレ――一つの音楽ジャンルを確立
【コラム11】管楽器
【コラム12】弦楽器・打楽器・その他
Ⅷ 旅への誘い
第70章 ボリビア南西部自転車縦断記――強風に向かって道なき道を
第71章 ボリビア高地で見た皆既日食――その時、太陽の子=インカの末裔たちは?
【コラム13】ティティカカ湖‐ポーポ湖
第72章 観光案内――高度に馴染むことが最も重要
第73章 登山・トレッキング――6000メートル超の高峰が連なる
ボリビアを知るためのブックガイド
前書きなど
はじめに
ボリビアは南アメリカ大陸中央部に位置する内陸国である。地球儀でその位置を確認すると、日本のほぼ裏側にあって、日本からいざ行くとなるとずいぶん遠いことがわかる。空路で正味20時間以上かかる。日本との時差はマイナス13時間である。
ボリビアというと読者の方々は何を思われるだろうか。アンデス高地の山岳の国というイメージが濃厚なのではないだろうか。きっとそうにちがいない。編者もこの国のことを本格的に学ぶ以前はそうだった。幻想的なティティカカ湖とそこに浮かぶ葦の島。トトラの舟が行き交っている。フォルクローレの音色が聞こえている。コンドルが碧空を舞っている。登山やスキーのメッカ、トレッキングにこと欠かないアンデスの魅惑的な希望の国にちがいないと。もしくはリャマやアルパカといったラクダ科動物が高原に群れている牧歌的風景やオルロのカーニバルの喧噪を思い浮かべる人もいよう。ボリビアへの旅が間近に迫ると、ガイドブックやパンフレットをいろいろと入手して調べることになる。その結果、たとえば次のようなことがわかるだろう。
昔からアイマラとかケチュアの先住民が住んでいて、ティワナク遺跡というのがラパス市の近くもしくはティティカカ湖近郊にあるようだ。インカの時代になるとコリャスーユとやらのエリアに属していたというから文明はかなり進んでいただろう。スペインによる長い統治の時代、つまり植民地時代があり、当時のボリビアはチャルカスと呼ばれていてスペイン文化がたくさん伝えられたこと。19世紀初めにシモン・ボリーバルや、ペルーから到着したアントニオ・ホセ・デ・スクレによって独立がなされ、共和国となる。かれらは現在のベネズエラ出身であり、独立・解放の英雄としてボリビアのナショナル・アイデンティティの象徴的存在になっている。独立記念日は(1825年)8月6日。国旗は数度にわたって修正が加えられ、1888年になってようやく今日のものが作られた。水平幅の均等な三色の帯からなる。帯の色は、上部が赤色、中央部が黄色、下部が緑色なのであるが、それには理由がある。赤はスペインと戦うボリビア人兵士の勇気を象徴し、黄もしくは金色は国土の豊かな鉱物資源を、緑は自然の豊かさを表しているという。この三色は、ボリビアの国花であるカントゥータとも符合しているようだ。カントゥータは鐘の形をした真っ赤な花を咲かせ、胴体は黄色、葉は緑である。
では、実際にボリビアに行ってみよう。エル・アルト国際空港からラパス市に着いた翌朝、ラパス市の中心部、国会議事堂のあるムリーリョ広場に行ってみる。そこで目にするボリビア国旗の一部が少し違っていることに気づくであろう。ボリビア国旗は全体が水平に三分されているわけであるが、中央の黄色部分にボリビア国家の盾形紋章(エスクード)が配置されているのが目にとまるからである。かといって7月16日通りを歩いてみると、その両脇の建物には国家紋章の入っていない国旗が翻っているのである。これはいったいどういうことであろうか。政府による公式行事の際とか、公共建造物に掲げられる国旗には、中央に国家紋章が入った国旗が使われるが、祝祭日などに民間人が使用する国旗には紋章は入っていないのである。
書店に入って、国家紋章を扱った本を探して読んでみる。まずは国家紋章の図柄を見る。上部にはいまにも飛び立とうとするコンドルがいる。中央部には楕円形が描かれている。その周囲に点在する緑は月桂樹とオリーブを表している。中央にはなにやらピラミッド形をした山が描かれている。その山麓(向かって左側)には一頭のアルパカとおぼしきラクダ科動物がおり、その右側には小麦の束とパンの木がある。山の左上には立ち昇る太陽が見える。
(…中略…)
本書の目的は、ボリビアという国の真実の姿をさまざまな角度から複眼的な視点や思考にもとづいて構築し、重要情報を体系的に読者に提供することである。21世紀の、まさにグローバリゼーションの時代におけるボリビアの真実の姿をご理解いただきたいのである。
本書は全体として大きく8部からなる。「Ⅰ 自然環境とその利用」「Ⅱ 現代の社会」「Ⅲ 複雑な政治・外交」「Ⅳ 経済の変貌と現状」「Ⅴ 歴史」「Ⅵ 暮らしの風景」「Ⅶ 芸術・文化」「Ⅷ 旅への誘い」である。ふつうならばここで編者が、各部、各章の内容を要約して示すところであるが、独断や偏見の発生を怖れ、割愛した。個性豊かな各執筆者の声を直接読者にお届けしたいからである。いずれの章からお読みいただいても結構である。
本書の執筆においては、関係者になみなみならぬお世話になった。人類学、考古学、社会学、政治学、経済学、歴史学、教育学、美術史、言語学、文学、写真、音楽、映画、探検、観光・登山・トレッキングなどさまざまな角度からボリビアの研究にたずさわってこられた多くの方々が参加してくださった。いずれも各界の第一線で活躍されている諸氏である。
本書の叙述に際してわれわれ一同は、真実や客観性、判断基準については厳格さをもってのぞんだつもりであるが、なお誤りがあるかもしれない。大方のご叱正を乞うものである。
(…後略…)