目次
序章 往還する人々の教育戦略
第1章 中華系・コリア系エスニック・スクールを選んだ保護者の教育戦略
第1節 アジア系エスニック・スクールの保護者に注目することの意味
第2節 中華学校を選択した華僑保護者の教育戦略
第3節 韓国系民族学校を選択した在日コリアン保護者の教育戦略
第4節 コリア系新設校を選択した在日コリアン保護者の教育戦略
第5節 エスニック・スクールを選択したニューカマー保護者の教育戦略
第6節 中華学校を選択した日本人保護者の教育戦略
第7節 エスニック・スクールの可能性――多様な保護者を惹きつける多様な教育機能
第2章 国際結婚家庭の教育戦略
第1節 国際結婚家庭とその子どもの現状と課題
第2節 日本の学校に通わせる国際結婚家庭
第3節 インターナショナル・スクールに通わせる国際結婚家庭
第4節 複数の学校システムを利用する子どもとその家庭
第5節 スイスの学校と日本語補習校に通わせる国際結婚家庭
第6節 国際結婚家庭の教育戦略
第3章 トランスマイグラントとしての日系ブラジル人――ブラジルに戻った人びとの教育戦略に着目して
第1節 はじめに
第2節 ブラジルへ帰国した家庭にみる教育戦略
第3節 帰国した子どもたちとその後の生活
第4節 まとめ――定住移民から往還移民へ
終章 3つの事例研究から見えてきたこと
第1節 はじめに
第2節 数字でみる「外国にルーツをもつ子どもたち」――2012年から眺める「これまで」と「これから」
第3節 「文化」継承のための親の戦略における言語の意義
第4節 移動する子どもにおうじた学校教育のために
第5節 「往還」という視点がもたらすもの
引用・参考文献
あとがき
編著者略歴・著者略歴
前書きなど
序章 往還する人々の教育戦略(志水宏吉)
5.本書の内容と構成
はしがきでも述べたように、本書は、大阪大学グローバルCOEプログラムの一環として立ち上がった、私(志水)を代表とする共同研究プロジェクトの最終成果物としてまとめられたものである。
2003年に東京大学から大阪大学に移った私は、研究チームを組織して、大阪におけるニューカマー研究に着手した。その成果が、2008年に出版された『高校を生きるニューカマー――大阪府立高校にみる教育支援』である。その本の中身がまとまった、ちょうどそのタイミングで先述の新たな研究プロジェクトを立ち上げることになった。多くのメンバーが、そのまま「継承プロジェクト」と言ってよい本研究のプロジェクトに参加してくれて、今日にいたるわけである。
「往還する人々の教育戦略」を新たなプロジェクトのテーマとして掲げたとき、メンバーの顔ぶれ・得意分野から3つのグループを編成し、それぞれで研究を進めていくという方針をとることにした。その3つのグループとは、「中国・韓国班」(リーダー:鍛治致)、「国際結婚班」(リーダー:山本ベバリーアン)、「ブラジル班」(リーダー:ハヤシザキカズヒコ)である。
「中国・韓国班」が対象としたのは、「在日」や「華僑」と呼ばれる両国にルーツをもつオールドカマー、および新たに両国から日本にやってきたニューカマーである。彼らは日本に在住する最大のエスニックグループであり、とりわけ私たちがベースにする大阪では彼らの存在感が大きい。中国と韓国をなぜ一緒に扱うのだと疑問に思われる読者もおられると思うが、今回私たちはあえて両者を一括して扱うことにした。私たちの問題関心のなかには、オールドカマーとニューカマーとの関係性も含まれていたが、日本に隣接する両国は、戦前期に日本の「植民地支配」を受け、また多数のオールドカマーが戦前から日本で生活してきたという歴史を共有するからである。
「国際結婚班」が対象としたのは、日本または海外で生活する国際結婚家庭である。特定のエスニックなルーツを持っているわけでないという点で、上記の2グループとは基本的に異なる性格を有しているが、日本社会における独自な存在として彼らを位置づけたいと考えた。ただ、漠然と国際結婚家庭というのはさすがに広すぎるので、今回は、「妻が外国人である家庭」を中心に扱うという限定をつけて考察の対象に据えることにした。なお、私たちが対象とした国際結婚家庭の妻の出身国は、アジア・南米・ロシア圏など多地域に分布していることもここで付け加えておく。
「ブラジル班」が対象としたのは、日本に在住する第三のエスニックグループである日系ブラジル人である。リーマンショック以降人口はやや減少したが、1989年に入管法が改正され、翌年に「日系人」カテゴリーが創設されて以来、デカセギにやってくる彼らの数はうなぎのぼりであった。日系ブラジル人については10年前の『ニューカマーと教育』でも考察の対象に据えたが、彼らは現代日本の代表的ニューカマーだと位置づけることができる。ブラジルという国は距離的あるいは文化的にかなり日本と隔たっているが、デカセギにやってくる日系人たちは日本と「血」でつながっている。その意味でも彼らは、きわめてユニークな特徴を持つエスニックグループだと言える。
以上の3つのグループが、それぞれで一つずつの長めの章を執筆した。はしがきでもふれたように、今回の研究プロジェクトでは、「往還する人々の教育戦略」という見出しのもとで、各グループがそれぞれの視点・アプローチで相対的に独自に研究を進めていった。聞き取り調査をベースにしているという点では共通しているが、分析の視点や背景となる理論的視角は同一というわけではない。したがって以下では、「往還する人々の教育戦略」というタイトルを共有する、3つの「物語」が順次展開されると考えていただければよいだろう。より日本的に表現すれば、「三題噺」が演じられるということになる。
まず、この序章に続く第1章では、「中国・韓国」グループが扱われる。関西にある3つの外国人学校における保護者対象の聞き取りデータをもとに、「オールドカマー」「ニューカマー」「日本人」という3つの保護者グループの教育戦略の諸相が描かれる。焦点となるのは、それぞれのグループを成り立たせている背景要因と多様な教育戦略との関連性である。
続く第2章では、「国際結婚家庭」が考察の対象となる。焦点となるのは、保護者の教育戦略の一つとしての学校選択である。国際結婚家庭が選択する学校を「日本の学校」「インタナショナル・スクール」「複数学校の利用」に分類したうえで、それぞれを選択した家庭の教育戦略が、主として外国人妻の視点から丹念に考察される。また、日本の状況を相対化するために、多文化主義的な色彩が強いスイスに在住する日本人妻たちの事例が付け加えられている。
第3章では、日系ブラジル人が扱われるが、ここで考察の対象に据えられているのが「ブラジルに戻った人々」である。これまでの研究では、日本への「定住」を前提として日本に暮らす子どもたちの学校適応や将来展望の問題が検討されてきた。「移動」の視点を大事に考える本研究では、ブラジルに帰国した保護者・子どもたちへの聞き取り調査を実施し、保護者の教育戦略と子どもの適応・育ちとの関係についての考察を展開した。
終章では、各章で展開された3つの事例的研究をもとに、「往還する人々の教育戦略」というテーマに対して、理論的・実践的に何が言えるのかの整理を試みた。では早速、本論に入っていくことにしよう。